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29 キンキ01

―――四ツ谷杯二日目 午後十時四十分


 真田たちが入って来た方向、トンネルの信濃町駅方面に小さい灯りが見えた。ディケロの四人に緊張が走る。

「隠れろ」

 ジョーが小声で言う。三人は銃を構えて体を低くする。ムサシは刀の柄に手を当てて腰を落とし居合の構えを取る。


 灯りは徐々に近くなり、四人のすぐ目の前まで来た。

「みなさんですか?」

 ジュリアの声だった。黒の全身タイツ姿だ。

「ジュリアさん、無事だったんですね!」春菜が彼女に駆け寄って抱きつく。


「みなさんもご無事でなによりです」

「ナミは?」

「ナミさんはやられてしまいました敵兵に囲まれてしまって」

「そうですか・・・」

「でも結局十八人の敵兵をなぎ倒しましたよ大活躍でした」

「ははは、ナミらしい」ジョーが苦笑する。


「外はどんな状況ですか?」春菜が質問する。

「銀猫さんの機械化部隊は赤坂御用地の手前まで攻め込んで来ていました」

「あと一息ですね」

「はい!もう少しだと思いますやっぱり友達と協力して何かを勝ち取るって素晴らしいことですね」

 ジュリアはキラキラと目を輝かせて三人を見つめる。彼女のベタな言葉と表情にメンバーは照れ臭そうに笑った。


 その時、突然ジュリアの顔が強張った。そのままフリーズしたように動きを止めている。

「どうしました?」

 真田が彼女の異変に気付いて声をかける。しかし返事は無かった。


 ジュリアはそのまましばらく固まっていたが、突然意を決したように言った。

「みなさん私行かなければならない用事ができてしまいました」

「用事? どうしたんですか急に」

 春菜が心配そうに聞く。


「とても大切な用事なのでみなさんとこの先に行くことはできなくなりました」

「ジュリアどうした? リアルの用事か?」

「いえ完全にBAPの用事です」

 ジュリアはそう言うと唐突に黒タイツを脱ぎ始めた。ジュリアの白い肌がトンネルの暗闇にぼんやりと浮かび上がる。

「ちょっジュリア、どういうつもりだ」

 ジョーが顔を背けながら言う。


 ジュリアはスーツを脱いで全裸になるとスーツをジョーに差し出した。

「この電磁メタマテリアルスーツ使って下さいまだ起動していないので使えるはずです故障じゃなければ」

 ジュリアの表情は真剣そのものだった。暗闇と完全なる対照をなすその白く美しい乳房を隠す素振りもなく、思い詰めたようにまっすぐにジョーを見つめている。

 ジョーもジュリアの目を見つめ返した。


「分かった、よっぽど大切な用事なんだな」

 ジョーはまるで自分に言い聞かせるように寂しげに言うと、差し出されたスーツを受け取った。

「裸じゃ困るだろうからこれを着ていけ」

 ジョーはそう言うと自分のスーツを脱ぎ始めた。ジョーの褐色の肌がトンネルの暗闇に染み込むように浮かび上がる。

「ありがとうございます」

 ジュリアはジョーの黒スーツを受け取ると素早く身につけた。


「では行ってきますみなさんごきげんようさようなら」

 ジュリアはメンバーにぺこりとお辞儀をすると、くるりと向きを変えて、元来た道を全力で走って行った。


「なんの用事なんでしょう」

 ジュリアの後姿を見送りながら春菜がぽつりと呟く。

「さあな、でもあいつがあそこまで言うんだから余程のことなんだろう。あとでゆっくりと訳を聞いてみよう」

 ジョーがジュリアのスーツを身につけながら言う。


「ジュリアさん、また会えますよね」

「何言ってるんだ、会えるに決まってるだろ」真田が怒ったように言う。

「ですよね」

 春菜は寂しそうに俯いた。


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