22 ドッグボム05
真田はマップを見ながら眉間にしわを寄せて首を傾げた。真田の様子に気づいたこぶ茶が声をかける。
「真田さん、どうかしましたか、何か気になることでも」
「いえ、気のせいかもしれませんが、どうも四ツ谷に侵攻している渋谷部隊の数が少ないような気がしまして」真田はマップを差して答える。
「現在四ツ谷駅の占領に向かっている渋谷部隊は歩兵が約800人、随伴する戦車は120両です」春菜がカウント結果を読み取って答える。
「たしかに歩兵の渋谷にしては微妙な数ですね」
「今回のフラグは守りにくいので、他陣営の反撃を考えるともう少し多くないと守りきれない気がします」
「犬爆弾で上野の戦車を壊滅させたから安心してるんじゃないですか、池袋もさっきの上野との戦闘で相当ダメージ受けてるし」
「うちはほぼ無傷だぞ」
「品川は単に眼中にないだけでしょう」
「渋谷駅にはそれなりの数の部隊が留まっているので、攻められたら救援を出せばいいと思ってるんじゃないかな」
「確かに、渋谷駅の予備部隊を出せば守り切れるとは思いますが、それならもう少し前、つまりこの辺に展開しておいたほうが素早く対応できると思うのですが」
真田はマップの青山公園のあたりを指差しながら首を傾げる。
「みんなご飯食べててログインしてない人が多いとか。ほら今ちょうど夕食くらいの時間でしょ」春菜は全く気にならないようだ。
全員が真田の顔を見つめていた。みな、口では楽観的なことを言ってはいるが、明らかに真田の不安が伝染しかけていた。
組織にとって不安や迷いは害にしかならない。一人一人の心に疑念を生み、集中力を欠いて仕事の効率が落ちミスを誘発する。指揮官はそういった感情をメンバーに悟られないよう心に収めておくべきなのだ。上に立つ者はあまり感情を表に出してはいけないと言われる所以である。
「河合、マップを広く表示してもらえるか」
「はい、えっとこのくらいでしょうか」
「もう少し、渋谷駅が端に収まるくらいに」
「こんな感じですか」
マップの縮尺がさらに小さくなり、右上に四ツ谷駅が、左下に渋谷駅が収まった。
マップの右上の四ツ谷駅に上野陣営の緑の点の塊があり、そのすぐ左と下から渋谷の赤い点の大きな集団が緑の点を包むようにじわじわと迫っている。
マップの左下の渋谷駅周辺にもやはり大量の赤い点が大きく固まって停止している。
「渋谷兵は今映っている赤い点で全部か?」
「はい、ドローンが識別している渋谷兵はこれで全部です」
「渋谷と四谷の間がぽっかり空いているな」
「空いてますね」
「この辺の映像を出せるか?」
「クリスタルタルさん、お願いします」春菜が指示を出す。
「どうぞ」
クリスタルタルがパソコンを操作すると、立体映像に切り替わる。夜間のためやや不鮮明だが、画像に補正を加えてあるためある程度は建物や道路の判別はできる。どの映像も路上は無人で、車両も一切見えなかった。
「ジャミング特有の画像の乱れもありませんし、やはりこのあたりは誰もいないんじゃないでしょうか」
クリスタルタルが振り向いて補足する。
「こちらのドローンがハッキングを受けている可能性は?」
「うーん、三重の防壁で固めていますからだいじょぶだと思いますが、今まで最初の防壁すら破られたことないです。ノブナガ、侵入の痕跡はある?」
「ないね、試した形跡すらない」
真田は眉間にしわを寄せて映像を食い入るように見ていたが、決心したように頷いて言った。
「やはりどうしても気になります。このエリアが全くの無人というのはむしろおかしいです。すみませんが、攻撃開始を少しだけ遅らせてもらえないでしょうか」
「いいでしょう、真田さんが納得する方法でお願いします」こぶ茶が頷く。
「河合、この辺りに飛んでる渋谷軍のドローンのハッキングもお願いできるか」
真田がマップを指差して春菜に指示を出す。
「こことここと、あとはこの辺りのエリアで」
「分かりました、十分ほど時間もらえますか? A小隊のみなさんお願いしまっす! ノブナガも手伝って」
真田は相変わらず眉間にしわを寄せて、マップを睨み続けた。




