12 ハンター
魔物氾濫が起こった騒動のまま学生たちは夏休みに突入した。
各学校は夏休み返上で授業を行ったり、学校や学生に被害が出て休止のまま夏休みとなった学校など対応が分かれた。
レイナの学校は魔物の被害はなかったが、魔物氾濫の日から授業が行われることなく夏休みに突入した。
レイナの街では魔物の目撃も被害もなく、人々は比較的呑気に過ごしている。
しかし、レイナは今の日本現状と魔物の状況を確認するためにダンジョンに行くべきだと思った。
黒猫のその重要性が分かっているが、同時に危険性も捨てきれないと危惧した。
「今の魔物とダンジョンは確実に強くなっている。下手に行くのは危険だ。
それに人間にもダンジョンの存在が知られて、彼らは血眼で探している。
もし彼らとダンジョンで遭遇したら、確実に不審人物だと思われて攻撃されかねないよ」
「それでも行くべきだ。何もダンジョン内に入って攻略したい訳じゃない。
今のダンジョンや魔物に対する人間の対処を見ておきたい。
どの位警察や自衛隊、能力を持った人が強いのか確かめておきたい。
黒猫やウーサを彼らから守りたいの」
レイナの真摯さに黒猫も甘く、許してしまった。
早速レイナたちは被害が多かった関東地方へと赴いた。
関東の一地方の駅に降り立ったレイナたちは、都会の街中と言うのに壊れたままの窓やブルーシートで覆われままの店舗を見つけた。
普段は人で引きめき合っているだろう交差点は賑わいは少なく、時折血痕と思われる染みがアスファルトに残っていて、当時の人々の狂乱ぶりが見て取れる。
しかし、都会は暑い。熱風の篭る都会の暑さにレイナたちはすぐにバテてしまって、ダンジョンがあると言う山中に向かうことにした。
電車に揺られながら住宅地の多い山間部の駅に降りると、そこは様々な人が入り乱れて混沌とした街となっていた。
まず異様な光景は戦車が街中の道路に存在していることだ。周りには迷彩服の自衛隊員が鋭い目を光らせている。
警察やパトカーも多く見かける事ができた。
また、垂れ幕やプラカードを掲げる人々も多かった。
その多くは政府や自衛隊の対応を非難するもので、中にはダンジョンの解放を謳う者もいる。
山中のダンジョンへ続く道路を歩くにつれて、ダンジョン内の魔物を倒して力を得ようとする人と警察との押し問答が続けられる光景を見た。
道路は途中で封鎖されて、その先のダンジョンへと続く道はいくことが出来なくなっていた。
ダンジョン内部の様子を確認することは出来ず、警察や自衛隊も魔物の対応というより、市民への対応に苦慮しているようだった。
「何とも不毛な事をしているように見えるのは僕だけかい?」
「私もそんな騒ぐ暇があったら、復興や他の地域の救援に行けと思う。
…ここは人が多すぎるね」
ダンジョンがある街の対応を見たレイナたちは、次は人に知られていないダンジョンを探すことにした。
レイナが魔力感知で探すと、数駅離れた町にダンジョンがあることが分かった。
駅に降り立ち、町を見ると魔物の被害はあったようだがダンジョンの存在は知られていないのか町に人気はなかった。
ダンジョンを探して黙々と森の中を歩いていると魔物の気配が漂っている。
人目がないことからウーサを竹網籠から出して戦うことにした。
見つけた魔物はダンゴムシが巨大化した姿だった。
魔物はレイナたちを見つけると、丸まって突進してきた。
しかしウーサは難なく魔物を受け止めて、そのまま角で刺し殺した。
魔物はダンジョンマスターであるウーサ程の強さはないようだった。
魔物の死骸を観察していると人が草藪から飛び出してきた。
「やっべ! 君、魔物に襲われなかっ……て、魔物倒されてるね」
出てきた人は大学生ほどの青年だった。
動きやすい服が所々汚れながらヘルメットや肘当ての防具を付けて釘バットを掲げていた。
後から数人の大人たちが出てくる。
「ちょっと、後藤君! 一人で先に行かないでよ。危ないでしょう」
「後藤、君はもっと集団行動に気を付けてくれ。先走って連携が崩れれば、被害を被るのは君だけではないのだ」
「すいません。ちょっと熱くなって周りが見えてませんでした。ただ今はちょっーと別の問題が発生しました」
後藤なる青年に説教していた彼らは背後にいる小さなレイナたちを見ると、驚いて固まった。
こんな森の中に中学生の少女が一人でいるのだ。驚かない方がおかしい。
しかも近くには魔物と思われる角の生えたうさぎもいる。
大人達に緊張が走ったが、青年は慌てて弁解した。
「ま、待ってください。この子どうやらこのうさぎに助けられたみたいで、俺が取り逃がした魔物を倒してます。
ね、ね、その魔物はうさぎが倒してくれたのかい?」
青年の問いかけにレイナが頷いてウーサを抱き上げた。ウーサは大人しく抱かれたままだった。
それを見て大人達もウーサに襲われる危険がないと知り、緊張を解いた。
「びっくりした~、もう焦ったじゃない。でも君もどうしてこんな危ない場所にいるの?」
「待て、もしや君は与えられた力でそのうさぎを使役しているのか」
「あ! そうかだからここに魔物を倒しに来たのか」
「あっぶないなー、一人で来るなんていい度胸してるよ」
口々に喋る彼らにレイナも頷いたり、首を振ったりして対応した。
すると彼らも勝手にレイナたちを解釈してこういう設定の少女となった。
魔物の氾濫に巻き込まれたレイナは偶然魔物を倒して魔物を使役する能力を得た。
角の生えたうさぎを使役出来るようになると、魔物の氾濫で両親を亡くした失意と復讐の為、魔物を倒そうと一人ウーサを伴って魔物退治にこの森へとやってきた。
レイナが森で出会った人物たちは魔物の氾濫時に能力を手に入れた人々の中でも、その後魔物討伐を行う『ハンター』と呼ばれる人々だった。
もちろん活動は政府非公認であったが、魔物を討伐するのは暗黙的に許されていた。
しかし、ダンジョン外で魔物を倒すことは許されてもダンジョン内の立ち入りは禁止され、無断で入った場合は逮捕、拘束の対象とされていた。
ハンターの彼らは関東圏のこの森で特に魔物の出現が多いと情報を入手して、ダンジョンが存在しているのではないかと探索、討伐をしていた。
本来ならば彼らはレイナを家に帰したかった。
しかし、親を亡くした子供が一人で魔物を倒しに来るほど追い詰められていると考えると、彼らが追い払ってもレイナはすぐに一人で魔物を倒しに行ってしまうだろうと思われた。
それだけの孤独と固い決意をレイナは宿していた。
ハンターの中にも親子供を失くした人もいて気持ちは十分分かった。
それならハンターたちで保護して危険がないようにしようという結論に達した彼らはレイナに一緒に魔物退治をしようと持ち掛け、レイナも了承したのだった。
もちろんレイナには彼らの手助けは必要なかったのだが能力を持った人々の力を確認したかった。
レイナの気持ちとしてはスパイ活動に近かった。




