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17 魔力回復薬

 世界はダンジョンによって回り始めた。

 ダンジョンの利権を巡り争い、力を求めた。

 魔物を倒した素材を使って商品を作り、莫大なお金を得ていく。

 

 人は死に続けていると言うのに、欲望に支配された者たちの争いは止むことはなかった。




 レイナたちはあれから魔物と階層を増やして、10階層まで作り出していた。

 レイナは魔道具の存在を知ると、自分のダンジョンの魔物を使って魔道具を作ってみることにした。

 魔物たちはぷるぷるしながら素材を差し出してくれた。

 

 動く草の葉っぱをすり潰して舐めてみるが、苦くて食べづらい。

 しかし、魔力が僅かに回復して身体の傷も回復している。

 もっと工夫して作れば、美味しく食べられるかもしれないと動く草を使って試行錯誤していた。

 レイナが色々と頭を悩ませいる横で、ウーサがニンジンをぼりぼりと食べている。

 それを見てレイナはニンジンをすり潰してジュースにして飲めば、美味しいニンジンジュースとして魔力が回復した。

 動く草を無理に使う必要がなかったことに徒労感を覚えながら、美味しく飲めればいいやと開き直り、ニンジンジュースという魔力回復薬が出来た。

 

 増えた魔物の木や草、角や抜け毛など貰った物で、木を削って棒にすれば魔法付与は強くなったが、素人が作っているので耐久性も使用感もいまいちな出来だった。

 職人に作って貰いたいがレイナには伝手もお金もない。

 取り敢えず保存できる素材を集めて、いつかお金や魔道具の素材に出来るように収納に溜め置くことにした。

 



 * * *




 レイナたちが魔物の素材で魔道具作りに勤しんでいる間に季節は過ぎて、春になっていた。

 ダンジョンの開放とハンターの許可者については、16歳以上から許可が下りる事、ダンジョンは夏から開放される。


 16歳からの許可は賛否両論の意見が出された。

 未成年の子供が魔物を倒すことに反対する意見も出たが、本人たちがハンターになりたいという意見が多かったこともあり、許された。

 すでにハンターの許可講習会が開かれ、許可の下りたハンターたちは夏の開放を今か今かと待ち浴びていた。

 



 レイナたちの街から一番近いダンジョンは駅から二時間ほどの離れた場所にあった。

 街中の一角にダンジョンが出現したことから周辺の住民は甚大な被害と立ち退きを強いられた。

 しかし、今はダンジョンの整備で真新しい建物と周辺に店舗やホテルが立ち並ぶ建設ラッシュとなっている。

 すでにハンターやダンジョン運営の職員、関連の人が集まり店を開いている。

 武器や防具、道具や魔道具ですら、すでに販売している。

 銃火器、刃物類の使用は禁止されているが、ハンターの許可証があれば登録付きで所持が許されている。

 表通りには正規の店舗で商品が並んでいるが、路上には怪しい魔道具を売る人までもいる。

 

 レイナは下見でこのダンジョンに来ていたが、人の盛況ぶりに驚いた。

 まだダンジョンの開放も始まっていないのに、これだけ人が集まっている。

 それだけダンジョンに注目が集まっているのだろう。


 商品を見てみるとアウトドア用品や農機具メーカー、スポーツ用品まで置いてある。

 魔道具は、まだダンジョンが開放されていないので、少ない素材で効果の分からないモノもあり、まがい物と思われるモノも多そうだ。

 単純に火や水が出る物から、硬化する防具、魔力が高まる杖など様々だ。

 

