第三十八話
獅々田さんと合流して一時間弱経ってから、ようやく四人掛けのテーブル席に案内された。
俺と彩音は隣に、その対面に獅々田さんが座った。
内装は落ち着いた雰囲気で、間接照明や観葉植物があちらこちらに配されていたり、レトロ調のシーリングファンが稼働している。店員さんも白のシャツと黒のスラックスを男女問わず身に着けていて、格調高そうだ。
だが、そんなのはどうでも良い。個人的に目を引いたのは。
「彩音、ロボットだ! ロボットが店内を縦横無尽に行き交ってる!」
「恥ずかしいから指さして大声出さないでほしいであります。あとせめて女性らしい言葉遣いをするであります」
「彩音さん! あのロボット、お客さんにぶつかりそうになったら器用に止まってるわよ! 一体どうなってやがるわよ!?」
「もはや黙れであります!」
本気で嫌そうな顔で一蹴してくる彩音に代わって、クスっと笑ってから獅々田さんが口を開いた。
「あれは配膳ロボットだよ。センサーを内蔵していて人にぶつからないのは勿論、客席への配膳とか空いた食器を洗い場の方へ運んだりできるの。もしかして見たのは初めてだったの?」
「見たのどころか、あんなのがあるだなんて初めて知りました」
厨房の方へと去り行くロボットの背を興味深く見送る俺に、獅々田さんは「え?」と訝るような声を上げた。
「チェーン店だと結構一般的になってきてるんだけど……」
「俺――じゃない、私、外食とかあまりしないんですよ」
「外食をしなくても、配膳ロボットがあるのは誰でも知ってるような……」
「あ! 何だこれ! おい彩音! 何かカラオケボックスのデンモクみたいなのがテーブルにあるぞ! 何に使うんだこれ! 歌えるのか!?」
「黙れであります浦島太郎」
というやり取りを経て、デンモクもといタブレットをテーブルの中央に置き、表示されたメニューを三人で顔を寄せて眺める。
「ハンバーグはやっぱり一種類なんだな」
「ですけど、大きさを選べる上に、ハンバーグの形を楕円、円形、俵型と選べるであります。一番人気は俵型でありますね。通称爆裂ハンバーグであります」
「やっぱり晴れマリ来たからには私は爆裂ハンバーグかな」
「じゃあ俺もそれで」
「では私も。あとはソースとトッピングでありますね。司はデミグラスにチーズトッピングでありましたか?」
「よく覚えてたな。あと――」
俺が「粗びきソーセージ追加で。あ、ケチャップ多めでな」と答えようとした瞬間、ガシャンと食器の割れる音が響いた。
俺たち三人は元より、他のお客も音の出所へ目を向ける。
「し、失礼しました……」
俺たちの席からほど近い通路。そこには消え入りそうな声で謝罪の言葉を口にする、メガネをかけた女性従業員がいた。
不幸中の幸いだろう。料理の配膳中だったようで、お客にソースが飛んだりはしていないようだった。ただ床には割れたお皿とハンバーグが落ちていて、彼女は屈んで拾おうとした。
それを確認して、慌てて俺と獅々田さんが腰を上げた。勿論止めるため。危ないから止めた方が良いと口にしようとした時。
「危ないわ。お止しなさい。ホウキとチリトリを常備しているでしょう? それで回収すべきですわよ」
ちょうど通路にやって来た人物が、その従業員の肩を掴んで制止した。
従業員はびくっと反応したが、その後は狼狽えていてばかり。
程なくして他の従業員がやって来て、件の従業員と一緒にバックヤードへと一旦引き上げていった。
「まったく。それで、私の席は――」
従業員を止めた人物は嘆息交じりにそう呟くと辺りを見渡した。その際に一度俺と目が合い、獅々田さんや彩音の方も一瞥した上で別の方向へ視線を向けてから。
「は?」
と再度俺たちの席を見てきた。完璧な二度見である。
俺は開いた口がふさがらず、彩音はきょとんとしており、獅々田さんは――。
「運命的。奇遇だね、柊さん」
と言ってその人物、マネージャーに向けて手をグーパーしていた。
それを見たマネージャーは。
「……は?」
と、ただただ唖然としていた。




