11 魔物氾濫
魔物の氾濫は世界中で同時期に起こった。
発見されていたダンジョンには警察や軍が詰めて、ダンジョンの研究究明をしていた所に、急に魔物が凶暴になり人間を襲ってダンジョンの外に出ようとした。
急な異変に対応できたダンジョンは魔物を外に出さずに殲滅できたが、全てのダンジョンが対応できた訳ではなく、多くの魔物がダンジョン外に出て人を襲い始めた。
魔物は動物に似たものが多かったが、全くの異形のモノや虫が巨大化したモノ、植物が動いて襲ってきた。
人々はダンジョンの存在は認知していたが、実際の魔物の姿を目にするとパニックになって逃げ惑った。
人々は魔物に襲われ傷つき殺された。
この日から世界はおかしくなって行ったのかもしれない。
人間が今まで体験したことのない出来事が起こり始めた。
* * *
レイナが魔物の氾濫を知ったのは学校の昼休みの時だった。
一人本を読んでいる中、雑談していたクラスの男子が携帯を持ちながら大声を出した。
「おいおいおい! ダンジョンから魔物が出てきて人を襲ってるってニュースになってっぞ!」
男子の言葉に携帯を持っている生徒は自分の携帯でニュースを見始める。
一人の生徒がニュースで流れる音声を大きくして、皆に聞かせてくれた。
「緊急速報が届きました。先日発見された未確認所在地、通称ダンジョンより未確認生物が一斉に出現して人を襲っています。
未確認所在地、通称ダンジョン近辺の住人の方は速やかに避難してください。
建物内に入り、未確認生物から避難してください。
建物内は施錠して侵入を防いでください。
繰り返します。――――――」
ニュースでは避難を呼びかける放送を繰り返している。
他の番組に替えると、被害地域と被害が拡大していることが分かる。
映像には人を襲う魔物と逃げ惑う人々が映っていた。
教室内が騒然となる中、校内放送が流れて生徒は直ちに体育館に避難するよう指示が出る。
担任の教師も教室に来て、落ち着くように宥めて生徒を体育館へと引き連れて行った。
体育館内に全校生徒を収容すると、教師は今後の対応を協議していた。
生徒たちは興奮している者が多かったが、不安そうにしている女子や携帯の映像に齧りついて興奮している男子などもいる。
「うっは、やべぇよやべぇよ。マジでモンスターに襲わてるじゃん。俺もモンスター退治に行ってみてぇ」
「バッカお前、それは即死ルートだろうが。警察や自衛隊でも対応しきれない数ってやばくない?」
「全世界で同時多発はおかしいだろ。誰かが意図してやっているとしか思えない。これって凄くやばいことだよ」
いつ襲われるか分からない不安で泣きそうな子もいたが、レイナはこの近辺ではそんなことは起こらないことが分かっていた。
なんせこの近辺のダンジョンは全てレイナたちの物だからだ。
だが、この街を離れた場合は分からない。それに黒猫とウーサのことが気にかかった。
レイナはアコにこの事態を知っていたか聞いた。
(アコ、魔物の氾濫は知っていた?)
(いいえ、知りませんでした。また私にそう言った指示をした存在はいません。しかし、魔物の氾濫自体は予期されていることでした)
(予期されていたとは?)
(ダンジョンには魔物が一定に増えれば外に放出する機能があります。
ダンジョン内という狭い空間ではなく、外での繁殖で魔力増大を図る機能ですが私の予想ではまだ数年先のことでした。
ダンジョンの発達はまだ未熟で魔物も少なく弱いですから、……しかし、何らかの事態が起こったと思われます)
ダンジョンの存在が世間に認知されたからだろうか?
