6 森のダンジョン
森のダンジョンに出てくる魔物は魔法を使いこなす者が多かった。
タヌキの次は二尾のキツネが火を出して襲ってきた。
しかし大きさは小さな野球ボール程度で、レイナが炎を作るとすぐに狐の火球を飲み込み、狐を焼き尽くした。
他にもムササビが風を使って自在に飛びまわり、猿が石を生み出して木上から投げてきて、猪が巨大な牙で突進してきて、それぞれに工夫をしながら戦っていた。
黒猫やウーサも触発されたのか、自分に使える魔法を模索して、黒猫は狭い範囲に闇の霧を作り、ウーサは角がより頑丈になり赤く輝くようになった。
レイナも炎を使えば一掃してしまうが、練習がてらに水や風も使うようにした。
三週間程攻略を進めていると、とうとうボス部屋に到着した。
霧の煙る森の中にいたのは鹿の群だった。
特に異彩を放っていたのが一際大きい体格での雄鹿で、巨大な角が金色に輝いていた。
「ボス鹿は私が倒すから、黒猫君とウーサは周りの鹿をお願い」
「わかったよ」
黒猫は周りの鹿たちを引き離すべく闇を作り、戸惑った鹿たちの群にウーサが突進を仕掛けて攪乱した。
レイナと雄鹿はお互いを睨み合っていたが、雄鹿が前足を振り上げて鳴き声を上げると角が金色に輝き、突然雷がレイナを襲った。
レイナは咄嗟に目の前に水の壁を生み出し雷を避ける。
雷は水の表面を走りレイナまで届くことはなかった。
雷を防いだレイナに雄鹿は唸り、電気を帯びた角を突き出して突撃してきた。
レイナは逃げに転じて雄鹿から距離を取りつつ、小さな風の刃で身体の表面を傷つけ、出血を誘っている。
巨体な雄鹿はなかなか消耗しなかったが、レイナも魔力を抑えながら新聞配達で鍛えた脚力で木々を縦横無尽に駆け上がり、雄鹿の角を避けて行く。
出血と雷による魔力消費によって、荒い息を吐く雄鹿の足は止まってしまった。
雄鹿は憎々し気にレイナを見つめたが、レイナは容易く風の刃を増強して首を刎ね飛ばした。落ちた首から角が欠けると金色の玉が落ちていた。
レイナが周りを見れば、すでに黒猫とウーサが倒した鹿たちがあちこちに転がっていた。
「ふぅー、さすがに今回は緊張した。雷を使う魔物が出てくるとは思わなった」
「どんどん魔物が強くなっているね。彼らも魔法の使い方を分かり始めたということかな?」
「そうだね。私は二個も力を持っているから、黒猫君とウーサは何か欲しい力はある?」
「うーん、僕はあの家とレイナとウーサがいてくれれば十分だよ。力は徐々に強くなっているしね」
ウーサも首を横にふるふると振って必要ないようだ。
レイナはしばらく新しい力について考えていたが、思いつかなかったのでアコに聞いてみた。
「アコ、新しい力は保留でもいいかな」
「構いません。新しい力はダンジョンマスターの特典であって、魔力が増える事には変わりありません。お決めになったら私に命じて下さい」
無欲なレイナは新しい力を求めなかったが、黒猫はすでに人の範疇から逸脱し始めているレイナが大人になるごとに厄介事が起こるだろうと予感していた。
今はまだ幼い子供であるから純粋な楽しさで行動しているが、大人になるほどに人間社会とダンジョンの隔絶さや欲望、感情の狭間で苦労するだろう。
その時に少しでもレイナの助けになるような力がいる。
人としては異常だが、今はまだ隠れているダンジョンと魔物の存在、魔法や魔力が浮き彫りになれば状況は変わっていくだろう。
レイナが生きられるように、しかし、人間から逸脱しすぎて拒絶されないように隠し続けることが必要だった。
* * *
森のダンジョンを攻略したレイナはその後、街に戻って新聞配達を続けていた。
新しいダンジョンを探すよりもお金の調達の方が先決のようで朝刊と夕刊の配達をして夏休みを過ごしている。
レイナは手に入れたお金で自分の日常的な服と調理道具、調味料の各種を買い込むと図書館で借りてきた料理本を見ながら料理を作り始めた。
レイナは母親から料理の作り方など教えてもらったことはない。
最初は包丁の握り方も知らないでじゃがいもをボロボロに剥いてしまったが、本を読んで包丁の持ち方から料理の基本を覚えて行った。
黒猫とウーサも付き合って、レイナが最初に作ったまずい料理を一緒に食べてくれた。
なんとか普通の料理が作れるようになって三人とも一安心した。
レイナは図書館から料理本を借りてきたが、それを見た黒猫は自分用に本を借りてきて欲しいとレイナに頼んだ。
黒猫は新しい力で知力を手に入れたが、更なる知力の獲得の為に人間の知識と知恵を欲したのだ。
黒猫は長年の経験で人間の言葉をしゃべることは出来ても文字を理解してはいなかった。
レイナが図書館から幼児用のあいうえお絵本を借りてくると高い知識欲ですぐに覚えてしまい、尻尾で鉛筆を握り文字まで書いてしまった。
瞬く間にひらがな、カタカナ、漢字を覚えて今は小学生の生物化学に夢中だった。
黒猫の知識欲に借りてくる本が追い付かない勢いだったが、幸い今は夏休み中で図書館は絶賛貸出し本数が増えていて助かった。
レイナは料理を、黒猫は読書を楽しんでいた訳だがウーサはそう言った事に興味はなく相変わらずぽやぽやと花畑で花を食べていた。
レイナの夏休みは朝夕に新聞配達、日中は料理を勉強しながら学校の宿題を熟し、ウーサをもふもふとを堪能しながら一緒に遊んだ。
遊びと言っても力の修練も兼ねていて、巨大になったウーサと相撲を取って押し潰されて甘噛みされたり、ウーサに騎乗して一緒に飛び跳ねた。
ウーサは単純な脳筋で頭の角と脚力を生かした突撃しかしないが、だからこそ単純な力と脚力は一番強かった。
* * *
夏休みの終わりは多くの学生が絶望するのと同様、レイナも重い足取りで学校に向かった。
久しぶりに会う同級生たちに教室内は喧騒に包まれていた。
レイナは一人教室の片隅で本を読んでいたが、日焼けしたクラスメイトが大きな声で夏休みの出来事を話している。
「なあなあ、山にキャンプをしに行った子供が動物に襲われたってニュース見たか!」
「ああ、洞窟に入ったら奥から出てきた何かに襲われて重傷だってな。熊にでも襲われたんだろう」
すると横合いから女子が話しに入ってくる。
「それって~、前話題になってたダンジョンじゃないの?」
「ダンジョン? そんなのあるわけねーだろ」
「でも、動画の内容とそっくりだよ。海外でもダンジョンが見つかったていう動画が上がってたもの」
「海外の動画なんてやらせだろうが」
「今年は動物に襲われる被害が増えてるらしいから、動物の異常現象の方が濃厚らしくよ。ニュースでも不用意に山に入らないよう注意喚起されてたよ」
とうとうダンジョンの存在が人にも認知され始めていることにレイナは気付いた。
人はダンジョンの存在を認めた場合、どのような対応をするだろうか?
なかったことにしてひた隠すのか、殲滅してしまうのか。
新しい力と魔法を見つけた時に、欲に駆られて暴走する人が出てくるのだろうか。
レイナは人の動向にも注視する必要が出てきた。




