16 ヒューイコブラ02
真田はこの作戦のために、現実世界の日比谷公園周辺を歩いて念入りに調査し、綿密な作戦を立案していた。GIジョージのフルメンバー440人全員がその計画に従って、前日の夜から小部隊に別れて日比谷公園に密かに潜入し、公園内の要所要所に深い塹壕を掘って身を潜めていた。
ちなみにGIジョージのメンバーは全員が無課金プレイヤーだ。
無課金ゲーマーはプレイ時間やプレイの工夫などでは課金者には負けないという彼らなりの誇りを持っている。ちなみに前日の夜から潜伏しているということはもうかれこれ15時間以上BAPにログインしっぱなしであり、さらに全員が隠れられる深さ1.5メートルの塹壕を一晩で掘ったのだった。
まさに、無課金魂である。
上野陣営の戦車隊の砲撃が始まった。公園のあちらこちらで火の手が上がる。
リーダーのサンダースが隠れている塹壕の近くにも砲弾が落ち始める。爆風で吹き飛ばされた土が頭の上から雨のように降り注ぐ。
しかし1.5メートルの塹壕に身をかがめて潜り込むことで、直撃を喰らわない限りほとんどの砲撃を防ぐことができた。
「派手に撃ってますね」
「ああ、だが闇雲に撃っているだけだ。大して怖くない」
サンダースの視界には日比谷公園周辺のマップが表示されている。マップ上には品川陣営の指揮所で集中管理しているドローン情報が表示されており、上野陣営の戦車の赤い点が点々と一列に並んで映っている。
サンダースが砲撃の合間を縫って塹壕から顔を出す。公園の外周の道路を走る上野陣営の戦車が木々の隙間を通してちらりと見えた。
マップ上の赤い点の列はまさに日比谷公園をぐるりと取り囲もうとしていた。
サンダースはスマートフォンで真田に電話をかける。
「真田さん、鳥がカゴに入りました」
「分かりました、では攻撃始めて下さい」
「了解!」
サンダースは一斉通話でGIジョージのメンバーに指示を出す。
「よぉし野郎ども、派手にぶちかませーー!」
すると、公園内の塹壕に身を潜めていたGIジョージプレイヤーが雄叫びを上げながら一斉に飛び出した。
「うぉーーー!」
「うぉーーー!」
「うぉーーー!」
何人かは飛び出してすぐに機銃掃射でなぎ倒される。しかしGIジョージプレイヤーはまったく怯む様子はなく、続々と飛び出して行く。
全員が携行型のRPG対戦車ミサイルを肩にかついで走り、何人かが射撃位置に着いてミサイルを発射した。
上野戦車も砲塔に内蔵された同軸機銃で猛烈に反撃するが、なにしろ人数が多すぎて全員を倒すことができない。GIジョージ隊のミサイルは一発、また一発と命中し、上野戦車は次々に破壊されていった。
「よし、こっちも動くぞ」
サンダースが付近の塹壕で待機しているプレイヤーに指示を出す。
「正面のエイブラムスが指揮車だ、撃破しろ」
「了解!」
塹壕に身を潜めていたプレイヤーが四人、RPGを手にして飛び出していく。
「うぉーーー!」
やはり大声で雄叫びを上げる。
二人が射撃位置に着く前に機銃掃射で倒されたが、後の二人がミサイルの発射に成功した。
ミサイルは二発ともエイブラムスの側面を直撃した。
「やった!」
しかし直後、ミサイルを撃った二人が機銃掃射でなぎ倒される。エイブラムスは無傷で、こちらに砲塔の向きを変える。
「だめか、さすがにエイブラムスは硬いな。ハニーの班はどうしてる?」
砲弾がサンダースの塹壕のすぐ前に着弾して爆発し、機銃弾が風切り音をあげて頬をかすめる。サンダースは目をつぶって頭を下げた。
「わかりませんが、たぶんどこかの塹壕に退避してると思います」同じ塹壕にいる副官のリトルジョンがやはり頭を下げながら答える。
「分かった、電話してみる」
サンダースは塹壕に深く座り込んで、スマートフォンで如月ハニーに電話をかける。
呼び出し音が鳴り電話がつながる。
「ハーイ、愛しのハニー、俺だぁ、サンダースだぁー・・・」
―――ブチッ
通話が切られた。
サンダースが再び電話をかけなおす。呼び出し音が鳴って再度つながる。
「申し訳ございません、ちょっと調子に乗りました」
『なんの用だ、さっさと要件を言え、こっちは忙しいんだ』如月ハニーのイライラした声が電話から聞こえる。
「はい、たいへん恐縮なのですが、硬い敵が一両いまして、ハニー様のチームのお力をお貸し頂けないかと思いまして」
『ふん、仕方ないな。さっさと座標送れ』
―――ブチッ
乱暴に通話が切られる。
「はあ、嫌われてるなぁ、俺はこんなに愛しているっていうのに」
サンダースは落胆の表情でがっくりと肩を落とす。
「リーダー、ドンマイです! 元気出してください。リーダーの想いはいつかきっと伝わります」
リトルジョンがガッツポーズでサンダースを励ます。
「ありがとう、お前だけだよ俺の気持ち分かってくれるのは。とりあえずハニーの班に座標と映像を転送してくれ」
「了解です!」




