29 キンキ02
―――四ツ谷杯二日目 十一時○○分
ジュリアは真っ暗なトンネルを信濃町駅方向に走りながらドローンのリアルタイム映像を高速で検索した。そして「見つけました!」とつぶやく。
四ツ谷駅近くの414号線上に展開している渋谷部隊の集団に紛れて一台の軽トラックが映っていた。荷台には大きめの歩兵用のロケットランチャーが積まれている。
ジュリアは丼玉屋のジョディとして蓄積している画像データベースと照合し、それがアメリカ軍が冷戦時代に開発した戦術核兵器、デイビー・クロケットであることを確認した。
ジョディはデイケロメンバーと合流する前、周辺のドローンの映像をありったけダウンロードし、リアル世界のジョディのAIをフル稼働して画像解析処理していたのだ。そしてディケロメンバーとトンネル内で合流したタイミングでこの兵器の映像がヒットしたのだった。
「この兵器を使わせてはいけない私が止めなくては」
ジョディはトンネルを出ると崖を軽々と登って414号線に出た。周囲では銀猫の機械化部隊と渋谷の守備隊が激しい戦闘を繰り広げている、まさにその最前線だった。
渋谷軍の戦線は崩壊しかけていた。渋谷兵は四ツ谷駅に向かって敗走を始めており、踏みとどまって戦う者は少なかった。その真っ只中にジョディは突っ込んでいく。
何人かの渋谷兵がジョディに気付いて狙い撃ちにする。しかしジョディはその銃弾をかわしながら渋谷部隊の中に走り込んでいく。敗走する渋谷兵を何人か追い越した。
前方に四ツ谷駅が見えてきた。その傍に映像で確認したトラックが見えた。
『デイビー・クロケット』は既にトラックの荷台から降ろされ、一人の渋谷プレイヤーが三脚を組み立てている。
ジョディは走った。走りながらその渋谷プレイヤーを狙い撃つ。
渋谷プレイヤーがジョディに気付いて振り向いた。巨大な人型のトカゲのようなアバターだ。
ロキだった。
ジョディを見て少し驚いた表情をしたが、すぐにニヤリと笑う。
ジョディの撃った弾は右に外れた。
ロキは腰の拳銃を抜くとジョディに向かって発砲した。ジョディがその弾をよける。
「ほう、お前も同類か」
ロキが驚いたようにつぶやく。
ロキは立て続けに拳銃を発射するがジョディはそれをことごとく避けた。
ジョディがさらに距離を詰める。何人かの渋谷兵もジョディに気付いて狙い撃つ。そのうちの一発は大きく外れて地面に当たったが、運悪く跳弾してジョディの足首に命中した。
ジョディがよろけた。
ロキがジョディの胸のあたりに狙いを定める。
ジョディはロキの右指が引き金を引くと同時に右に体をかわす。しかしロキはそれを予想していたように、銃口をジョディが動いた方向に微調整する。
―――ダァン
銃声が響く。ジョディはよけきれないと判断して咄嗟に右手で防御したが、弾は手のひらを貫通して腹にめり込んだ、がっくりと膝を着く。
しかしジョディは力を振り絞ってライフルで反撃する、しかしその銃弾はロキに虚しくかわされてしまう。
ジョディも引き金を引く瞬間にロキが体をかわす方向に銃口を動かしたのだが、ロキの動きはジュリアよりも早かった。
それはジョディの最後の弾だった。
ロキは無抵抗になったジョディに歩み寄るとさらに一発、ジョディの肩に拳銃を撃ち込む。ジョディは「うっ」とうめき声をもらしてその場に座り込み、地面に両手を付いた。
「どういうアルゴリズムで動いているのかは知らんが、まあそこで人間が埃のように消し飛ぶ様を見ていろ」
「どうやってプルトニウムを入手したんですか」ジョディが苦しそうに問いかける。
「さあな」
ロキが発射スイッチを取り出す。
ジョディは悲痛な表情で消え入りそうな声で言う。
「や・めて・わた・しの・たいせつ・な・なか・・ま」
デイビー・クロケットはアメリカ軍が開発した戦術核兵器だ。第二次世界大戦後、各国は核兵器のぶっ壊れたオーバーキル具合に恐れをなし、ほどほどの破壊力で敵を殲滅できる核兵器を求めて研究を進めた。そして1960年代にアメリカが各国に先んじて、歩兵が手軽に運用できる『核』の開発に成功した。
しかしこれも結局は使われることはなかった。その後、急速に進化した電子機器をコア技術としたミサイルが主流となり、味方歩兵が被爆するリスクを冒してまで最前線で核を使用する必要はなくなったのだ。
BAPでは核兵器の購入はできなかった。兵器としての販売はもちろん無かったし、原料のプルトニウムの入手もできなかったので、自作することすらできないはずだった。ロキがどうやってこの兵器を所持しているのかは謎だったが、現に『核』はそこにあった。
ロキが無表情で発射スイッチを押す。
三脚に設置された核ミサイルが噴煙を吐きながら発射される。
ミサイルは高い弾道で千メートルほど飛翔し、渋谷から進撃して来ている品川軍部隊の真上で爆発した。
強烈な閃光、そして4000度の熱線により禁忌の火球から半径六百メートルの範囲にいた歩兵は全員が焼かれて死亡した。その範囲には一部の渋谷兵も含まれていた。車両も全て、衝撃波によって吹き飛ばされた。
品川陣営のC中隊の機械化部隊は九割の戦車と歩兵を失い、一瞬で潰滅した。




