16 ダンジョン
数日間の話し合いの結果、ダンジョンは人知れない山中に作ることにした。
最初の時期は人に見つからない方がいいという結論からだ。
ある程度ダンジョンが成長して大きくなってから、人々に宣伝しようと言うことになった。
奇しくも模倣とも言える、従来のダンジョンと同じような形式を取ることになった。
その代わりアフターサービスは十分配慮されたものにしようという話になった。
夏休みは終わり、いつの間にか学校が始まっていた。
二学期が始まると学校には転入してきた転校生が多い。
魔物氾濫がなかったこの街を頼って転校してきた子供が多いのだ。
それは戦争時に都会の子が田舎に疎開したような現象だった。
この街は今、魔物被害のなかった街として人口の流入に湧いていた。
新しいダンジョンはレイナたちが住んでいる街周辺から少し遠い場所の山中に設置することにした。
魔物のいない街に突然ダンジョンが出来れば混乱するだろうし、あまりレイナを知っている人間の周囲にダンジョンを作りたくなかった。
駅から二駅ほど離れた町の山中。周囲にダンジョンがないことも確認してからダンジョンを設置した。
ダンジョンコアは【やくざの事務所】と【岩場のダンジョン】を統合したダンジョン2となった物だ。
発生させる魔物は、動く草、動く根菜類、ネズミ、ダンゴムシ、タヌキとした。
数が増えやすくて、小さい生物を選んだ。
アコに言われるがまま、山中の地面にダンジョンコアを二つ埋める。
すると穴が出来た。
ウーサといた穴に比べると大きく頑丈そうで通りやすい。
中に入ると懐かしい動く草が数本植わっている。
最初は少なかったが数日もすると増えて草原となっていた。
魔物たちはレイナたちを見ても襲って来ない。
どこか似通った魔力を持ち、レイナたちがマスターだと分かるのか素直に命令に従ってくれる。
レイナは彼らそれぞれに特色を持った魔法、強化を教えることにした。
動く草は鋭く切れる刃、動く根菜類は飛んだ打撃力、ネズミは牙を硬化、ダンゴムシは丸まった回転力、タヌキは木の葉を使った攪乱。
週末ごとにレイナたちはダンジョンに赴いて、魔物たちを指導しつつ戦った。
レイナたちも色々と戦い方を模索して新しい強化を覚えた。
レイナは物の魔法付与。黒猫は透明化。ウーサは身体の弾力化。
レイナは木刀や石に魔法を纏わせて使う。
黒猫は透明になって相手の死角から攻撃する。
ウーサは弾力化で相手の攻撃を弾く。
ウーサが前衛、黒猫が攪乱、レイナが後衛と言ったバランスの取れた役割となった。
しかし、前から危惧していたがレイナたちに回復役がいない。
怪我をしてしまうと途端に動けなくなる危険性があった。
今までは弱い魔物を相手に戦っていたのでこれと言った怪我をしてこなかったが、今後もダンジョン攻略を進めていくのであれば、もっと強い魔物やダンジョンマスター、能力を持った人間とも戦う可能性があった。
怪我をした時どうするのか、回復方法が今後のレイナたちの課題だ。
* * *
週末になるごとにダンジョンに赴いて、魔物の強化とダンジョン作りをしていたレイナたちだったが、世界はダンジョンを巡って闘争し始めた。
魔物とダンジョンを倒すことで力を手に入れられると知ると、魔物の脅威よりも力を求めて人間は争うようにダンジョンを独占して魔物を倒して力を手に入れ始める。
それは政府だったり軍だったり犯罪組織だったり市民だったりした。
力と欲望を求めて熾烈に争い合い、これまでの世界秩序を覆し世界の覇権を変えていく。
斯くも逞しく貪欲で愚かな人間の業である。
世界が新たな覇権を巡って争っている中、日本はハンターと警察、自衛隊と揉めていた。
ダンジョンと魔物の有用性が知れ渡ると、侵入を禁止して警察や自衛隊が独占していることに市民の非難の声が大きくなったのだ。
自衛隊は他国からの侵略が高まったとしてダンジョンの独占による戦力増強を図り、警察は魔物討伐よりも治安維持を優先させて市民のダンジョン使用を規制している。
魔物は日夜ハンターが討伐していて市民の称賛を得られていたが、ハンターの発足人である内田を長期間拘禁したことでハンターの怒りを買い、批判の声が無視できないほどになっていた。
実力行使も辞さないと言うハンターも出てくる始末だ。
国民の声に政府は異例の発表をした。
ダンジョンの魔物の討伐と氾濫を防止するために許可者に対して一部のダンジョンの開放を行う。
一年後を目途に法整備とダンジョン探索者、通称ハンターの許可の制定。
全国の数か所のダンジョンを開放して運営を行っていく。
これに国民とハンターは歓喜した。
消極的で対応の遅い政府としては異様に速い対応だった。
政府としてもダンジョン需要による世界の加速についていく為にダンジョンの開放とハンターの確保を決めたようだ。
それぞれの思惑はあれど、ダンジョンが開放されることとハンターという仕事が出来たことは確かだ。
しかも現在、能力を持っている人を優先的に許可を出すと言う対応だった。
人々はダンジョン需要に乗っかるため、ダンジョン開放に向けた準備を進めるのだった。
* * *
レイナたちがダンジョン作成に勤しみ、日本はダンジョン開放に動いている間、世界は確実に治安が悪化し、能力を使った犯罪が横行して移動手段は減り、経済は停滞した。
魔物に襲われて亡くなる人より人間同士で殺し合う数の方が多い状態に、人類の人口は減る一方だった。
経済が停滞する一方、ダンジョンと魔物という未知の物質を研究する科学者達がいた。
魔力という新しいエネルギーが与える身体能力と、様々な能力。
ダンジョンに存在している物や生物は皆等しく魔力を含んでいた。
魔物を倒したり、身に付けたり、食べたりするだけで魔力が増える驚異的なエネルギーだ。
魔力を多分に含んだ物として、魔物の死体を解体して材料として物を作り始めると、魔力の通りが良く、魔法を発動しやすい武器や道具として、能力を持ち始めた者たちに重宝された。
魔力をあまり消費しないものなら、魔道具自身の内臓魔力で魔力を持たない一般人も消耗品として使えることで爆発的に魔道具の需要は加速した。
次第に魔物の死体は金銭で取引されるようになっていった。
魔物と魔道具が需要と供給のバランスとして経済を回すようになると、俄かにダンジョンによる好景気となっていく。
魔法に魔道具、魔法武器と夢のようなものが現実になるにつれて、人は目新しい面白い物、なによりお金に食いついて、ダンジョンや魔物を肯定的に捉えるようになっていた。
新しい大きな波に乗りさえすれば莫大な金銭を得られるとばかりに、人々は新しい時流に乗るのに必死だった。
いつしか魔物による犠牲も必要なことだと、人々に肯定されるようになる。
魔物被害も許容範囲の仕方のない犠牲として忘れ去られて行く。
斯くも人間とは見たいものしか、見ないものである。
不都合なことは目を背けて意識しない。
そこに悲しみや苦しみを感じている人もいると言うのに、大多数の大衆が問題ないと言えば、少数の人は苦しみに暮れて生きて行くしかなかった。




