26 ヨコスカ02
ヤマモトとコタローの二人が呼ばれて部屋に入って来た。並んでソファーに座る。
ヤマモトには緊張感と言うものが全く無かった。
元々、彼は戦闘をするためにBAPを始めた訳では無いのだろう。純粋に『大和』という船が好きで、それを作ることに情熱を注ぐ技術者なのだ。都心で日々戦いに明け暮れるプレイヤー達が四ツ谷杯に込めている想いとは温度差があるのだ。
「ヤマモトさん、ご相談があります」真田が単刀直入に切り出す。
「はいはい、何でしょう」
ヤマモトが人懐っこい丸い目で真田をまっすぐに見つめる。どこか人を和ませる瞳だった。
「まずは砲弾の件ですが、こぶ茶さんと相談しまして支払い期限について夕暮産業と交渉してくれることになりました。あと、費用の足りない分は品川陣営の共有の資金で援助してくれるそうです」
「おお、それはありがたい!」
「最低限の三斉射分、27発を急ぎ発注して頂きたいと思いますが、間に合いそうですか?」
「以前、夕暮さんに頼んだ時は二週間かかりましたから、急いでもらってもぎりぎりですね」
「分かりました、ではこの後すぐに発注をお願いします。それから当日の作戦時刻ですが、四ツ谷杯二日目の夜に間に合うように射撃位置に着いて頂きたいです。そのためには恐らく日曜日の午後の二時か三時くらいには横須賀を出港する必要があります」
「砲弾が納品されてから積込作業がありますから結構ぎりぎりですね。ですが人員はどうにもならないと思いますが。なにせ極端な人出不足でして」ヤマモトはコタローと顔を見合わせて笑いながら言う。
「その件ですが、確かヤマモトさんはリアルで工場をいくつか経営していらっしゃいましたよね。大和プロジェクトが立ち上がった当時、ニュースで読んだヤマモトさんのプロフィールにそう書いてあったと記憶しているのですが」
「はい、そのとおりです。工場の従業員たちも私のこの道楽のことは知っていて、かなり呆れられています」
ヤマモトはあははと笑って頭をかく。
「では、今から従業員の皆さんに電話をかけてアルバイトを募集して下さい」
「はい?」
「アルバイトです。仕事内容はBAPにログインして大和の乗組員になること。勤務日は二週間後の日曜の朝から深夜零時までです。パソコンを持っていることを条件にしていただき、VR端末の購入費とバイト代はヤマモトさんの自費で賄ってください」
「真田さん、いったい何をおっしゃっているのか」
「大和を動かすんですよね、それがヤマモトさんの夢なんですよね」
「ですが、お話が急すぎます。従業員の理解が得られるとも限りませんし」
「ヤマモトさん、ちょっと考えてみて下さい。BAPの観戦システムはご存知ですよね」
「ええ、戦闘に参加しないプレイヤーが各陣営の視点で観戦できるモードですよね」
「日本の東京圏のイベントは世界的に有名です。しかも今回は賞金が破格ということもあって、多くのギャラリーが観戦するはずです。そこでヤマモトさんの大和が活躍すればどうなります」
「どう・・・なります?」
真田は根気よく説明を続ける。
「大和の活躍を見た誰かが、また資金の提供を申し出てくれるかもしれないじゃないですか」
「あ、そうか、たしかに。でも、百人ものアルバイトなんてさすがに無理だと思います。日当もバカにならないし」
「いえ、百人までは不要です。三十人くらいいればギリギリなんとかなると思います。初弾は前もって装填しておくとして、二射目以降は順番に砲塔を回って装填していけばいいんです。少し時間がかかるかもしれませんが、作戦の運用上は問題ありません」
ヤマモトの顔がパッと明るくなった。
「なるほど分かりました、そういうことでしたらやってみましょう。実はもう諦めていたんです。ここまで作ったのだからもういいんじゃないかって。でも、もう一度最後まで頑張ってみようと思います」
隣に座っているコタローも嬉しそうに何度も頷いている。
「よし、早速みんなに電話をかけるぞ。コタロー、手伝ってくれるか?」
「はい!」
「彼は実はうちの従業員なんです。私のくだらない夢に彼だけは最後まで付き合ってくれて、コタローには本当に感謝しています」
二人は抱き合って、がんばろうがんばりましょうと声を掛け合った。
ディケロのメンバーも嬉しそうに、二人を見つめた。春菜は目を潤ませている。
ヤマモトは真田たちに向き直って言う。
「申し訳ありませんが、大和の見学は今日のところは延期させて下さい。今から急いで砲弾の発注とバイトの募集しないといけませんので。それに、ちゃんと完成してから見て頂きたいですしね」
「はい、楽しみにしています!」
春菜は涙を拭きながら元気よく答えた。




