08 ムサシ03
風太郎がビルの陰から飛び出すと、二人の上野プレイヤーはすぐ目の前にいた。風太郎は素早く相手との間合いを図ると小さく踏み込んで下段から刀を斬り上げた。パッと血しぶきが上がり手前の上野プレイヤーが倒れる。もう一人のプレイヤーが慌てて銃を構えようとしたが、風太郎が刀を斬り下ろす方が一瞬早かった。
二人目のプレイヤーはかろうじて引き金は引けた。がしかし、左腕は真っ二つに斬り落とされ、支えを失った銃は重さで下を向いてしまい、発射された銃弾は虚しくアスファルトにめり込んだ。風太郎はそのまま返す刀で、その敵兵を横薙ぎに斬り払う。胴が真っ二つになる。
敵兵を倒した風太郎は刀を鞘に収めると、再び全力で走り出す。
今頃ディケロの仲間たちはどうしているだろう、誰か撃たれているんじゃないか、不安な思いが頭をよぎる。自分がしっかりと役目を果たさなければ彼らが窮地に陥ってしまう、そう考えるだけで風太郎の足取りにはより一層の力が入る。
彼は物心ついたころから厳しい修行を強いられて来たから、子供同士で遊んだ経験が少なかった。そのためか、中学や高校でも友達との関係というものがよく分からず、親しい友人は一人もいなかった。
剣の修行が生活の大部分を占めていたから、同年代の仲間と話が合わなかったということもあっただろう。部活にも入らず、授業が終わるとまっすぐに帰宅して居合の練習をする毎日だった。
社会人になっても同僚と飲んだり遊びに行くことなどは無く、ただ朝出社して夜帰宅するだけだった。しかし彼はそれを孤独だと感じたことはなかった。
そんなある日、インターネットを見ていた時に『BAP』という戦闘ゲームがあることを知った。『戦闘』という言葉に引かれ何気なく始めてみた。そこでディケロのメンバーと出会った。
ゲームとは言え自分の命を預け合う仲間、そう、風太郎はこの時初めて『仲間』という単語の意味と価値を朧げに理解したのであった。
『自分の技は仲間のために』
今の風太郎の心の中心にはこの言葉が柱のようにどっしりと立っている。
日比谷通りに出た。風太郎は足を止め、通りの様子を伺う。
前方に炎上中の戦車が見える、その横で敵プレイヤーが銃撃を行なっている姿が見える。距離は二、三十メートルほどだ。誰も彼に気づいている様子は無い。
風太郎は一瞬のためらいもなく通りに飛び出した。文字通り、風のように駆けた。
一番手前で膝撃ちを行なっていた敵を駆けながら抜き斬りにする。敵は声をあげる暇もなく絶命した。そのまま駆けてすぐ隣の伏射の男を斬る。
その横の敵が気づいて風太郎を撃とうとしたが、凪斬りにされて仰向けに倒れる。さらにその横の男もほぼ同時に両断された。
少し離れた位置にいた敵が慌てて立ち上がって風太郎を撃とうとしたが、体を起こした瞬間にカーリーに頭を狙撃されて倒れた。
炎上する戦車の左側に展開していた上野プレイヤーは十秒も立たないうちに完全に沈黙した。




