第11話「少し変わった日常」
朝だった。
いつもと同じ時間のはずだった。
光の入り方も、風の温度も、特に変わらない。
ユルは起きて、しばらくそのままいたあと、外に出た。
考えることはない。
いつも通り。
村の中を歩く。
人はいる。
動いている。
けれど、どこかゆっくりだった。
足音が、急いでいない。
声が、小さい。
何かを運んでいる者もいるが、
無理に早くしようとはしていない。
立ち止まっている人もいる。
話している。
短く。
必要な分だけ。
ユルは、それを見ても何も思わない。
そういうものだと思えば、それで済む。
井戸の方へ向かう。
途中で、荷物を持った村人とすれ違う。
以前より少し軽そうに見える。
量が減ったのかもしれないし、
気のせいかもしれない。
「最近、楽だな」
その村人が、隣の者に言った。
特に深い意味はない。
感想のようなもの。
「そうか?」
「なんか、無理しなくていい感じがする」
言葉は曖昧だった。
理由は説明できない。
「まあ……そうかもな」
相手も、はっきりとは否定しない。
考えたわけでもない。
ただ、少しだけ同じ気がした。
井戸の周りに着く。
いつものように、人はいる。
いつものように、少し間がある。
ユルは、同じ場所に座る。
背中を預ける。
何も言わない。
風が通る。
音は小さい。
けれど、聞こえる。
誰かが水を汲む。
桶の音がする。
静かに置かれる。
少し離れた場所で、子供たちが石を触っている。
積む。
崩れる。
また積む。
形は、前より整っている。
誰も教えていないのに、少しだけ上手くなっている。
ティアナが立っていた。
井戸の周りを見る。
人の動き。
声の大きさ。
間の取り方。
「……なんか、変わってきてない?」
小さく呟く。
誰に向けたわけでもない。
はっきりとは言えない。
どこがどう変わったのか。
何が原因なのか。
けれど、前とは違う。
それだけは分かる。
ユルの方を見る。
同じ場所に座っている。
何もしていない。
「……気のせい、かな」
そう言って、視線を外す。
納得したわけではない。
ただ、言葉にできないだけ。
風がもう一度通る。
誰もそれを止めない。
時間はゆっくり流れている。
急ぐ必要がないように。
ユルは、目を閉じた。
何も知らない。
何も考えない。
そのまま、少しだけ横になる。
地面の硬さも、特に気にならない。
村は、変わっている。
けれど、誰もそれを変えたとは思っていない。
ユルは、ただ昼寝をしていた。




