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07 トラノモン02

「さて、どうしようか、とりあえず虎ノ門あたりに行ってみるか」

 ハンヴィーは軽快に新橋の街を走り抜けていく。現実世界ならこのあたりは車や人で混雑しているはずだが、BAPの世界では時折動物の姿を見かける程度で、人間の気配は無かった。まるで無人の遺跡を進むような、気持ちの良いドライブだった。


 ほどなく虎ノ門の交差点に出た。ジョーが車を止めると、メンバーは車から降りてあたりを散策する。桜田通りは全くの無人で、秋の日差しが少しまぶしかった。

「いい天気ですね、のんびり日向ぼっこしてもいいかも」

 ナミが伸びをしながら言う。彼女は先ほどのほぼ全裸アバターから着替えて、今は白いビキニにゴツい黒の軍用ブーツのアバターに着替えている。


 他のメンバーも思い思いにぶらぶらと虎ノ門の街を歩き回っている、とても戦争をしに来ているようには見えなかった。

「BAP内の天候は現実世界の天気と同じに設定されているんですよ」春菜が解説する。

 真田はディケロメンバーのリラックスムードに流されて初陣の緊張感はすっかりなくなっていた。


 その時、春菜の携帯が鳴った。恋のマイアヒの着信音だ。

「もしもしー、うん、うん、分かったー、ありがとねー」

「誰からだ?」真田が問う。

「ノブナガからでした、国会議事堂方面を警戒中のパロパロ君が敵を見つけたって。パロパロ君の映像は私のパソコンにリアルタイムで送っててノブナガがチェックしてくれているんです」

「なるほど、あのグウタラ猫も一応仕事してるんだ」


「誰がグウタラだって?」

 突然、ノブナガの声が割り込んでくる。気づくと真田の視界の左上にノブナガのアイコンが表示されだみ声を発している。「十一時の方向、距離五百に上野陣営のプレイヤー、小隊規模だ。ぐずぐずしてる暇はないぞ」


「ですって、隊長どうする?」春菜がジョーに問いかける。

「敵の編成と武装を教えてくれ」

 ジョーの視界にもノブナガが表示されているのであろう、空中に向かって話しかけている。どうやらノブナガはディケロのナビゲーターのような役割らしい。


「あー、戦車1、軽機関銃3、重機関銃1、ドローンは三機飛ばしてて全部偵察用っぽい。隊列は右四人、左四人、真ん中に五人と戦車一両、少し離れた後衛に六人、まっすぐこちらに向かって来てるぜ。ジャミングしてるからまだこっちには気づいてないと思うけど、とりあえず映像送っとく」

 真田の視界に小さい半透明のウィンドウが開き動画が流れた。高いところから見下ろした映像で、戦車を中心にして軍服にヘルメット姿の集団が談笑しながら歩いている動画が流れる。


