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8 やくざ

残酷な表現があります、ご注意ください。

誤字脱字の報告ありがとうございます。

ど素人の者ですが読みにくい文章にご理解ください。

 やくざの事務所は繁華街のすぐ近くにあった。

 繁華街の路地裏は黒猫のテリトリーであったので、やくざの事務所を見つけるのも張り込んで偵察することも容易だった。

 やくざの事務所には常に十人ほどの男たちが滞在しており、その中には安アパートに来た男の姿もあった。

 やくざたちは十~二十代のチンピラが多く、五十代の中年が事務所を仕切っている。

 チンピラたちは二三人で繁華街の店を回り、お金の徴収や取引を行っているようだった。時には店の客として店員と話しており、上手く街に溶け込んでいる。

 巡回している警察官とも声を掛け合っていることから、お互い顔見知りなのだろう。万が一警察に駆け込んだとしても解決してくれるか怪しいものだった。


 事務所には常に人がいて、レイナの母親が契約した借金の書類を確認することは出来なかった。

 黒猫が一通り偵察した内容を聞いたレイナは、やくざの人数が分かっただけでもよかったと思うことにした。

 そしてレイナは大胆な作戦に出ることにした。

 黒猫は驚いてもっと穏便な作戦にしようと提案したがレイナは厳然と却下した。

 しゅんと耳と髭が垂れ下がり、落ち込む黒猫だったが他の案は思いつかない。

 ウーサはレイナのことには全面的に信頼して任せていた。




 * * *




 夏も終わり暑さも和らぎ、秋に入ろうかという夜、やくざの事務所に詰めていた男は暇そうにタバコを吸いながら酒を飲んでいた。

 若いチンピラたちは夜の繁華街を見回りがてら店を回っている。若者に仕事を押し付けた男は事務所で暇そうに寛いでいた。

 上の階には事務所を取り仕切る会長がいる。


 いつものように酒を飲みながらテレビを見ていると、事務所の入り口がガラガラッと開かれた。

 しかし人影はない。不審に思った男はやくざに恨みを持った者の襲撃かもしれないと木刀を持って慎重に入り口に近づいた。

 事務所の外は暗く、目を凝らしても周りに人影を見ることは出来ない。

 いたずらかもしれないと扉を潜ると、そこは事務所の外ではなく漆黒の暗闇が広がっていた。

 男は慌てて後ろを振り返るが事務所の影も形も見つけられない。


 普通ではないことが起こっていると男も理解したが、やくざなんてアウトローに生きる男でも超常現象に遭遇することは初めてだった。

 罰が当たるようなことは数えきれない程やってきた。こんなことで反省する人間ならここまで堕ちていないだろう。

 

 男は木刀を掲げて人でも幽霊でも攻撃できるように構えた。

 男が耳を澄ませていると、ヒュンヒュンと言う音と共に風が動いた。


「うおぉっ」


 咄嗟に頭から横に飛び避ける。受け身を取りながら転がる横を風が通り過ぎていった。


(あの風を食らったらやばい)


 これまで任侠の世界で修羅場を潜り抜けて来た男の危機感は確実に男の命を繋いでいた。

 しかし、立ち上がった男の目端に赤く光る物が見えると、後ろへ吹き飛ぶほどのお腹の衝撃を受けていた。


「ぐはぁっ、な、何が起こった?」


 吹き飛んで倒れた男のお腹はぽっかりと穴が開いて血が噴出していた。

 流血を抑えようとお腹を手で押さえるが血は止まらない。衝撃のショックで錯乱しながら周りと見ると、目の前に角の生えた白いうさぎが佇んでいた。額の角は血に濡れ、赤く輝いている。

 男を襲った未知の生物に男はつい、笑ってしまった。


「は、はははっ。なんじゃこれは、こんなのに俺は襲われたのか。冗談きついぜ」


 笑う男をしり目に白いうさぎは男を襲い、男は意識を失った。





 ウーサの後ろ足で頭を殴られ気絶した男をレイナは暗闇の中から黒猫と共に見つめていた。


「本当にこれで良かったのかい。後悔しないかい」

「しない。これは彼らと私の生存競争だ。大人は狡賢いから色々と知っているけど、私にはこれしか対抗手段がない」


 レイナたちがしたことは、やくざの事務所の入り口に使っていなかったダンジョンを作った。

 男をダンジョン内に誘い出すと黒猫が闇を作り出して視界を防ぎ、レイナが風の刃で攻撃してウーサが止めを刺した。


 レイナたちの得意なダンジョンに誘い込んで戦いを挑んだ作戦は、稚拙で短絡的な暴力的で大胆な作戦だった。

 もっと別の方法があったかもしれない。しかし、レイナに信頼できる大人はおらず、猫としか生きてこなかった黒猫に人間的打開策は思いつかなかった。


 その後、事務所に滞在していたやくざたちを事務所入り口のダンジョンに誘い出し、暗闇から攻撃して気絶させていった。

 事務所が無人になるとレイナは母親の借金に書類を探した。

 やくざの事務所には木刀やナイフ、拳銃や現金があった。

 レイナはしばらく逡巡していたが、新しい力で収納を手に入れると使えそうなものを次々と入れていった。

 それが終わると気絶したやくざたちをダンジョンから事務所に戻してダンジョンコアを回収すると事務所に火を放った。

 

 深夜の繁華街で起こった火事に周辺住人は慌てて消防を呼んだが、火の回りは早く消火作業に入る頃にはやくざの事務所は全焼していた。

 それを路地裏の影からレイラと黒猫は冴えない顔で見守っていた。


 これで懸案事項は無くなった。やくざは全ていなくなって母親の借金の書類もなくなった。

 しかし、その為だけに人を殺してしまった。直接手を下していないが火を放ったのはレイナだ。その認識を誤ることはレイナにはなく、完全に人間社会として逸脱してしまった自分を認識していた。


 しかし、誰がレイナ達母娘を顧みた人がいただろうか。

 母子家庭で貧乏に暮らし、学校ではいじめられ、周辺住民には疎まれている。

 借金をしていてもやくざの闇金に手を出すのが悪い、返さないのが悪いと見放されてレイナ達母娘はもっと悲惨な境遇に堕とされていっただろう。

 それを仕方がないと諦観することはレイナにはどうしても出来なかった。

 抗う力があるのならば、抗わざる負えない。


 本当は、全て捨てる覚悟がレイナにあればやくざを殺す必要はなかった。

 黒猫に提案されたが、レイナが逃げるのならば黒猫とウーサも一緒についていく。木造の家があれば暮らして行くことは出来ただろう。

 しかし、レイナは母親のことが捨てきれなかった。

 あれだけレイナに無関心を貫いてきた母親だったが。幼い日の頃、レイナを抱きかかえて嬉しそうに笑う若い母親の温もりを覚えている。

 手を繋いで公園に遊びに行った日の事を覚えていた。

 

 すでに今は見放されていると分かっていても、レイナは母親を見捨てることが出来なかった。

 自分の気持ちに忸怩たる思いだったが、想いは変えられない。

 だから、レイナは厳然とやくざを殲滅する断行を決定した。

 

 自分の行いが正しいだなんて思わない。

 レイナは選択肢の少ない厳しい状況で、自分の望みの為に選択したことだった。

 反省とか後悔ではないのだ。それしか取れる手段はなかった。

 それがどれだけ独りよがりで視野の狭い考えだったとしても、真実レイナはそこに陥っていて教え導いてくれる大人はいなかった。



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