28 ゴショトンネル01
―――四ツ谷杯二日目 午後九時二十分
浜離宮の芳梅亭にディケロのメンバーが集合している。リーダーのジョー、ムサシとカーリー、ナミとジュリア、そして真田と春菜だ。
ドグラの銀猫から報告が入る。
『渋谷駅の制圧が完了した。これより乙班と合流して四ツ谷駅に転進する』
ディケロメンバーに歓声が上がり全員がガッツポーズを取る。
「ご苦労」こぶ茶が答える。
「では、そろそろ我々も出発します」
ジョーが立ち上がってこぶ茶に頭を下げる。ディケロメンバーは各自自分の装備を確認する。
「頼むぞ、最後の詰めだ」
「はい」
ディケロのG分隊は四ツ谷駅に潜入して撹乱を行い、銀猫の主侵攻を支援することになっていた。
メンバーはジョーのハンビーに乗り込み出発する。
浜離宮を出て新橋駅の南入り口から山手線環内に入る。SL広場で制限時間を過ごし前線に向かう。
四ツ谷駅南側の前線はGIジョージと中小チームの混成部隊が陽動作戦を遂行中で、赤坂御用地南側の国道246号線を挟んで膠着していた。両陣営とも激しく攻撃を行うが深追いはせず、ほどほどの間合いで一進一退を繰り返していた。
ディケロメンバーを乗せたハンビーは米国大使館の横を通り過ぎて赤坂に出た。そこからTBSの南側を迂回して、GIジョージ達が戦線を張る246号線に出た。
ジョーは路地にハンビーを隠す、メンバーが素早く降車する。
国道沿いの前線にはサンダースの姿があった。
「戦況は?」ジョーが近寄って話しかける。
「良くもなく悪くもなく」
「潜入できそうか?」
「まあ、できないこともないだろう」
「そこの門からハンビーで強行突破するのはどうだろう」ジョーが赤坂御用地の小さな門を指差す。
「悪くない、援護しよう」
ジョーは一旦路地に止めたハンビーまで戻る。待機していたメンバーが緊張した面持ちでジョーの顔を見る。
「ハンビーで突破する、乗車してくれ」
ジョーはメンバーを促すと砲兵のE中隊に電話をかけた。
「こちらG分隊、前線に到着した。援護砲撃を一分間頼む、座標を送る」
『了解』
品川陣営の砲兵隊のE中隊は先ほどの青山一丁目付近での戦闘の後、芝公園の南端付近に展開していた。
砲兵陣地は頻繁に陣地を移動する。射撃を行うと敵に位置を読まれて反撃されてしまうからだ。
ジョーからの要請を受けたE中隊の百五十五ミリ、及び九十ミリ榴弾砲三十門が一斉に火を吹いた。
品川の砲兵隊は数も性能も他の陣営に比べて見劣りする。しかし春菜が開発したドローンリンクシステムにより、命中精度はかなり高い。広範囲を砲撃するには火力不足だが、ピンポイントの集弾力なら他の陣営よりも優秀だった。
初弾は御用地の少し内側に着弾した。砲兵チームはそれをドローンの映像で確認し、照準をやや手前に修正する。次の二射目、砲弾は渋谷兵の布陣を直撃した。
さらに三射、四射と砲撃が続く。一分後、御用地の南門付近の渋谷兵は沈黙し、門は粉々に砕けた。
ジョーがハンビーを発進させる。同時にF中隊のメンバーが全戦線に渡って猛烈な援護射撃を開始する。その硝煙の中をハンビーが走り抜ける。そして国道246号線を一気に横切り、砲撃で砕けた門を通って赤坂御用地の敷地に飛び込んだ。
―――九時四十分
ジョーは御用地を少し入った木の下で車を止めた。メンバーが素早く降車し、敵のドローンに見つからないように木の下を選んで御用地の奥へ移動して行く。
中程まで進んだ時に香織が小声で言う。
「私、こっちです」
「おお、そうだったな。頼んだぞ」ジョーが手を上げて応える。
香織はメンバーとは別行動を取って、四ツ谷駅を狙える狙撃ポイントへ移動する手はずになっていた。
香織はちらりと風太郎の方を見た。彼は香織のほうには目を向けず、慎重にあたりを警戒している。香織は少し悲しそうな顔をしたが、すぐにいつものカーリーに戻って仲間たちに背を向けて、違う道を走り始めた。
