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22 神社のダンジョンの主

 夏休みも終わろうとする時期、レイナは修造の家で悩んでいた。

 修造の元で魔物討伐が出来るのも夏休みの間だけだ。

 学校が始まればレイナは地元の街に帰らなければならず、修造はまた一人で魔物討伐をしなければならない。

 ではハンター組合に応援を呼べばと思うが、修造にその気はないようで、不特定多数のハンターに神社のダンジョンを知られることを忌避した。

 ダンジョンを秘匿していることから政府に知らせることも出来ない。

 

 レイナは神社のダンジョンを攻略することにした。

 レイナたちはすでにダンジョンマスター手前の階層まで攻略を済ませている。

 しかしダンジョン攻略を終えて、消滅したダンジョンのことをどう修造に説明しようか悩んでいた。

 

 もうレイナはすべてが終わったら、正直に修造に話すことにした。

 彼には荒唐無稽な話を受け入れてくれる包容力がある。

 レイナが変なことを言っても「そうかぁ」と受け入れてくれるだろう。

 それだけ夏休みに共に過ごした修造という男は達観していた。




 神社のダンジョンの主は白鷺だった。

 優美な身体をしているが、大きな白い羽は優美で、飛ぶスピードは俊敏だった。

 長い嘴や細長い足で突撃して、風魔法の突風で吹き飛ばす。

 地上にいるだけで不利な状況だが、こちらは三対一と数的有利がある。

 

「ガアッガアッ」


 鳴き叫ぶ白鷲をウーサが脚力で飛び上がり突撃する。

 ウーサはいつも好戦的で直情的だが、いくら傷ついても突撃を辞めない。

 真っ白な毛皮を赤く染めながらも、いの一番に魔物に突っ込んでいく。

 白鷺もウーサにヘイトを集めて攻撃していると、陰から黒猫がにゅっと出てきて一撃を当てると消えていく。

 ヒットアンドアウェイを繰り返す黒猫が煩わしそうな白鷺だが、黒猫に攻撃が当たることはない。

 突撃のウーサ、ヒットアンドアウェイの黒猫に白鷺が翻弄されて疲労してくる。


「はぁっ!」


 二匹が翻弄している内にレイナが空中に飛び上がり、木刀で白鷺を叩き落す。


「ガアッ!?」


 空まで飛び上がったレイナに驚いた白鷺は木刀で叩き落されて地上に落ちていく。

 後は三人で袋叩きにして倒した。


 白鷺の体内から出てきた白いダンジョンコアをレイナが手に取ると、ダンジョンは消えて神社の大木の前に姿を現していた。

 境内の木立からは晩夏の蝉時雨の鳴き声が響いていた。




 レイナは修造の家に帰るとダンジョンコアを修造に渡した。

 驚いた表情の修造はレイナに尋ねた。


「おぬし…これはどうしたのだ」

「これはダンジョンコア。神社のダンジョンは消えて、これが残った。

 何でも一つのだけ力を貰えるから、おじんが使って」


 レイナは修造にダンジョンコアを手渡すと、帰り支度を始める。

 もう修造の家にいる理由はない。

 修造は帰り支度をするレイナを無言で見守りながら言った。


「…何も聞かないが、またここに来たくなったら来なさい。野菜と料理ぐらいしかないが、ご馳走しよう」


 それだけ言って、修造はレイナたちを送り出した。

 黒猫とウーサもゲンと別れの挨拶をするとレイナはたちはバイクに乗って地元の街へ帰った。




 ***




 レイナたちが地元の街に戻ると、相変わらず都市のコンクリートジャングルの熱風に辟易とする。

 すぐに木造の家に駆けこみ涼んでいたが、夏休みの間に消費した食材や日用品を買い足すためにレイナは繁華街の店を回っていた。

 修造に教えられた良い肥料や農具なども吟味しながら買っていたので、思いの外時間が掛り、気が付けば日が暮れている。

 買い疲れたレイナは近くのカフェでホットケーキを食べながら休憩していると、突然、女が目の前に現れて話しかけてきた。


「あなた三田レイナよね? ちょっと話があるからここに座るわ」

 

 了承も取らずに座った女にレイナは眉を顰めた。

 女は20代のような派手な化粧と服装をしているが、レイナの母と同じような仕事をしている雰囲気があった。


 女は席に座ると煙草を取り出し吸いながら話し始めた。


「…私は正直柄にもないことをしていると、思っているわ。

 酒田なんていつ死んでも可笑しくない男だったし、恨みをたくさん買っていることも分かっていた。

 クズな男だったけど、それでも愛してしたと今更気づいたわ。

 …皮肉ね、死んでからそれに気づくなんて」

「……あの、何のことですか?」

「あら、分からない? あなたが殺したやくざの男のことよ」


 訝し気に尋ねたレイナに女は煙を吐きながら答えた。

 レイナはその言葉に強張り、二人の間に緊張が走り、睨み合う二人。


「何がしたいんですか」

「何がしたいのかしらねぇ。

 私にも分からないけれど、あなたに知ってもらいたかったのかも。

 例えどんな悪党でも殺されて恨む人がいるってことを」

「私なら『覚悟の上だ』と答えるでしょう」

「……そう、なら私が言いたいことはそれだけよ。

 恨みは復讐を生むわ。

 私の娘があなたが父親を殺したと知ってハンターになったわ。気をつけなさい」


 そう言うと女は紙幣を机に置いて去った。

 レイナは数十分熟考していたが、ため息をつくとカフェを出た。



 

 どうしてあの女がレイナがやくざを殺したと知ったのか、娘が復讐を誓ってハンターになったのか。

 分からないことが多かったが、レイナは気にしなかった。

 彼女らにレイナを警察に通報する気はないようだ。

 ならば、立ち向かって来たら迎え撃てば良い。

 恨みも怒りも受けて立とう。

 それがレイナの出来ることだ。


 しかし、今後は不意打ちに気を付けよう。

 あのやくざの女の娘はハンターとのことだから、特にダンジョン内で襲われること可能性が高い。

 どんな人物か分からないのに、相手はレイナを知っている可能性が高い。

 不用意に知らない人が近づいたら警戒しておこう。

 

 …それにしても、あのやくざの女は態々自分の娘がレイナに復讐すると忠告してきた。

 やくざの男のことに関しても、恨み言は言ったが復讐しようとは思わず、どこか因果応報とばかりに諦観した様子だ。


 娘に関しても、どう思っているのか謎だ。

 下手をするとレイナが娘を殺す可能性もあるだろうに忠告してきたのは情状酌量の余地を残すためだろうか。

 それはレイナにも会敵しないと分からない。

 娘を恐れて隠れるのも馬鹿らしい。


 やくざの娘のことは黒猫やウーサには言わなかった。

 心配されるのも面倒だし、要らぬ心労と対策を黒猫にされても困る。

 結局、いつも通りに過ごすレイナだった。


 

 

 

 

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