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27 ヤマト01

―――四ツ谷杯二日目 午後七時


 大和の巨体は東京湾の横浜港沖に浮かんでいた。


 いや、厳密に言うと単に浮かんでいるだけでなく、ニノットの全速力で航行していた。全長263メートル、排水量6万9千トンの巨大な船体がじわじわと水上を進んでいく。

 ヤマモトとコタローは交代で仮眠を取った後、七時にブリッジに集合した。


「だいぶ来ましたね」コタローが陸の灯りを見渡しながら感慨深くため息をつく。

「ああ、こんなに遠出したのは初めてじゃないか」

 夜の闇の中に、月明かりに照らされてうっすらと横浜みなとみらいのビル群が見えた。

「漕いだ方が速かったかもしれませんね」

「全くだ、貧乏は辛いな」

「貧乏じゃありません、社長のお金の使い方がおかしいだけです」


 コタローはヤマモト電器の新入社員だった。若さに似合わずしっかりとした性格で、工場の先輩たちにも可愛がられていた。

「バイト達の様子はどうだ」

「社長命令で仕方なくやっている人もいますが、案外楽しんでいる人もいます」

「そうか、なら良かった」


「そう言えば、夜になっちゃいましたけど、ちゃんと撃てますかね」

「確かに。レーダーなんて高級なものは積んでないって言ったんだけど、ハルさんは大丈夫だって」

「あの人たちを信じて任せましょう」

「それよりも、全門斉射するのは初めてだが大丈夫だろうか」

「大丈夫です、きっと上手くいきます」

「そうだな」

「ではそろそろ私は配置につきます。バイトさん達を誘導しないといけないので」

「頼む、絶対に成功させような」

「はい!」

 コタローは元気よく返事をするとブリッジを後にした。


 アルバイトはヤマモト電器の従業員とその家族などを含めて三十人ほどが集まっていた。

 社長のヤマモトが一人一人勧誘したのだが、BAPとは何かと言うところから説明しなければいけなかったためかなり手こずった。

 ゲームの内容やVR端末の使い方などはコタローが説明会を開いて教育した。


 夕暮産業から砲弾が納品されたのは四ツ谷杯初日、土曜日の夜だった。そのため、二人はそのあと徹夜で砲弾の積み込みを行った。

 明け方に仮眠を取った後、二人はすぐにBAPにログインした。朝の八時にアルバイトの第一陣がログインして来るからだ。


 しかし案の定、何人かは時間通りに来なかった。コタローは個別に電話をかけて確認をする。ほとんどがBAPへのログイン方法が分からなかった者たちだが、他にも寝坊した者、単に忘れていた者、中にはログインしたまでは良かったが横須賀基地の中で迷ってウロウロしていた者もいた。

 コタローはそんな世話の焼けるバイトたちをなんとか取りまとめ、ヤマモトに引き継ぐ。


 ヤマモトはバイトたちを引き連れて大和の艦内をレクチャーし、砲弾の装填手順を説明する。しかし遅刻者が大量に発生したため開始時間が遅れたため十分な説明時間が取れず、途中で出港時間になってしまった。



 航海は順調だった。と言うか、順調過ぎてひどく退屈なものだった。なにしろ二ノットである。

 船が海上の風を切って進むあの独特な爽快感は全く無い。同じ景色が延々と続くだけであった。


 さらに、船が巨大なこともありほとんど揺れはなかったが、それでもVR酔いのアルバイトが続出した。ヤマモトは主砲の装填訓練は早々に切り上げてバイト達に休憩を取らせることにした。各自食事を済ませて、夜八時に再度集合することになった。


 休憩と言ってもログアウトする訳ではなく、単にVR端末を頭から外しておくだけだ。VR端末が外されたプレイヤーはBAPの中ではスリープモードになる。スリープ時は完全に無防備になってしまうのだが、海上では敵に襲われる恐れはないので問題は無かった。


 ちなみにスリープ状態のプレイヤーはただボーッと立っているだけになる。大和の艦内はあちこちでバイトプレイヤーがゾンビのように虚ろな表情で立ち尽くす異様な光景になっていた。


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