19 高校
レイナが受験勉強に勤しむ冬、レイナたちのダンジョンを開放することにした。
すでに深さは15階層まで達し、魔物の数、質、共に鍛えてダンジョンを攻略されない強さを持っている。
しかし、初心者のハンターでも入り易く、稼ぎやすいダンジョンとして何度も入ってくれるように工夫した。
まず一階層は草原に動く草。
一般人でも倒せるような弱さだが、素材として不味いが魔力回復薬として需要がある。
二階層は肥沃な大地に動く根菜類。
打撃を加えて攻撃してくるが硬さは普通の野菜なので、人に当たっても逆に砕けてしまう。
倒すと普通に野菜として食べれる。しかも魔力を含んでいるので、この野菜で料理を作れば魔力は回復する。
三階層は下水道に大きなネズミ。
大きなネズミが素早く足元を駆けていく。この辺りはハンター初心者の強さが必要。倒せば毛皮、尻尾、前歯が素材として使える。
四階層は通路に大きなダンゴムシ。
狭い通路から大きなダンゴムシが丸まりながら突進してくる。素材の甲殻は防具など硬い道具に使われる。
五階層は林にタヌキ。
この階層から魔法を使ってタヌキは姿を消したり葉っぱを使って攻撃してくる。
素材は毛皮、肉。
と続き鳥、アリ、木、猪と各階層にいて、10階層に花の魔物を階層ボスとして配置した。
花の姿の大きな魔物だが、花粉を飛ばして麻痺魔法を発生して動く草、動く木が加勢をして襲って来る。
これ以上ダンジョンを攻略させるつもりはない配置だ。
これ以降の魔物はレイナたちが直々に鍛えて、全て魔法が使えて魔物も一種ではない配置にして十分な安全牌を設けている。
それでレイナたちのダンジョンの情報を咲田に流した。
咲田も元々阿漕な商売で未発見のダンジョンに潜っているハンターから素材を買い取りしているふしがある。
今更レイナが未発見のダンジョンを隠していたことを見咎めることはないだろう。
すでにニンジン味の魔力回復薬の流通が少ないことで高額転売や諜報まがいの探りが入り支障が出ていた。
未発見のダンジョンから、動く根菜類のニンジンを倒して魔力回復薬を作れば価格も低下するだろう。
レイナたちが売っていた他の素材も価格が低下するだろうが、すでに十分お金は稼げた。
レイナがカフェのケーキセットを食べながら話したダンジョンの情報に、咲田は驚き呆れながら聞いていた。
「もっと稼げもするだろうに、未発見のダンジョンを教えるとは酔狂な奴だな」
「もう十分稼いだ。魔力回復薬の供給が少なくて、需要に追い付ていない方が問題だと思う。無用な詮索をされるのも嫌だしね
でも、咲田さんはそれでもいい?」
「まぁな、数が少なくて難癖つける奴も出てくる始末だ。価格が低下しても販売数が増えれば問題ねぇよ。
うちの店に来るハンターにそれとなく情報を流しといてやる。だが嬢ちゃんも引き続き俺と取引してくれよ」
咲田は素材や魔力回復薬の取引よりもレイナとの繋がりが今後の商談に繋がると考えていた。
咲田が馴染みのハンターにレイナたちのダンジョンを伝えると、彼らは密かにダンジョンに潜って魔物を倒し、豊富な素材を持ち帰って売り払った。
それだけでなく、彼らはこのダンジョンの浅い階層が一般人でも安全であることにも気付いた。
一~二階層で弱い魔物を倒して魔力を増やして行けば、身体能力の向上が見込める。
素材も需要の高い魔力回復薬なので価格は下がりにくいだろう。
まさに初心者用ダンジョンと言えた。
彼らハンターは後輩や初心者にこのダンジョンを紹介して、安全に魔力上げを行った。
このダンジョンが政府に知られるようになるまでに、ハンター達の間では初心者ダンジョンとして有名になっていた。
* * *
冬の受験シーズンになると生徒たちは俄かに慌ただしい雰囲気になっていた。
すでに推薦で高校が決まっている生徒、これからの受験に勤しむ受験生、何も考えていない生徒。
教室内で男子二名が雑談している。
「はぁ…受験か、嫌だなぁ」
「バッカ、お前これから将来のことを考えるならハンターになるべきだよ! 勉強なんてやってる内にこの世は弱肉強食になっちまうぞ」
「いやぁそれは君がただ単に勉強したくないだけだろ」
「バレたか。だが高校に行ったら俺ハンターになって魔法が撃てるようになるんだ!」
「まぁ、16歳からなれるから、したいならすれば」
「そこで朗報です。君も俺とハンターになろうぜ!」
「嫌だよ。そんな肉体労働、僕は事務職志望なんだ」
高校生になってからハンターを目指す子もいるようだ。
大半の人は魔物氾濫を過去の事故として記憶して普通の生活を続けていた。
森や山に魔物が出現するニュースもあるが熊や猪が表われたような認識であり、ダンジョン管理については政府が管轄するものと見做し、魔物やハンターについては新たな産業や仕事として歓迎しているふしもあった。
レイナは定時制高校を受験して無難に合格した。
成績は可もなく不可もなく。
同級生だった前田久美子は進学校へ進学して行った。特にこれと言った別れ話はしなかったが、図書室で「じゃあね」と言われたことは記憶に残った。
私服で高校に通うのは正直、服が面倒だとレイナは思いながら適当に着て行った。
同級生たちは髪を染め、洒落た服を着て、年齢も違った。
口うるさく騒ぐ男子が居れば、話し掛けるなと言いた気な子もいる。
レイナは我関せずと言った姿勢だが、高校に上がり成長すると美麗で冷酷な面差しとなり、他とは一線を画す雰囲気を醸し出して声を掛けづらいものにしていた。
教室内で男子が話している。
「なぁ、普通のバイトするより稼げる仕事紹介するから一緒にしないか」
「えぇ、いかがわしい誘い文句には裏があるものだ。何を隠している」
「隠している訳じゃないぞ! ハンターになって魔物の素材を売ればバイトするより稼げて、勤務時間も少ない。魔物を倒せば身体能力向上や魔法だって使えるんだぜ!」
「代わりに命の危険があるだろ。それに容易に稼げるとは思えないなぁ」
「それが最近見つかった『初心者ダンジョン』が命の危険もなく魔物を倒せるらしいんだ!
俺も地元の先輩に誘われてさ、行くんだが一緒に行かないか?」
「うーん、試しでいいなら一度はダンジョンに行ってみたいと思うけど…」
「皆も一緒にダンジョンに行ってみようぜ!」
そう言う男子に幾人かの生徒が反応を示した。
まだ初心者ダンジョンは政府に認知されずにハンター達に利用されていて、許可証のない彼らでも入ることが出来た。
どこか肝試しに行くような感覚でいる彼らには無知ゆえの若さと無謀さ、好奇心があった。
そのまま彼らは初心者ダンジョンに行く話し合いを始めていた。
それをしり目にレイナは話に参加せずに帰った。
自分が一番知っているダンジョンに行っても楽しくない。
レイナは16歳の誕生日である夏にダンジョン許可証を取得して他のダンジョン探索をするのを楽しみに、当分は見送ることにした。




