13 ダンジョンマスター
ハンターたちはプレハブを宿舎として暮らしていた。
ハンターはネットを通じて全国に存在しているが、ここにはハンターを発足したリーダーの内田浩二と数人が集まっていた。
内田浩二は四十代の男性で、がっしりした体型鋭い眼光、顎髭の生えた作業服姿の男で、仕事道具の工具を駆使した武器で魔物を倒していた。
他にも大学生の後藤と二十代の重藤という女性がよくレイナに話しかけてきて、レイナも彼らと一緒に宿舎で過ごした。
ハンターの目的は魔物の殲滅とダンジョン探索だった。
魔物を倒すことによって力が強くなることを知った彼らは自己防衛のためにもさらなる魔物の討伐と、原因だと思われるダンジョンの探索を求めていたが政府に禁止されて憤っていた。
政府の対応も対策も不十分で、無意味に国民が死に晒されていると考えた彼らは単独でダンジョン探索に乗り出した。
しかし、森を探索して魔物を退治しているが、未だにダンジョン発見には至っていない。
レイナもウーサを伴ってハンターたちと森を探索したが、彼らの能力は筋力が上がったり、足が速くなったり、素早くなったりして集団で魔物を囲い倒すものだった。
彼らも単独で魔物を倒すことはまだ不可能だとして集団での行動を行っている。
また情報収集も盛んなようで、ハンターの中には魔法を使える人物もいるようだ。
「あー、見つからないなぁ、ダンジョン。魔物がこれだけいるからあるはずなんだけどなぁ。どう思います、重藤さん?」
「うーん、私たちは洞窟や穴を探し回ったけど、これだけないともっと別のものなんじゃない」
「別のものってなんですかね」
「それが分からないから苦労してるんでしょ。ねえ、レイナちゃん」
後藤と重藤のダンジョン探索についてきたレイナだったが、同意を求められても困る。
無言を通していると、返事は求めていなかったのかすぐに別の話に移っていた。
この二人やたら話すのが好きでずっとレイナに話しかけてくるが、レイナは終始無言を貫いていた。
コミュ障なレイナに対して二人は親を亡くてショックなのだろうなと好意的な解釈をしていた。そして、面倒見のいい二人は何かとレイナの世話を焼いた。
集団行動が苦手なレイナは二人のおかげでなんとか暮らしていた。
ウーサに関しても初めは警戒する人もいたが、二人が臆面もなくウーサを触って可愛がるので怖がる人はいなくなった。
森の中で話しながら歩く二人に、ついていくレイナとウーサ。
実はダンジョンの場所も分かっているが、自然に見つかるようにするのはなかなか難しい。
どうやって二人にダンジョンの場所を教えようか思案していると、一匹の魔物が川辺の岩の隙間から出てくるのを偶然見つける。
「これってもしかして……」
二人が岩場の隙間を覗くと、その先には隙間では有り得ない空間が広がっていた。
「こんな所にダンジョンがあるなんて、ほんと不思議な存在よね」
「こんなの見つかるわけがないっす!」
二人は急いでダンジョンの存在を皆に報告するために宿所に戻って行く。
レイナとウーサも続きながらダンジョンをふり返ると、するりと黒い猫が出てくるところが見えた。
ダンジョンの報告に内田は興奮して、ハンター全員で探索することを決めた。
ハンターたちが緊張で進む中、岩場の隙間を進みダンジョンに入ると熱帯雨林のような森が広がっていた。
ハンターたちは戸惑いながら進むと地面や空から虫型の魔物が襲って来る。
今まで以上の数の魔物にハンターは苦慮しながら戦っていた。
レイナも戦いをウーサに任せるとハンターたちの戦闘を観察している。
彼らはレイナと比べると身体的に遥かに劣るが、剣道の心得がある人が刀を振り回して魔物を屠っていく。
他にも連携して魔物を倒す彼らにレイナは学ぶことが多かった。
今まで火力でごり押ししていたが、これからは道具や立ち回りを考えて戦えたらと考えていた。
しかし、ハンターたちはレイナたちのようにダンジョンを突き進むことは出来なかった。
魔物の数が多く、熱帯雨林と言う熱く湿って歩きにくい環境ではすぐに疲労して戦うどころではなくなっていた。
内田はすぐさま撤退して、ハンターたちの消耗を抑えた。
宿所に返ると交代で短時間のダンジョン探索を行うことが決定した。
これはダンジョン探索と言うよりも力を付けるために魔物を効率よく倒すためといえた。
それからレイナは後藤と重藤、たまに内田が加わったグループでダンジョンアタックすることになった。
* * *
プレハブの宿舎にはクーラーはない。
涼しい山中と言っても真夏の暑さは堪えて、夜になった宿舎を飛び出てレイナは涼んでいた。
夜の森は虫の声やフクロウの鳴き声が聞こえて賑やかだった。
散歩しながらその声を聞いていたレイナは自分に近づいてくる足音に気付いた。
人気のない森の中、レイナに会いに来たのは山下という終始ビクビク怯えている男だった。
山下はハンターにしては、臆病でビクビクと怯えた様子だが、いつの間にか魔物を倒している男だった。
その男がレイナが人気のない所に見計らって接触してきた。
「君は…、君はダンジョンマスターだよね。ぼ、僕も同じなんだ! 同じダンジョンマスターで、君のような存在を探していた」
「…なぜ、私を探していたの」
「この危機的状況を理解してくれる人が必要だったんだ!
