06 テンノウズアイル02
BAP世界での春菜のスクーターは赤のベスパだ。現実世界で彼女が乗っているのと同じ車種だが、リアルのは原付でBAP内のは125ccだった。
ハンドルの前に縦にライフルを挿せるホルスターが左右一つづつ付いており、今日は八九式とM16が並んで納まっている。春菜が運転、真田は後部座席で春菜の腰につかまって座っている。
スクーターは軽快にエンジン音を響かせながら天王洲アイルに向かっていた。
チームディケロは天王洲アイル駅前のビルの一室と、そのすぐ隣の天王洲公園にある野球場を買い取って本拠地にしていた。リーダーはハンドルネームをジョーと言って、春菜曰く『気のいいちょいワルオヤジ』なのだそうだ。
メンバーは最近一人加入して八人、今日は九人目のメンバーとして真田を迎える歓迎会だった。
天王洲アイルは春菜の青物横丁の自宅からスクーターで五分ほどの距離だった。春菜は野球場の駐車場にバイクを止める。
すぐ横には巨大な戦車が駐車していた。確か、第二次世界大戦の旧ソビエト連邦のT34という中戦車だ。
ダークグリーンのスマートな車体に、やや前のめりの位置に砲塔が乗っている。転輪が巨大で人間の腰の高さほどもある。砲塔の側面にはヌードの女性のイラストが大きく描かれている。
「あ、ジャッキーさん来てくれたんだ、今日は予定があるから来れないって言ってたんですけど」
春菜が戦車を見上げながら言う。
「大きいな」真田も見上げる。
「この戦車はうちのメンバーのジャッキーさんの愛車です」
春菜はバイクを降りて野球グランドのほうに歩いて行く。真田は戦車を見上げながら春菜の後に続いた。
グランドに入ると三塁側のベンチで数人のプレイヤーが話をしていた。
「こんにちはー!」
春菜が手を振りながら近づいて行く、プレイヤー達がこちらに気づいた。
「やあハルちゃん、こんにちは」
口髭の男性が顔を上げてあいさつをする。他のメンバーもこちらを見る。
「遅刻してすみません」
春菜がペコンと頭を下げる、つられて真田も頭を下げる。
「そちらが真田さん? ようこそディケロへ、私はリーダーのジョーです、よろしく」
口髭の男性プレイヤーがお辞儀をする、米海兵隊の革ジャン姿だ。
「真田です、まだ初心者なので足を引っ張ってしまうかもしれませんが」
「大丈夫ですよ、ハルちゃんの紹介ならきっと大活躍です、はははは」
ジョーは肩を揺すって豪快に笑った。
「真田さんよろしく、俺はジャッキー、戦車乗りだ」
ジョーの隣にいた男性プレイヤーが真田に握手を求めてくる。旧ソビエト連邦の戦車兵の軍服にキャップをかぶっている。戦車の中は狭いので車内の突起物に引っかからないように、通常の軍服よりもシンプルなデザインになっている。
「あの駐車場に停めてあったT34ですね」
「お! 戦車わかるのかい?」
「ええ少しなら、ソビエトのT34は有名ですし。第二次世界大戦の最優秀戦車とも言われてますよね」
「嬉しいねぇ、ほとんどのプレイヤーは戦車なんてどれも同じって思ってるけど、いやー真田さんとは仲良くできそうだよ、よろしく」
「ジャッキーさん久しぶりです、今日は会えないかと思ってました」春菜が会話に入ってくる。
「この後仕事行かないといけないから戦闘には行けないんだけど、新人さんに挨拶だけでもしておこうと思って」
「相変わらず忙しいんですね」
「じゃあうちのダブルエースを紹介しよう」
ジョーがメンバーの紹介を始める。
「こっちがセイリュウ、侍だ。呼びにくいのでみんなムサシって呼んでる」
「はじめまして、セイリュウと申します。ムサシと呼んでください」
目元の涼やかな若い男性アバターだった、和服の腰に日本刀を指している。
「銃はほとんど使わず刀だけなんだが、これが滅法強い! キル数はチーム内でトップだ」
「いえ、皆さんの援護がなければ私なんて全くの役立たずですから」
「はははは、相変わらず無駄に謙虚だな。君の戦闘力は本物だからもっと自信持ってくれよ」
ムサシははにかみながらうなずく。
「で、こっちがカーリー、うちのエーススナイパーだ」
「よろしく」
薄いグリーンの迷彩服を着た女性が不愛想に挨拶する、美しい女性アバターだった。グリーンのキャップの後ろから結んだ髪を垂らしている、透き通るように肌が白い。
「よろしくお願いします」真田がどぎまぎしながら挨拶を返す。
「で、こっちがジュリアだ、まだ入隊して半月だが既にバリバリのエースだ」
紹介された女性を見て真田は思わず息を飲んだ。
モデルのような長身にデニムジャケットとレザーパンツのアバターだ、長い黒髪が眩しい。
そして何より驚いたのはその顔だった。彫刻のように彫りの深い、女神のような顔立ちだった。
真田は挨拶も忘れてジュリアをじっと見つめた。
ジュリアが真田をまっすぐ見つめ返す。
「ジュリアです袖すり合うも他生の縁ってことでどうぞよろしくお願いいたします」
にっこりと微笑んで握手の手を差し出す、初夏の朝日のような笑顔だった。
「よ、よろしくお願いします」真田はどもりながら答える、え? そですりあう?
真田の反応を見てメンバーがクスクスと笑っている。
「綺麗だろ、俺も初めて会った時は驚いたよ。なかなかこんな美しいアバターに出会えるもんじゃない、ちなみに『ことわざ』好きだ」
「ちなみに真田さんは『綺麗な女性』好きです、いつもフリーズしちゃうんです」春菜が茶化すように言う。
「あと、フォークトって奴がいるんだが、いつも自室にこもっていて出てこないんだ。おっ、ナミ、遅刻だぞ!」ジョーがグランドの方を見て声を上げる。
「こんにちはー」
真田が振り返ると、グランドを横切って一人の背の高い女性が歩いてくる。
「えっ?」
真田は思わずのけぞった。
なんと、全裸のアバターだった。
真田の視線は金縛りにあったようにその胸に固定されてしまう。
「ナミぃ、またそんな格好して、アカ停されても知らんぞ」ジャッキーが呆れ顔で言う。
「だいじょぶてすよぉ、ちゃんと隠すとこ隠してますから」
よく見ると完全な裸ではなく、体に鎖が三、四周巻き付けられていて、肝心な部分が絶妙に隠されている。
「いやぁ、それはアウトだろ」
「は、はじめまして、真田です」真田は固まったまま挨拶をする。
「あらーこちらが新人さんね、私はナミ、よろしくね」
ナミはふくよかな胸を揺らしながら派手にウインクをする。
春菜が真田の耳元で囁く。
「ナミさんすごく綺麗だけど、リアルは男って噂ですよ」
「え? 男が女性アバターを選ぶのか?」
真田は絶句しながらナミを見直す。どう見ても男には見えない。真田は頭がくらくらした。
「ナミ、待っててやるからチーム部屋で服着て来い」
「はぁーい」
ナミは素直に返事をするとUターンして去っていく、真田の視線はその美しく整ったお尻に釘付けになったまま固まっていた。それを見た春菜が真田の足を蹴る。
「ああ見えて腕は確かだから心配しないで下さい」
ジョーが苦笑いしながらフォローを入れる。
「さて、軽く一戦行きますかね、今日はどっち方面かな? 北? 西?」




