第四十一話
ジョニトリーでの勤務を終えて、同じ時間に退勤した立木見さんから、
「どうだ。久しぶりに二人きりでヴァラドンでイチャイチャチュッチュでもしないか?」
と誘われたが、
「いえ、今日はちょっとやることがあるのですみません。また誘ってください」
と返し、自分の両手の人差し指をツンツンして寂しそうな顔をする立木見さんに見送られながら家路に着いた。
本来なら「いやいや、久しぶりもなにも私たち二人きりでヴァラドン行ったこともないし、イチャイチャもチュッチュもしたことないじゃないですか」とか返してあげるのが良かったのかもしれないな。
それにしても立木見さんは見た目は美女なのに、相変わらず発言はオジサンだなぁ。ま、俺を美少女だと思ってるからこそなんだろうけど。
「もしも俺が男だってバレたら、どんな反応するかな……うん、考えるのをやめよう」
色んなパターンを模索したが、いずれもバッドエンドだった。なので思考をシャットダウン。今はそんな立木見さんを軽くあしらってまで帰った目的をこなそう。
自室にて。モニターを前にキーボードを打鍵する。
「ジョニトリー、異物混入、っと」
検索をかけてみる。と、まとめサイトが三番目に出てきた。その見出しはこうだ。
『異物混入を認めずに返金も返品も受け付けなかった飲食店が炎上中』とのこと。
見出しは過激だが、コメント数から測るに反応はあまり芳しくなさそうだ。やはりそこまで大事にはなっていないようだな。
ともあれそこからSNSのリンクが貼られていたので、実際にその投稿を行っていたアカウントへと飛ぶ。
SNSはXだ。想像通りだな。こういうネタはたいていXだし。
「アカウント名は……りりあきらら、と。聞いたことないな」
プロフィールには『飲食店を徘徊する微少女』と書かれており、プロフィール画像には黒髪ロングの女性らしき人物が湖畔で立っている後姿が表示されている。
「フォロワー数は2万人か。フォロー数は300人だし、相互フォローとかで数字稼ぎしてるタイプではなさそうだな」
ま、そんなことはどうでも良い。件の投稿を探す。
「あったあった。一週間前か」
文頭に俺の働くジョニトリーの店舗名が書かれた投稿を発見。
俺はその投稿文に目を走らせる。
『ランチタイムに入店したら待合席が混雑してるのに客席は空いてる席が散見。減点。散々待たされてから案内されたテーブルには、汚れ跡が残ったままで減点。ドリンクバーのグラスが汚れていた。減点。それでも料理が美味しいならと思って差し込みメニューの冷やしマーラータンメンを注文したら、まさかの異物混入。大減点。これを責任者に伝えたら、「当店ではそのような異物が入る事はあり得ません」の一点張りで、返金も作り直しも受け入れられなかった。大大減点。料理に口を付けず支払いだけして退店。総評は0点。近隣にフライアーズと晴れマリが出来るらしく、そっちに行った方が良い』
想像していたよりもボロカスに書かれている。リプ欄でも便乗するようにジョニトリーを批判するコメントが数件寄せられている。
それはともかく、ジョニトリー違いで他の店舗と勘違いされたのではって話だったが。
「『近隣にフライアーズと晴れマリが出来るらしく』って……ウチだよな、絶対」
りりあきららの他の投稿も調べてみるか。
投稿割合としては飲食店レビューと日常的なポストが半々。
肝心の飲食店レビューについては、首都圏に限らず全国の様々な飲食店だ。
ただ……。
「大手のチェーン店は見当たらないな」
基本的には個人経営であったり、小規模なチェーン展開している店舗ばかり。それにそのレビュー内容もクレーマーの意見というよりは。
「むしろ言葉を選んでるし、寛容っぽい」
例えば一年前の投稿文。
『青森にて、外観がレトロで私好みな喫茶店に入店。都会の喧騒から離れて落ち着ける雰囲気。この時点で百点。でも私は辛口が売り。どうにか粗を探して、せめて80点ぐらいには貶めんとする私の目の鋭さに喫茶店のご主人と奥様は気付いたのだろう。ずっと付きっ切りでお話をしてくださった。暖かな人柄のお二人に、すっかり私の険は取れてしまった。注文したのはコーヒーとベイクドチーズケーキだったのだが、ペロリとたいらげてコーヒーだけ残ってしまった私に、オマケだとご主人からクッキーまで提供されてしまった。ダイエット中なんだけど、仕方ないなと食べてみたのだが、あまりの美味しさにクッキーをテイクアウトしてしまった。まったく、粗を探して80点付けるために今度もまた来なくてはならないようですね。総評120点」
とてもじゃないが同じ人間が書いた文章とは思えないな。
りりあきららの投稿を他にも調べて分かったのは、以前は辛口という名の甘口レビューばかりだったが、最近は辛口レビューばかりになっていること。それと。
「コスプレイヤーなのかな?」
顔こそ出していないが、コスプレしている画像がいくつかあった。しかもイベントにも参加しているようだ。コスプレイヤー兼飲食店レビューアカウントって感じなんだろう。
その中で一つの画像に目が留まる。
「って、ドキドキメモリーズの秋奈のコスプレもしてんじゃん! めっちゃ良いじゃん! 千春ちゃんのコスプレはきっと恐れ多くて出来ないんだな、うんうん」
なんて勝手に親近感を覚えながら投稿文を眺めていたところ。
『先ほどの投稿には不適切な文言が含まれていましたので削除いたしました。大変申し訳ございませんでした』
との投稿を見つける。
そしてそれ以後日常的なポストばかりだったが、一か月程度経ってから彼女の飲食店レビュー再開。そしてその内容は辛辣なレビューへと様変わりしていた。
「……何かあったのかね」
俺は検索エンジンで日付やアカウント名など、いくつかのワードを並べて検索をかける。
すると数十回の検索の末に、唯一の手掛かりを見つける。それは、りりあきららが削除したポストへ、他のユーザーがした返信だった。
『私もヒマラヤで働いてますけど、その不満分かりますよ』
というもの。
「ヒマラヤ?」
ヒマラヤ山脈で働いてるのかな? どこだっけ、チベットだっけ? ワールドワイドだ。
と思って返信していたアカウントを調べてみるが、明らかに日本在住だった。意味不明だ。
その後あれこれ調べてみたが、他に手掛かりは見当たらなかった。
りりあきらら……。一体何者なんだろうか。