ダンジョンマスターである君には分かるだろう? このまま手をこまねいて魔物やダンジョンを放置しておけば、この世は魔物が溢れた世界になってしまう。
だから君も魔物を倒すためにハンターになったんだろう」
「……山下さんがダンジョンマスターになった経緯を教えてくれませんか」
「わ、わかった。
僕は引きこもりをしてたんだ、いわゆるニートだね。でも、人のいない夜に散歩するのが趣味で、夜に公園を歩いていると林の間から明るい光が見えた。
気になって見に行くと、何もない空間から青空が漏れていた。
茫然としながら中に入って、そこからはもう現実感はなかった。
晴れ渡る空に白い雲が一つ浮いていたんだ。
僕が雲に触ると無くなり、僕はダンジョンマスターになってた。
突然頭の中から声が聞こえた時は慌てて家に逃げ帰ったけど、声は無くならなかった。
それからダンジョンコアからダンジョンのことや魔力のことを教えて貰って新しい力を決めた。魔道具を作る力だ。
プラモデルや図工が好きだったんだ。魔法で作る道具に憧れた。
ただ単純に好きなことをしたかっただけで、最初は夢中で魔道具を作ってた。
それが変わったのが魔物氾濫の時だ。
魔物がそこらじゅうにいて、それが何か僕は知っていた。
でも怖くて、魔物に襲われるのが、人に化物扱いされるのが怖くて何もしなかった。
魔物の氾濫が収まってから死ぬほど後悔したよ。
母さんがパート先で魔物に襲われて死んだんだ。
僕には倒す力があったのに、怖くて部屋に閉じこもってたんだ。
死ぬほど後悔して、啼いて泣いて魔物を倒すことにした。これ以上魔物に殺される人を増やしたくないから。
でも、魔力の全てを魔道具作りに費やしてしまって、単独でダンジョンを攻略するほどの力はないんだ。
ハンターの人達と行動を共にしてダンジョン攻略に貢献できればと思ってた。
あわよくば、君みたいな他のダンジョンマスターがいればと」
男は泣きはらしながら懺悔に近い話をレイナにした。
「山下さんは私にどうして欲しいんですか」
「うっ、…僕と一緒に内田さんにダンジョンの事を話して欲しい。あの人が理解すればハンターは飛躍的にダンジョン攻略が進む」
「でも、山下さんから見て内田さんは信用できますか」
「それは…、僕には分からない。まだ会って間もない人だから。でも、ハンターを発足したあの人を信頼したい」
「でも私はまだ信頼してません。ダンジョンのことも私と山下さんが言ったからと言って信用されるでしょうか?
それともダンジョンマスターの力を皆に見せますか。確実に嫉妬されるか化物扱いされると思うから、山下さんも隠しているんじゃないですか」
山下は項垂れてしまった。
ハンターたちに世界の危機を教えるならば、ダンジョンマスターの力を見せればいい。
しかし、代償として山下はダンジョンで魔物を生み出す化物扱いを受けるだろう。
今の混乱の時期に聞いた人間がどういった行動、愚行を行うかなど歴史が証明している。さすがにそれは山下も避けたかった。
「私はこの森のダンジョンの場所を教えました。それだけでもハンターの人達は進展したと思います。
そもそも私がダンジョンマスターだって何故分かったんですか?」
「えっ、それは僕も少しは魔力が分かるから、君の周りに渦巻く魔力が分かったからかな? …本当は半分はあてずっぽうの願望だったんだけどね」
レイナは魔力漏れに気付かなかったこと、すぐに肯定してしまった自分の未熟さを恥じた。
結局その夜は話が進まないまま終わったが、山下は自分の秘密を話せて満足した顔だった。




