23 街中のダンジョン
夏休みが終わると、日焼けした生徒たちが夏休み中の体験を話し合っている。
海や山は今や魔物が生息している危険性があるため訪れる人は減ったが、それでも東京の渋谷や秋葉原に行った話をしている人やハンターとなってダンジョンに潜った体験など話している。
ハンターとなった生徒は魔物を倒すごとに力が付いたのを自慢している。
魔法を取得することは出来なかったが、魔力の力を実感していた。
最初は『初心者ダンジョン』に潜っていたようだが、途中で政府に存在がばれて入れなくなった。
『初心者ダンジョン』を封鎖した政府だったが、ハンターの強い開放要望と利便性の良さ、一般人でもはいれる安全性の高さから早期に整備されて一般公開された。
人が多くなったことでダンジョン内が手狭になった。
魔物も討伐数が上がっていることからダンジョン内を拡張して魔物を増やすことにした。
人が増えたことで魔力吸収量が増えている。
更なる顧客獲得のため、使い易いダンジョン経営を目指している。
***
ダンジョン各地にほど近い場所に大小の差はあれど、ハンター組合が所有している建物がある。
所属しているハンターは建物を利用してその地のダンジョンの特徴や魔物の種類、ダンジョンに潜る際の注意事項などを教えてくれたり、魔物の素材買取も行ってくれる。
ハンター講習会や武器防具の販売会社と提携して所属ハンターに割引価格で販売したりと幅広い業務をしている。
組合長をしている内田は会議室の一室で事務仕事に追われていた。
元々しがない小規模店の職人だった内田は事務仕事が苦手で効率も悪い。
秘書を務める人物を雇って、尻を叩かれながら仕事を覚えている現状だ。
内田は仕事の忙しさでハンターとしてダンジョンに久しく潜っていない。
代わりに後藤や重藤などの古株ハンターがダンジョン攻略に精を出している。
今も机に向かい書類の決裁をしているとドアをたたく音がした。
秘書が引き連れてきたのは、魔道具開発長の山下だ。
相変わらずおどおどとした態度の山下だったが、彼の現在の地位は組合長の内田に次ぐ地位だった。
そのことに山下は重圧とプレッシャーで冷や汗をかいている。
元引きこもりには耐えられない重圧だった。
「あ、あの内田さん。僕をお呼びと聞いて来たのですが」
「ああ、山下に『初心者ダンジョン』について聞きたかったんだ。あのダンジョンのマスターは人間だと思うか?」
「…可能性は高いと思います。あのダンジョンは人に配慮されすぎています。
香川健吾のようなダンジョンマスターが現れていますから、他のダンジョンマスターがダンジョンを作っても可笑しくありません。
ダンジョンに人が集まれば、それだけ魔力が集まります。それを狙っていると思うのですが…。
人が死ぬ可能性が低くてもゼロではありません。
作り出したダンジョンや魔物が暴走しないとも限らない。
ダンジョンとは人類にとって脅威だと思います。
ダンジョンマスターの恩恵を受けている私に言う資格はないですが…」
自嘲ぎみに言う山下。
「いや、君のお陰でハンター組合はここまで大きくなった。
ハンターカードはハンターの加入を増やした。
君の作る魔道具はどれも質が高く、売上げと質の向上に貢献している。
ダンジョンマスターとしての知識も他より優位に動ける。
君のおかげで私も助かっている」
山下がダンジョンマスターだと知られると、嫉妬と非難の声が上がる。
政府に知られれば連行されて、働かされるかもしれない。
政府に逆らう気はないが、信用してはいない。
内田が警察に拘束された過去もあることから距離を取っていた。
今後のダンジョンの動向に注視している内田だったが、山下は別のことを考えていた。
(三田さんはどうしているだろう)
初めて出会った、同じダンジョンマスターの少女。
彼女がどうしているのか気になる山下だった。
***
夏休みが明けた秋、レイナたちは週末に電車を使って、離れたダンジョンにいた。
レイナは『初心者ダンジョン』のマスターであるが、他のダンジョンがどのようにハンターたちに使われているのか。
今後のダンジョン経営のために学ぼうと思った。
そのダンジョンは奇しくも、前に見に来たことがある街中のダンジョンだった。
前回は抗議する人や横断幕や旗が掲げられていたが、現在は綺麗に撤去されている。
ダンジョン周辺の住人は立ち退き、ダンジョン関連の真新しい建物が建てられている。
街中には武器や防具を着込んだ人が普通に歩いていて、日常の風景とは思えないコスプレか異世界のように見える。
ダンジョンの入り口には検問のように施設が建てられている。
中の事務員がハンター証の確認すると、ダンジョンに通ることができる。
施設には他にも更衣室や有料のロッカー、シャワー室、会議室、休憩室など体育館のような整備がされている。
外部には魔物の素材買取や食堂、ホテルが軒を連ねている。
ダンジョン景気により街は人で賑わい、好景気に沸いていた。
一般人もお土産や魔道具を求めてダンジョンを観光地と見なし、観光気分で訪れる。
魔道具職人や鍛冶屋なんて店もある次第で、見ているだけで面白い。
魔道具屋はちょっと水や風が出る低価格の商品からハンター御用達の魔力回復薬。
お土産用の魔物の牙を加工したアクセサリーは若干の防御性能がある。
鍛冶屋は創業数百年の老舗が包丁や短刀、刀を古来の製法で作り販売しているかと思えば、新規の店は魔法と融合した魔法剣や魔物由来の防具を販売していた。
レイナは店を物色しては気に入った刀やナイフ、魔物素材製の部分防具のプロテクターや身軽性能のついた靴などを買った。
購入価格は数千万円にも上ったが、レイナは現金で一括購入した。
それでもお金は十分余っていた。
ダンジョン周辺の魔道具や武器屋、魔物買取店の他にハンターたちの組織の建物もあった。
ハンター組合や冒険者協会などと名乗っているハンターたちの組織だ。
ダンジョンや魔物の情報共有を行い、戦闘方法や魔法の技術講習などを行っている。
パーティー結成の斡旋所として掲示板形式や酒場のような雰囲気の店も近隣に立ち並び、独特の立地となっている。
高校生のハンターもいるので、普通の食事処の斡旋所もあった。
レイナが斡旋所の食堂で食事をしていると、ちらちらと目を向ける男子たちがいた。
レイナの美貌に惚れて、あわよくばパーティーに誘いたいようだ。
三人の男子の内、軽そうな男子がレイナに声を掛けてきた。
「ねぇねぇ、君もハンターかい? 良かったら俺たちと一緒にダンジョンに入らないか。
俺たち週末にいつもこのダンジョンに入っているから案内できるよ」
笑う軽そうな男に後ろの男子たちも追従する。
レイナは無表情で一瞬考えたが、男子たちの提案に頷いた。
レイナの了承が取れた男子たちは喜び食事を終えると、ダンジョンに引き連れていった。