 その後、ウィンドウがいくつかに分割され、敵一人一人のアップの映像に切り替わる。なにやら話をしているが音声は聞こえないが会話内容は字幕で表示されている。

「これ、ノブナガが読唇術で読み取って字幕出してるんです」春菜が解説する。

「ノブナガ、戦力分析して」

「あいよ」

 ノブナガが不機嫌そうに敵集団の解説を始める。


「こいつらアホやな、アホ、隊列は小学生の遠足レベル、リーダーは多分こいつだけどリーダーらしい仕事はなーんもしとらん」

 一人の男性プレイヤーの顔がアップになる、若い大学生風のやや幼い顔立ちだった。字幕には昨夜の合コンの話が延々と流れている。


「でも装備はそこそこなんじゃない、戦車持ってるし、軍服とか揃えちゃってるし」

「まあそれなりに課金してるっぽいけど、使う奴らが素人だからただのガラクタだ、話にならん。脅威度は2かせいぜい3ってとこだな」

「リーダー、どうしますー」

 春菜がのんきな声で問いかける。


「そうだな、カモっぽいから軽く狩っとくか。真田さんの初戦にはちょうど良いかも、みんなやるかい?」

 リーダーのジョーが問いかける、他の四人が順番に答えた。

「やります」「やりましょう」「行きましょう」「弾をぶち込んでやるぜ」


 満場一致だった。真田は少し不安になって春菜に聞いた。

「大丈夫なのか? 人数はこちらの三倍近いし、戦車もいるんだろ?」

「そうですねぇ、まあなんとかなるでしょう。うちのメンバーみんな優秀だから」春菜は笑顔で答える。

「じゃあハルちゃん、状況のブリーフィングよろしく?」


「はーい、パロパロ君二機は北北西方面に展開、ターゲット追尾中です。北東の一機は有楽町方面を警戒、こちらは敵影なしです。西と南に一機ずつ飛ばしていてこちらも敵影なし、もう一機はローテーション予備でハンヴィーで充電中です。どら焼き君はこちらの上空をジャミング中、敵ドローンのカメラとセンサーは四機ともハッキング済みで、ディケロメンバー全員の姿を消去済みです」


「オッケー、じゃあ待ち伏せはここ虎ノ門の交差点、フォーメーションはいつものBで行こうか、ムサシ、行けるか?」

「はい、問題ありません、右ですか左ですか?」

「安全策で最初は様子見で行こうか、後ろに下がってくれ。ここの地形だとたぶん後で右からになると思う。ハルちゃんダミーよろしく、南に百メートルの位置に六人分で」

「了解しました!」春菜は敬礼で答える。


「左にナミとハルちゃんと真田さん、右に俺とカーリーとジュリア、ムサシは後ろで待機、全員配置についたらジュリア、戦車をよろしく。じゃあ状況開始ってことで」

「了解!」

 ジョーが指示をだすと全員がいっせいに返事をして素早く配置に着く。無駄の無い慣れた動きだった。

 真田は左寄りに散開してナミと春菜の間で伏射の姿勢を取った。


 少し待つと前方からエンジン音が響いてきた、地面の小石が振動で震える。その振動が徐々に大きくなり、財務省の建物の角から一両の戦車が姿を現した。戦車の左右には何人かの歩兵が徒歩で随伴している。彼らはディケロメンバーには気づいていない様子で、注意深くあたりを見回しながら近づいてくる。


 上野陣営の戦車はM4シャーマンだった。第二次世界大戦でアメリカ軍が使用したベストセラー戦車だ。重量三十トン、前面装甲七十六mm、速度は整地で時速四十キロ、武装は五十二口径76.2mm戦車砲一門、7.62mm機関銃M1919がニ丁、さらに砲塔の上にオプションの12.7mm重機関銃M2が一丁、歩兵にとっては恐ろしい兵器である。対戦車用の装備を持っていなければまず勝ち目はない。


 確かジョーはジュリアに戦車を任せるような事を言っていたが、真田はそう思ってジュリアのほうを見た。彼女は膝をつきライフルのストックを地面に着けて銃口を斜め上に向けて構えている。銃身にはグレネードが装着されている。


『曲射?』

 真田は直感的にそう感じた。グレネードを山なりに発射して戦車の装甲が薄い上面を狙うというのか? まさか・・・


 曲射は水平に射撃するのとは比べものにならないほど難しい。野球の投球とゴルフのショットを思い浮かべれば分かりやすいだろう。前者が水平射撃、後者が曲射だ。

 投球が目標を『線』で狙えるのに対して、ゴルフは山なりに『点』をピンポイントで狙う必要があるため難易度は格段に上がる。

 しかも銃による射撃は微妙な力加減ができないし、さらに目標は動いているのだ。


「普通は当たらないです」

 びっくりした表情でジュリアを見つめる真田に春菜が解説する。

「でもジュリアさんは特別なんです。ドローンから送られる映像を元に、距離、相対速度、高低差、風向き、全てを正確に計算して命中させるんです。今のところ命中率九十五パーセントくらいかな、戦車の上の開いたハッチを狙って中に入れちゃったこともあるんですよ」

