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ジョニトリー!  作者: 夜鷹亜目
ジョニトリー、風雲急を告げる!
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第四十八話

「こんにちは、太田さん」

「こんにちはー、愛猫さん」


 ジョニトリーの制服姿に着替えてから手洗いを済ませていたところ、愛猫さんに声をかけられた。

 愛猫さんは挨拶を返した俺を見て吹き出すように笑った。


「大丈夫? ずいぶん眠そうだけど」

「え。あー、ごめんなさい、まだちょっと寝ぼけ眼で」


 俺は目元を手の甲でこすりかけたが何とか自制。代わりに手洗い場にあるタウパーを手に取ると、タウパー越しに目元をマッサージした。


「疲労困憊って感じ? 6連勤目だものね」

「いえ、全然全然。ただ、昨日は少し夜更かししてしまいまして」

「夜更かし?」

「はい。少しゲームをしてしまって」

「ゲーム? ツムツムみたいなやつ?」

「まぁ、似たようなものを少々……というか、私なんかより愛猫さんの方が大変ですよね?」


 俺の6連勤なんて月で均せば大したことない。だが愛猫さんは違う。本来シフトに入っていない日にも平然と店舗にやって来るのだ。

 立木見さんの話では、愛猫さんの親族であるオーナーが快く思っていないにも関わらず働き詰めだそうで。

 心配する俺に対して愛猫さんは笑い飛ばす。


「大変も大変よー。でも私がいなきゃならないのなら、私がいなきゃならないでしょう?」

「小泉構文みたいなこと言い出しましたね……」

「ん? よく分からないけど、とりあえず今日は獅々田さんと太田さんでお昼まで働いてもらって、12時からはキッチンに佐藤さんが入るからそこからは私もフロアに出るから。一応獅々田さんにも伝えてて……ん? 獅々田さんの姿が見えないわね」


 愛猫さんと話して2分ほど。その間に獅々田さんはバックヤードにやってこなかった。


「私が打刻してから手洗いの間にも戻ってませんね」

「メニュー回収でもしてるのかしら。やっぱり電子メニューぐらいはいい加減導入すべきよね。まぁ、とにかく今日もよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」


 手をひらひらとさせながら愛猫さんはコック帽を被ってキッチンに入っていった。

 本当に働き者である。だからこそ心配だ。


「っと、今はとにかく入り作業を済ませなきゃ」


 今日の俺の入り作業はトイレ清掃だ。

 用具入れから道具を引っ張り出して客席のトイレへと向かう。

 が、その道すがら、とある二人の声が耳に届いた。


「何でですの?」

「何でって、だから私にも色々と事情があって――」

「聞き飽きましたわそのセリフ! だから何で私が連絡をしても無視したのかですわ!」

「無視したんじゃないって言ってるじゃない」

「無視以外の何物でもないですわよ!」


 痴話喧嘩かな? めんどくさそうだ。関わらんとこ。

 とコンマ2秒ほど思ったが、どちらも聞き覚えのある声で、しかもどちらも見知った顔だった。

 一人は獅々田さん。そしてもう一人がマネージャー、もとい柊だった。


 さて、どうしたものか。

 獅々田さんが普通のお客様と揉めてるだけなら俺は颯爽と駆けつけるだろう。多分。

 だが、相手は柊だ。柊には俺がジョニトリーで働いていることを『俺は』告げていない。ならば俺が行くべきでは――。


「あら。司じゃありませんの。相変わらずよくお似合いですわね」

「皮肉かこの野郎」


 考えるだけ無駄だし、何なら柊は俺がジョニトリーで勤務していることを知っているだろうと思ったら案の定の反応をされた。俺と喫茶ヴァラドンで再会した時に、立木見さんや獅々田さんの顔を見てジョニトリーの店員だと気付いていたし、あの時に俺の事もシナプス結合みたいに『女装した俺=ジョニトリーで働いていた店員』と結び付けられでもしてたんだろう。


「皮肉ではありませんわ。よく似合ってますわ。これならジョニトリーの看板娘の異名を取るのも頷けますわね」

「腕組みながら本当に頷くな――いえ、頷かないでいただけますか? あと看板娘は獅々田さんの方ですよ」


 周りのお客様の目もあって俺は言い直した。

 が、そんなことはお構いなしに柊は声のトーンを下げない。


「そうですわね。そのもう一人の看板娘と今はとても大事な話をしてるんですの。これは他言無用な本当に大事な話ですの。だから司は下がっててくれませんこと?」

「大事な話……?」


 ぽかーんとする俺に、柊は告げる。


「ええ。コイバナですわ!」

「コイバナ?」

「ええ。獅々田さんはゾンハンというゲームをプレイなさっていて、そこに思い人がいて――」


 知ってる内容だ。あの海水浴の日に、獅々田さんから直接聞いた話である。

 確かあの時は、その思い人が女の子と海水浴に行くってゾンハンで言われて、獅々田さんが脈無しだと勝手に思い込んでふさぎ込んでたんだよな。その後の話は聞いてないけど進展でもあったのかな?


 なんてふむふむと柊の話を聞こうとしていたら。


「他言無用とか言ったのに赤裸々に語り始めるなぁッ!」


 と、獅々田さんが絶叫した。


 周りで素知らぬ素振りを見せながらも聞き耳を立てていた様子のお客様も、こちらを驚いたように顔を向けてきた。獅々田さん人気あるからなぁ。ショック受けてる人も多そうだ。常連客が減らないか心配だ。

 なんて、のほほんとしていた俺の背後に回ると、獅々田さんが背中を掴んで押してきた。


「ほら、太田さんはトイレ清掃でしょ? 早く行って! というか私も一緒に行くから!」

「え。トイレ清掃なんて一人でできますよ?」

「いいから!」


 獅々田さんに押されるがままトイレに向かう道中。


「今日、ゾンハンでお待ちしてますわよ。それで全部水に流してさしあげますわ」


 という柊の声が聞こえた。トイレだけに水に流すってか。くっくっく……別に上手くは無いな。

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