分からないがレイナにとって大事なことは黒猫とウーサと共に生き延びることだ。
数時間体育館に拘束されたが、外の安全が確認されると学校は速やかに生徒の帰宅を指示した。
集団で帰宅する生徒や親が迎えにくる子の中、レイナは木造の家に急いで帰った。
家には呑気に読書する黒猫と昼寝するウーサがいた。
二匹に異変はなく、レイナは安堵した。
レイナに魔物氾濫の出来事を聞いた黒猫は驚いて事態の深刻さをレイナに言い聞かせた。
「これは人類存亡の危機だね。魔物はダンジョンの外でも増えるだろう。
世界はより危険で魔力が満ちることになる。
しかし、人間の軍隊が強力で銃器の性能が魔物にも効くのなら分からない。もしかしたら魔物を掃討出来るかもしれない。
そのままダンジョンまで抑え込めれば人間の勝利だろうけど、これからの対応次第じゃないかな」
尻尾を揺らしながら今後の展開を予想している黒猫にレイナは感心しながら自分たちはどう行動すればいいか考えた。
優先順位は黒猫とウーサと木造の家だ。これらさえあればどこに行ってもどうにかなると思っている。
しかし、準備は大事だ。何かあった時にすぐ対応できるように今のうちに出来る事をやっておこう。
ちょっとずつ貯めて夏の楽しみにしていたお金だが、服や日用品、食料を買い占めることにした。
しかし、人間同じような考えをするのか、店に行くと多くの人が買い占めを行い混雑していた。
すでに商品がない棚もあり、人々が恐慌状態に陥っているのが分かる。
まだこの街は魔物の被害に遭っていないが世界の現状はリアルタイムで悪化している。
少しでもこの事態を乗りきろうと足掻いているのが見て取れる。
レイナは食料を買うのを諦めて服を買うことにした。
* * *
魔物の氾濫から数日が経つと魔物の被害は収まりつつあった。
警察や自衛隊の出動が相次ぎ、市街地で銃を発砲する事態にまで陥っていた。
しかし、魔物を殲滅したとは言えず、人知れず森や山に逃げて潜んでいる魔物もいた。
亡くなった人や怪我した人も数多く、全国の病院は人で溢れかえっていた。
政府の対応が求められることになったが、国民に外出を控えるように報道した以降、目立った対策は取られていない。
自衛隊と警察だけで魔物に対応しきれず、未だに魔物の殲滅に腐心している状態だった。
この事態に自ら魔物に立ち向かう者が出てきた。
襲う魔物と逃げ惑う人々で混雑する街中で、店の鉄バットで殴り続ける元野球球児のサラリーマンや学生。
繁華街でナイフ片手に薄笑いを浮かべながらキャバ嬢を守る黒服のホスト。
山奥で孤立した救援が見込めない村で猟銃を構える老人。
生き残るために正義感のために享楽のために義務感のために人々は戦った。
魔物に無残に倒される人もいたが、魔物を倒した者には不思議な力が宿るようになった。
それは力だったり瞬発力だったり身体能力が上がるものが多かったが、治癒力というものまであった。
その人が今本当に欲した力を手にしたのだ。
レイナたちが手に入れたダンジョンマスターの力と比べると微々たるものだったが、平和に生きてきた人々に戦う力を授けたのだ。
彼らは自分の大切な人の命を守るために奮い立った。
数週間もすると日本は一応の平穏を取り戻した。
店や学校も始まっていたが学生はすでに夏休みに突入していた。
テレビでは魔物による被害報告が流されていたが、すでに警察や自衛隊が対処できるまでに数を減らしていた。
しかし、自ら魔物を倒して不思議な力を手にした人々について、議論が盛んに行われていた。
力を手にした人々によって多くの命が助けられたことから排斥という風潮ではないが、神から授けられたものだとか超能力に目覚めたとか危険な思想に走る者もいた。
魔物氾濫時には能力を使った自衛隊も目撃されているらしく、以前から不思議な力を知っていたであろう自衛隊と政府に非難の声を上げる人もいた。
中には『ハンター』と謳い、同志を募って魔物の討伐とダンジョン攻略に乗り出そうとしている集団もいた。
日本は治安のよい国とは言えなくなりつつあった。




