20 キュウヨン
―――四ツ谷杯二日前 午前二時
深夜、ロキのBAPサブアカウントにメールの着信があった。
件名:94の件
ロキは本文を確認して、メールを消去する。
同時に恵比寿駅近辺に待機していたノルンが車を発車させる。
ノルンはロキのサブアカウントプレイヤーである。車はロシアの軍用車uaz469だ。
三十分後、ノルンは川崎港に到着した。
無人の埠頭に一台の軍用トラックがエンジンをアイドリングさせて停まっている。ノルンはそのトラックの横に車を停めた。
トラックの運転席から一人の男性プレイヤーが降りて来た。一抱えもある巨大なケースを手に持っている。
ノルンも車から降りる。ノルンは地味な戦闘服姿の女性アバターだったが、その美しい横顔に月の光が当たって絵画のように映える。
「94か?」ノルンが問う
「そうだ」男が答える。
男はノルンに歩み寄ると巨大なケースをアスファルトにそっと置く。
ノルンはケースに向かってしゃがみこみ、パスワードを入力する。
カチッと音がしてロックが外れる。
ノルンはケースの蓋を開けて中身を確認すると再び蓋を閉じた。
「問題ない」
ノルンがそう言うと、男はくるりと背中を向けるてトラックに向かって歩き出した。
ノルンはその男の背中に向けて指をタップする。男のハンドル名が表示される。
―――田中
NPCの紫色の文字だった。
「ふん」
ノルンは鼻で笑うとケースを車の後部座席に乗せ運転席に座る。
男のトラックが発車し、南の方角に走り去る。
五分後、ノルンも車を発進させ、渋谷方面に走り去った。




