10 チームディケロ02
上野陣営のリュウはタイガー戦車のハッチから双眼鏡で敵の動きを確認していた。
「ゴキブリが路地に逃げ込んだな」
「はい、そのようですね」
砲塔の後ろには歩兵部隊の隊長のヤマシロが同じく双眼鏡を覗き込んでいる。
「よし、歩兵は全員戦車に乗車、追撃戦に入る」
リュウが喉に当てたスロートマイクで命令すると、徒歩で移動していたプレイヤーたちが一斉に戦車によじ登った。
「ドローン情報回せ」
リュウの視界にマップと敵位置の赤い点が表示される。
「距離三百か、逃げ足の速いやつらだな、よし、差を詰めるぞ。敵は十人足らずだ、速攻でカタをつける、全車全速前進!」
―――ゴォン、ブォオン、ブブブブ
五両の戦車がエンジン音を轟かせながら加速する。
リュウが乗車する先頭車は第二次世界大戦にドイツが開発した重戦車、タイガーI型だ。整地での最高速度は時速四十キロ、百ミリの前面装甲と強力な八十八ミリ砲は当時の連合軍にとって恐怖の的だった。
タイガーI型は戦車の愛好家にとっては特別な戦車だ。その無骨なデザインと太く隆々とした主砲は頑強な『戦車』というカテゴリをまさに象徴している。そのためBAPの世界では特に人気があり、課金して購入するプレイヤーが多かった。
とは言え百年近く前の旧式の車体のため、近代戦車に比べると性能面で劣る。そこで、ほとんどのプレイヤーはさらに追加で課金してカスタマイズを行うことで戦闘力を向上させている。
リュウのタイガーも前面装甲は現代戦車に採用されている複合装甲に換装され、対戦車戦用のAPFSDS弾を発射できる主砲に置き換えられている。
上野陣営の戦車部隊がキャタピラの音を軋ませながら虎ノ門の交差点に差し掛かる。
「別動隊、新橋駅方面に逃すなよ」
ニ台の別動隊は品川軍の勢力圏の新橋駅方面への退却を阻止するため、本体と別れて大きく回り込んでいる。こちらは快速のスチュアート軽戦車だ。スチュアートは第二次世界大戦にアメリカ軍が採用した軽戦車で、整地で時速七十キロの高速を出せる。
三両のタイガーはキャタピラを軋ませながら虎ノ門の交差点に進入し次々に路地へ入って行く。
「距離は百五十か、よし見えたら撃つぞ、全車射撃準備!」
ドローンの偵察データによれば、路地の最初の角を右折すると比較的長い直線道路が続いており、そこに退却中の品川陣営の歩兵が見えるはずだった。
「見えた!」
正面の路上に女性アバターの兵士が一人、膝をついてこちらを向いていた。
「歩兵降車、各自散開して敵を殲滅せよ。主砲照準用意!」
タイガーの無骨な砲塔が重々しくゴリゴリと旋回して狙いを定める、射撃手がスコープに敵兵の姿をとらえた。
照準器に拡大された敵プレイヤーの姿が見える、美しい女性アバターだった。スラリとした長身にデニムジャケットとレザーパンツ、艶のある黒髪が眩しい。彫刻のように彫りの深い、女神のような顔立ちのアバターだった。ライフルのストックを地面に着けてグレネードの射撃体勢を取っている。
タイガーの主砲の照準が合った。
「射撃準備完了!」
「よし、てっ!」
射撃手が引き金を引くと同時に、照準器の中の女性兵士もグレネードを発射するのが見えた。
タイガーの砲弾は女性兵士の上を通り過ぎ後方にはずれた。女性兵士はグレネードを発射すると悠々と脇の路地に入って行く。
次の瞬間、猛烈な炎が先頭のタイガー戦車の車内に充満した。
「!!!」
車長のリュウは炎に焼かれて即死した。女兵士が撃ったグレネードが車体後方のエンジンに命中してガソリンが誘爆したのだった。