 レイナがその中で注目したのは路上に無造作に魔道具を置いているおじさんだ。

 暇そうに煙草を吸いながら座っているが、レイナの魔力感知には彼が魔力を有していること、置いてある魔道具に魔力を感じる。


「……おじさん、この魔道具ってどこで手に入れたの?」

「何だ嬢ちゃん、魔道具が欲しいのか。ちょっと高いがうちのは本物だよ」

「おじさんが作ったの?」

「いやぁ、それはちょっと企業秘密ってもんだ」


 レイナが出所を訪ねたが、男は煙草を吹かせて胡散臭い笑いをするばかりだった。


「……買いたいんじゃなくて、売りたい。この魔道具の素材はおじさんが自分で獲って来たんじゃない? 魔物の素材、欲しくない?」

「……嬢ちゃん、あんたナニモンだ」

「何者でもない。ただの中学生」


 男は周辺を見渡すが、見張られているようでもなく本当にレイナ一人だと分かると小声で聞いてくる。


「それが本当なら是非欲しいが、まさか嬢ちゃんが非公認のダンジョンに潜って魔物を倒している訳じゃないよな?」

「それは企業秘密ってことで」

「…はっはっはっ、こりゃやられたな。分かった嬢ちゃんの持ってきた素材が本物なら何も聞かずに買取りしよう。

 ただし、本物と確認するために一度持ち帰る必要がある。金は次回用意することになるがいいか?」

「いいよ。素材がいくつかと魔力回復薬も作ってみたんだけど、これも売れる?」

「魔力回復薬!? こりゃ驚いた。そんなモノが存在するのか」

「見た目と味は完全にニンジンジュースだからね。一本あげるからおじさんが自分で確認してみて」


 レイナはかばんの中から魔物の素材数点と容器に入ったニンジンジュースを咲田と名乗った男に手渡すと、来週同じ場所で待ち合わせして別れた。



 

 翌週、レイナが同じような時間に行くと咲田はいた。

 レイナに会うと咲田は場所を変えようと、近くのカフェの店に案内した。

 カフェで咲田が好きな食べ物を注文していいと言うので、レイナはパフェを注文して食べた。

 初めて食べるパフェは、甘くて多くて意外に食べづらいものだと知った。


 パフェを食べるレイナを微笑ましく見ながら咲田は話した。


「嬢ちゃんから貰った物の鑑定をしてバッチリ本物だと確認した。

 先週も言ったが下手な詮索はしない。全て買い取らせてくれ。

 素材の買取り金額はこの紙に書かれている。

 問題は、ジュースの方だ。ありゃ未だ誰も見つけてないモノだ。

 途方もなく利用価値が高いモノを路上のおっちゃんに売りつけて良かったのか」

「誰も知らないなんて知らなかった。ただお金が必要だから売るだけだよ。

 でも、出所を秘匿することと必要な人に使って貰うことが売る条件かな」


 素材の金額が書かれた紙を見ながらレイナは平然と答えた。

 咲田としては特許権や独占権を行使すれば、いくらでも大儲けできる代物を得たいの知れない人物に預けるようなものだ。

 騙して下さいと言われているようで少し欲望が覗いてしまったが、それもまたこの子供かその背後の人物に試されているように思えた。

 この子がどこまで関与しているか分からないが、素直に言ってしまうレイナの若さと無欲さと善意が眩しく感じてしまう。


 思惑があるのはお互い様だ。下手な詮索をせずにビジネスとして取引をするのが大人のやり方だろう。

 咲田はほろ苦く笑うとレイナの条件を了承して契約した。




 レイナは碌に素材の詳細を聞きもせずに取引をした。

 一回の取引で受け取った金額が思った以上に多かったのだ。

 想像以上の金額に中学生のレイナは内心動揺して、確認もせずにそのままお金を受け取っていた。

 

 実は咲田が別のルートでレイナの素材を手に入れようとすれば、もっと金額は高くなる。

 しかし、咲田は商品の採算が取れる金額をレイナに提示していた。

 それを知らないレイナはそのまま素直に提示された金額を受けとった訳だ。

 また魔力回復薬についても、レイナはある程度の量を大きな容器に入れて咲田と取引したが、その後咲田は更に小さな容器に移し替えて販売しただけで結構な利潤を得ていた。


 騙してはいないが阿漕な取引である。

 レイナも結構な金額を現金で受けとっているので文句はないが、後から気づいた時は少し頬が膨らむのを耐えられなかった。

 大人のビジネスを学んだレイナだった。



 

 

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