第三十五話 アナザーサイドA
どどど、どういうことですの!?
「どどど、どういうことですの!?」
驚きのあまり頭で思ったことが無意識に口から出てしまいましたわ! 急に獅々田さんがゾンハンから抜けてよく分からない方と二人きりになってしまったんですもの。しかも丸刈りの怖そうな方と!
『とりあえず、まだ時間があるなら他のチュートリアルもやってみますか?』
とのメッセージが表示されたまま、私は慌ててお電話をかけます。お相手はもちろん――。
「はい、獅々田です」
「知ってますわ! 私は柊ですわ!」
「ははは、知ってるよー。それでどうしたの?」
「どうしたもこうしたもありませんわ! 何で急に抜けたんですの!」
「あー、ごめんね、急用が出来ちゃって」
「急用……? で、ですけど、獅々田さんと一緒にゾンハンをプレイするから私も時間を作ったんですわ。それがこんな強面の方と二人きりだなんて」
「うん、本当にごめんなさい。でも、その人はアバターはちょっと怖いけど、優しくてカッコいいんだよ」
「か、カッコいい……? お会いになられたことがあるんですの?」
「んー。分かんない。会ったことがあるような、無いような」
「はい? 何ですのそれは?」
「私でも分からないんだよね」
ほえー。哲学的ですわー。――ではありません!
「分からないって……それに獅々田さん、ゾンハンではどうしてあんな口調だったんですの?」
あの怖そうな方がチャットに参加するなり獅々田さんは『吾輩』だの『ござる』だの仰り始めたので、ぽかんを通り越して口をぱかーんと開けてしまいましたわ。
「あれは……そういう役割を演じているの」
「演じている? あ。そう言えば、ウルフさん? は、獅々田さんを男性と思っていらっしゃいませんこと?」
「うん。ウルフ殿は、私を男性と思ってるよ。しかも二十代前半のニートだって思われてる。私がそう言ったからね」
「どうしてそんな嘘を」
「どうしてだろうね。嘘はいつかバレるのに」
ほえー。今度は詩的でございますわー。――なんて考えてる場合ではありません!
「つまり、私も獅々田さんこと十六夜八日さんを、男性で二十代前半のニートであるとしてウルフさんと接した方がよろしいんですの?」
最早自分でも何を言っているのかよく分かりませんわ。
「そこまで深く考えなくて大丈夫だよ。私が柊さんとリア友だって知られなければ大丈夫。それ以外は気にしなくていいよ」
「は、はぁ。……でも、どうしてリア友であることは隠すんですの?」
「それは……」
獅々田さんは言い淀みましたわ。
そこで私ははたと閃いてしまいます。思い返せば簡単な事でしたわ。
私を突然ゾンハンに誘い出したと思えば、急用が出来たと告げて抜けてしまわれた。そして私とウルフさんの二人きり。そうなれば必然的に私とウルフさんは親しくなりますわ。つまり獅々田さんの目的は――。
「獅々田さん、もしかして貴方は私とウルフさんを親しく――」
「あー! ごめーん! 急用が! すんごい急用が出来ちゃってて! この埋め合わせは今度するから!」
「え? ちょっと、獅々田さ――」
通話が切れた音が鳴り、私は呆気に取られながら『通話終了』の文字が表示された携帯の画面を眺めました。
ですが直ぐに私は、はしたなくもニヤリとしてしまいますわ。
獅々田さんの目的に気付いてしまったのですから。反応からしても間違いありませんわ。それは何かと言えば――。
「私にウルフさんと親しくなってもらい、それとなく獅々田さんへの好感度を調べてほしいんですのね!」
獅々田さんはウルフさんを慕っていらっしゃる。あれほど無邪気に接していらしたんですもの。誰の目から見ても明らかですわ。ですけど、獅々田さんは男性と偽ってしまっているために二の足を踏んでいらっしゃる。獅々田さんったら、とっても乙女ですわ。素直にあれほどの美貌を備えていらっしゃるのだから、それを曝け出してしまえば世の男性など胸を射抜かれて瞬殺でしょうに。
「ですがいじらしい獅々田さんは、自分でウルフさんの胸を射抜けない。ならもう、私が代わりに射抜くしかありませんわね! 恋のキューピッドとして、ウルフさんを瞬殺する手助けを致しますわ!」
私は全てを理解すると、すかさずチャットを打ち込みましたわ。
『ごめんなさい、少し席を外していましたの。よろしければ、チュートリアルを進めてもよろしくて?』
「まずは私がゾンハンに慣れる事が先決ですわ。慣れてしまえばそれとなく自然に、獅々田さんもとい十六夜さんをどう思っているのかも聞き出せますもの」
ふっふっふとほくそ笑んでいたら、直ぐにウルフさんからメッセージが返ってきましたわ。
『全然構いませんよ。最初は操作方法に慣れるのが大事ですからね。わからないことがあれば何でも聞いてください』
「何でも……言ってしまいましたわね、ウルフさん。私、何でも聞いてしまいますわよぉ」
くっくっくと喉を鳴らしながら私はメッセージを返しますわ。
『ありがたいですわ。ではお言葉に甘えて、わからないことがあれば色々と聞かせていただきますわ。今後のために』
「二人の、獅々田さんとウルフさんの今後のために、ですわ」
恋のキューピッド。なんておもしろ――なんて素晴らしいんでしょう。私、とても昂ってまいりましたわー!




