06 テンノウズアイル01
「日曜の九時半に私の部屋で待ち合わせですからね、ちゃんと来て下さいね、遅刻したら怒りますよ!」
金曜日の退社時間、春菜は真田を睨みつけながら言った。昼食の時間に、BAP内で春菜が所属するチームへの加入を勧められたのだった。
春菜に誘われて始めたオンラインゲームBAPだったが、真田は初めはあまり気乗りがしなかった。しかし何回かプレイするうちに少しずつ面白さが分かってきた。
VR端末を駆使したリアルなグラフィック、戦場を駆ける爽快感、射撃の臨場感、目標を仕留めた時の高揚感は確かに春菜が勧めるだけのことはあった。ゲームもここまで進化したかと年寄り臭い感慨すら湧いて来る。
平日の会社帰りに何度か春菜の自宅でプレイし、昨日、ついに自分用のVR端末を購入したのだった。
「そんなに何度も言われなくてもちゃんとログインするさ」
真田がめんどくさそうに答える。
BAPのプレイヤーは大抵どこかのチームに所属する。チームには様々な特典が与えられており、武器の共有やチーム戦、各種イベントなどへの参加、戦闘時の獲得ボーナスのアップなどがある。
春菜が所属するチームは『ディケロ』という名称でBAPの中では小さい方だったが、メンバーが個性的なためそこそこ有名らしかった。
チームの知名度は意外と重要だ。BAPには観戦モードがあって、戦闘を行わないプレイヤーが他のプレイヤーの戦闘を観戦することができ、そのギャラリーの人数に応じて戦闘時の勝利ボーナスがアップするシステムだった。
強豪チームが参加する戦いにはギャラリーも多く、メジャーなチームだと世界規模で万単位の観戦者が付く。また、特定のチームには固定ファンがいて、戦闘が始まると専属の実況者が付いたりもする。
観戦者数はテレビの視聴率のようなもので、観戦中に画面に表示される広告がBAPの収入源になっている。さらに戦闘は録画され、主要な動画サイトのオフィシャルチャンネルにアップされて再生数を稼ぎ、BAP運営のさらなる収益となる。
真田はまだBAP内で自宅を買っていなかった。自宅を持つメリットは、装備を部屋に置いておける点である。広い部屋を持てば、それだけ保持できる装備も増える。しかし自宅を持たないプレイヤーは、一回の出撃に持っていける程度の装備しか所有できない。
真田は何度か春菜の自宅でプレイし、射撃の腕もそこそこ上がってきたので自分用のアサルトライフルを買った。春菜に勧められ、アメリカ製のM16ライフルを選んだ。
真田は約束の十分前に、自宅のパソコンからログインした。自宅の無いプレイヤーはログイン直後、自陣営のホームの鉄道駅か、シェアしている他のプレイヤーの自宅に初期配置される。同居が許可されると装備も置かせてもらえる。
真田がログインすると視界がBAP内の春菜の部屋に変わった。春菜はまだログインしていないらしい、家具の無いがらんとしたリビングに彼女の黒いタワー型パソコンがドンと置かれている。
勝手知ったる他人の家だったが、バーチャル世界とは言え独身女性の部屋に一人でいるのはなんとなく落ち着かない。
真田は手持ち無沙汰だったのでポケットからスマホを取り出して電源を入れる。
BAP内ではリアルの世界と同じようにスマートフォンを操作することができる。アプリをインストールしリンク機能をオンにしておけばリアル世界のスマホと同期してメールや通話もできる。これは意外に便利だった。
真田は着信を確認する、春菜からメッセージが来ていた。
『すみません、十分くらい遅れます』
確か時間通りに来いと言ったのは彼女だったような気がしたのだが、いつもの事なのでいちいち突っ込むのもめんどくさかった。
真田はリビングのクローゼットを開いた。中には色々な武器やら装備が乱雑に置かれている。軍服、ヘルメット、ブーツ、アーミーナイフ、手榴弾、ライフル。春菜の八九式と真田が買ったM16はきちんと並べて立てかけてある。
真田は自分のM16を手に取るとマガジンを確認した。
M16は、映画などでライフルと言えばコレ、と言うぐらいメジャーなアサルトライフルだ。春菜の八九式と重さや撃った感じは似ているが、M16の方が構えた時に手に馴染む感じがして即決したのだった。
マガジンに弾を込め、予備の弾倉も準備した。予備ウェポンとしてベレッタ92、あとは手榴弾を二個腰のケースに入れる。
振り向くと部屋に春菜が立っていた、黄色のショートパンツに胸元の開いた白のタンクトップ、部屋着姿だった。
「ごめんなさい、ちょっとコンビニに買い物に行ったらスクーターがガス欠してしまって」
どうやら自分が部屋着のアバターであることに気づいていないらしい、真田は気づかないふりをして言う。
「今日は戦闘はあるのかい?」
「はい、リーダーが真田さんをメンバーに紹介した後みんなで一戦しに行くって言ってました。楽しいですよチーム戦は」
春菜は椅子に座ってパソコンを操作し始める。
「おはようノブナガ、何か変わったことは?」
「特に無いな、渋谷方面は平穏だし上野方面の有楽町は先週取られたままだし、そう言えばニューヨークで少し大きいチーム戦があったらしいな、千人規模の戦闘だったらしいぞ」
PCのデスクトップに寝そべったノブナガが相変わらずのだるそうな姿勢で答える。
この日は新しく買った自分用のVR端末で自分の部屋からログインしていたが、リアルの春菜の部屋と全く同じ景色なので、真田は現実に彼女の部屋にいるような錯覚に陥る。
「ふぅん、そうなんだ。じゃあ今日の東京の天気予報を教えて」
「晴れ、降水確率十パーセント、湿度四十ニパーセント、気温二十一度、風は北寄りでニメートル」
パソコンデスクに座った春菜のタンクトップが大きくまくれ上がって背中が丸見えになっている。真田は見ないようにして後ろを向く。
「了解、ありがとう。さてと、着替えて・・・あっ!」
やっと自分の露出の多い服装に気付いたらしい、春菜は真っ赤になって振り向いた。
「また、見ちゃいました?」
「さっさと支度しろ、集合時間に間に合わないぞ」真田が背中越しに言う。
「・・・はい」
春菜は消え入りそうな声で答えた。




