第12話「何かある人」
昼過ぎだった。
日差しはやわらかく、風も強くない。
村の中は、いつも通り人が動いている。
いつも通りで、少しだけ違う。
ユルは歩いていた。
特に目的はない。
ただ、外に出て、そのまま足を動かしている。
すれ違う人がいる。
軽く会釈される。
前からそうだったかもしれないし、
少し違うかもしれない。
ユルは気にしない。
返すことも、返さないこともある。
井戸の方へ向かう。
いつもの道。
同じ距離。
途中で、村人が二人、立ち話をしていた。
声は小さい。
内容はよく聞こえない。
「……なんか、違うよな」
片方が言った。
言葉は曖昧だった。
「何が?」
もう一人が聞き返す。
「いや、あの人」
視線が、少しだけユルの方へ向く。
すぐに外される。
見てはいけないわけではない。
ただ、長くは見ない。
「何かあるっていうか……」
言葉を探す。
見つからない。
「まあ、普通じゃない感じ?」
雑なまとめ方だった。
それ以上細かくするつもりもない。
「……そうかもな」
もう一人も、強く否定しない。
納得したわけでもない。
ただ、違和感だけは共有される。
話はそれで終わる。
深掘りしない。
理由を探さない。
ユルは、その横を通り過ぎる。
会話の内容は聞いていない。
聞こえていても、気にしない。
井戸の周りに着く。
人はいる。
けれど、少し距離がある。
ユルが近づくと、ほんのわずかに動きが変わる。
道が空く。
流れが変わる。
誰も指示していない。
誰も意識していない。
ただ、そうなる。
いつもの場所に座る。
同じ位置。
同じ姿勢。
その周りが、少しだけ空く。
前よりも、はっきりと。
ティアナがそれを見ていた。
少し離れた位置から。
人の動き。
視線の流れ。
距離の取り方。
明確な理由はない。
けれど、確実に変わっている。
「……別に、普通だよね」
小さく呟く。
自分に言い聞かせるように。
ユルを見る。
何もしていない。
何も言っていない。
それでも。
周りの反応は、普通ではない。
「……普通じゃないのかな」
言い直す。
はっきりとは決められない。
近づくこともできる。
話しかけることもできる。
けれど、少しだけ間がある。
そのまま、立ち止まる。
風が通る。
音は小さい。
誰も大きな声を出さない。
誰も近づきすぎない。
けれど、遠ざかるわけでもない。
そこにいることを、受け入れている。
理由は分からないまま。
ユルは、目を開けた。
周りを見る。
人はいる。
動いている。
何もおかしくない。
少しだけ、首を傾げる。
「……なんか静かだな」
誰に向けたわけでもない言葉。
けれど。
その静けさは、もう当たり前になっていた。