カーリーが抜けた後の六人はまっすぐに北へ向かった。途中に赤坂御用地のほぼ中央に位置する池に出る。何度か渋谷兵の小隊が南方に移動するのに遭遇したが、その度に六人は物陰に身を潜めてやり過ごす。
六人の目的地は『御所トンネル』と呼ばれるトンネルだった。
信濃町駅から四ツ谷駅方面に向かう中央本線は程なくこの御所トンネルに入り、そのまま四ツ谷駅のすぐ傍まで続いている。つまりこのトンネルを通れば四ツ谷駅の守備隊に見つからずに駅のすぐ真横まで行けるのだった。
しかしこのトンネルに入るには難関があった。品川陣営の勢力圏からからこのトンネルに行くには、国道414号線をどこかで渡らなければならない。
六人はほどなく414号線に到着する。茂みから様子を伺うと、大勢の渋谷兵が移動しているのが見えた。渋谷駅が攻撃を受けて間もないので、プレイヤーたちは右往左往している。
「こりゃ敵のど真ん中に来てしまったようだな」
「どうします、行きますか?」真田がジョーに問いかける。
「行くしかないだろう、なんとかなるさ」
この状況は真田も予想はしていたので、そのための準備はしていた。フォークト博士が発明した『電磁メタマテリアルスーツ』だ。
フォークト曰く、このスーツは三分間だけ透明になれるとのことだった。透明の体で道路を横切ってトンネルに入り、トンネル内の物陰に隠れるまで百八十秒で移動する計画だった。
ちなみに真田がこの計画を提案した時、春菜は激しく反対した。理由はスーツが『黒の全身タイツ』だったからだ。春菜曰く、ダサすぎて恥ずかしくてお嫁にいけなくなると主張したのだ。しかし真田とジョーとこぶ茶が三人がかりでなんとか説得し、春菜はしぶしぶ承諾したのだった。
メンバーが茂みから様子を伺っていると、ちょうど目の前を通り過ぎた渋谷プレイヤーがメンバーが隠れている茂みの方を振り向いた。
「やばっ」
春菜が慌てて頭を下げる。
「目が合っちゃったかも」
路上が騒がしくなり、何人かが銃を構えてこちらに歩み寄ってくる。
「だめだ見つかる。全員スーツ起動だ!」
ジョーはそう言うとその場で服を脱ぎ始めた。下に着ていたスーツだけになり、最後に頭にフードを被る。そして腕の部分に取り付けてあるボタンを押すと、ジョーの姿がスッと消えた。真田とムサシも急いで服を脱ぐ。ジュリアとナミも脱いだ。しかし春菜だけはもじもじと躊躇している。
「何やってんだ、早く脱げ」
真田が春菜を急がせる。
「あーん、もう!」
春菜は半分やけくそ気味に上着とズボンを脱ぎ捨てた。
真田は腕のボタンを押す、自分の腕と胴体が消すっと透明になる。不思議な感覚だった。横を見ると春菜の体がまさに消えて行くところだった。ムサシの姿はもう見えなかった。
「よし、みんな走れ!」
ジョーの声だけが前の方から聞こえる。
「待って!」
振り向くとナミの姿が消えていなかった。ジュリアもタイツ姿で立っている。
「ダメ、透明になれない」
ナミはポンポンと腕のボタンを叩いているが、一向に消える気配がない。
「フォークトのクソ野郎、不良品を掴ませやがったな」ナミが毒づく。
渋谷兵が真田たちが隠れている茂みに分け入って来た。
ナミは手に持ったミニミ軽機関銃を発射した。渋谷兵がなぎ倒される。
「みんな、行って! 私はここで時間を稼ぐから」ナミが機関銃を腰だめに連射しながら叫んだ。
真田は414号線に躍り出た。前から渋谷兵がわらわらと集まってくる。しかし真田には全く気づかない様子ですぐ横を通り過ぎて行く。
真田は全力で走った。
道路を渡り終わった時、振り向くとタイツ姿のナミが吠えながらミニミを撃ちまくっているのが見えた。その横には、やはりタイツ姿のジュリアが銃を撃っている。ジュリアのスーツも故障だったのたろうか。真田は彼女達の無事を祈りながら前を向いて走り出した。




