第四十二話
調べてみても何も分からないってことが分かったところで、俺はパソコンでゾンハンを起動した。
最近は八日とやる月曜日以外に起動することは無かったのだが、とある噂を耳にして何となく起動してみた。
するとログインユーザーに八日を発見。
「あいつ、月曜じゃないのにログインしてるのか……もしかして、俺と同じであの噂を聞いたのかな」
と思ったのだが、見てみると八日は別プレイヤーとミッションをやってる最中だった。
その別プレイヤーの名前は、見覚えのあるもので。
「リンネさんか……まだどっちもネカマだって気付いてないのかね」
八日もリンネさんも美女アバターを使っている。が、八日はござる口調だし、リンネさんはですわ口調だし、俺からすれば明らかにネカマである。つまりはどちらも男。だが彼らは互いが互いを女性であると捉えているんだろうと俺は踏んでいる。
とは言え、少しおかしい部分もあった。
まず八日が前回リンネさんを放置してログアウトしたこと。自分からリンネさんに声をかけたくせに俺に丸投げしてきた。でもこれは、童貞であろう八日の事だから、きっと実際に女性を誘えたと思って委縮してしまったんだろう。可愛いもんだ。ま、リンネさんはネカマ、男なんだけど。
対してリンネさんにもおかしい部分があった。
あの日、八日がログアウトしてからずっと質問攻めしてきたのだ。
『ウルフさんはおいくつですの?』
『ウルフさんのご職業は?』
『ウルフさんのご趣味は?』
『ウルフさんに恋人や意中のお相手はいらっしゃいますの?』
なんて具合で質問攻め。しかもこちらが返答するより早く質問が矢継ぎ早に放たれ続けた。俺よりも早い打鍵である。明らかに手慣れていやがった。
ちょっとした敗北感を味わいながら、俺はそれらの質問に一文で返したりした。
『17歳、学生、アニメとゲーム、最後はどっちもいません』
『17歳!? 同い年ですわ!』
『え? リンネさんも17歳なんですか?』
『私も17ですけど、十六夜さんも17歳ですわ!』
十六夜。八日の事か。でも――。
『八日は20代ですよ?』
八日は20代前半のニートだ。17歳ではないはず。
……いや、リンネさんと仲良くなるために八日が嘘を吐いたのかもしれない。それに気づいたのはエンターキーを押して送信し終えた後。
俺は溜まらず頬を掻いてしまう。余計なことを言って八日から後で『何で気を使ってくれなかったでござるか! もう絶縁でござるううううwwwwwwwwwww』とか言われたら面倒だ。
適当に言い訳をして訂正しようかと考えていたところ、リンネさんからの返信。
『そうでしたわ! 十六夜さんは20代前半のニートというお話でしたわ!』
……そこは八日も正直に話したんだな。ニートであることまで曝け出すなんて本気なんだろうか。
にしても、どうしてリンネさんは八日が17歳であると勘違いしたんだろう。
その事を尋ねようとした間に、再び質問攻め。
『異性のお好きな髪型は?』
『異性のお好きな性格は?』
『異性のお好きな体形は?』
『推しはどなたですの?』
あまりの打鍵速度に唖然としつつ、俺は再度一文で返す。
『黒のロングヘアー、清楚で頑張り屋、やや痩せ気味で胸がそれなり。推しは千春ちゃんです』
完全にドキドキメモリーズの千春ちゃんを思い浮かべた挙句、そのまま千春ちゃんの名前を出した。すると。
『運命ですわああああああああああ!!!』
と、返ってきた。
そのまま矢継ぎ早に質問が繰り出される気配を俺は察し。
『あ、すみません、俺もこのあと少し用事があるので抜けますね』
と告げてログアウトしたのだ。そりゃそうだろ、何だか変な探りを入れられていたんだから。もしかしたらこのリンネさん、ネカマで異性を探しているのではなく、ネカマで同性を探している稀有な方かもしれない。これ以上余計な返答は徐々に俺の首を絞め上げることになるかもしれないという本能的な自衛心が働き、俺は『ちょっとお待ちを!』というリンネさんの言葉も無視してログアウトした。
ということで、俺の中でリンネさんはネカマであり、異性同性問わず性的な意味で親しくなりたい相手を探している人という位置づけとなった。なので俺はあまりお近づきにはなりたくないのだが。
「ま、距離感を保てばリンネさんも分かってくれるよな……? それに、どうせあと二十日ちょいって話だし、心置きなく楽しんどかなきゃな」
二十日ちょい。
俺が聞いた噂はそれだ。
ゾンハンのサービスが、八月末で終了するって噂だ。