「ハッチに? 直径一メートルもないじゃないか」

「いいから、すぐ始まりますよ、真田さんも構えて」


 戦車の周囲には左右に四人ずつ歩兵が随伴している。その内、左から三人目の敵プレイヤーの輪郭が赤く縁取られて見えている。

「敵が赤くなって見えてますか?」

「ああ、これは何だ?」

「私がプログラミングした射撃管制AIシステムです。目標が複数あるときに味方同士でターゲットが被らないように自動的に割り振りを決めて味方の視界におすすめのターゲットを表示するシステムです。敵との距離、敵が向いている方向、武器の脅威度や味方の配置とか障害物とか、メンバーのスキルも加味してリアルタイムでターゲットの割り振りを行います」


 そのとき、短い発射音がしてジュリアがグレネードを発射した。弾は高い放物線を描いてシャーマン戦車に向かって飛んでいく。敵戦車はまっすぐこちらに向かって進んでくる。

 弾頭は最高点を境に次第に落下し、ピンポイントでシャーマンに命中した。


『ババーン!』

 砲塔の後ろ側のエンジン部を直撃したらしい。

 凄まじい爆発音とともに火柱が上がった、ガソリンエンジンに引火したらしい。

「撃ち方始めっ!」

 ジョーが大声で指示を出す、と同時にディケロメンバー全員が一斉に射撃を始める。

 周囲に硝煙が立ち込める。


 真田も慌てて狙いを定めて赤く縁取られた敵兵を撃った。しかし一瞬遅れたため敵が伏せて狙いを外してしまった。ナミ、春菜、ジョーの三人は初弾でそれぞれ一人ずつ、カーリーは二人を倒した。


『ドドーン』

 シャーマンが誘爆を起こし、炎を吹き上げながら少し斜め前に進んで歩道に乗り上げて停止した。敵の戦車は一発も弾を撃たないうちに沈黙した。


「オーケー、ナミ頼むぜ」

「了解、行っきますよー」

 ナミが機関銃を猛烈に撃ち始める、彼女の装備はアメリカ軍が採用しているFN社製ミニミ軽機関銃だ。


『タタタタ、タタタ、タタタ』

 ナミは伏射の姿勢で豪快に撃ちまくる。彼女のミニミは毎分七百発の連射が可能だ。敵全体にまんべんなく正確に弾丸を撃ち込んでいる。燃え上がる戦車の後方から次々に敵プレイヤーが走り出して来るが、ナミの連射に圧倒されてなかなか前に出られないでいる。

「はははは、どうしたどうした、このヘナチンどもがー」

 ナミは吠えながら撃ちまくる。


 真田も狙いを付けて撃つがなかなか命中しない。春菜が気づいてサポートする。

「真田さん、うちらは当てなくてもいいんです、敵に頭を上げさせないように、弾幕を張るイメージで撃ってくださいっ」

 真田は精密に狙うのをやめ、赤枠で囲まれた敵兵の周囲をなぞるように連射するようにした。一人の敵がジュリアを狙おうとしていた。真田はその敵の前方のアルファルトを狙って弾をばらまく、すると敵兵は頭を下げた。

 チラッとジュリアのほうを見ると、彼女がこちらを見てにっこり微笑む。


「リロード! 三秒よろしく!」

 すぐ横でナミが叫んだ。するとメンバー全員が連射モードで激しく撃ちまくり始めた。ナミが頭を下げて素早く弾帯をセットし、すぐに顔を上げると再び猛烈に撃ち始める。


「ひゃっはー、私に突っ込んでくれる絶倫男はいないのかい? この役立たずどもがー!」

 ナミは卑猥な言葉を叫びながら撃ち続ける。

「リーダー、右から二人回り込んできます」

 春菜が射撃音に負けないように大声で報告する。真田が視界のレーダーを見ると、確かに赤い点が二つ、向かって右方向に移動している。


「動いたか、ムサシ、出番だ」

 ジョーが後ろを振り向いてムサシに声をかける。

「了解です、それでは行って参ります」

 ムサシはサッと立ち上がると後方の路地に消えて行った。


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