10 いじめ
加納達のレイナへのいじめは益々エスカレートしていった。
悪口では母子家庭の父親が誰かもしれない子で、母親は夜の仕事をしている。やくざから借金をしている。レイナも繁華街で夜の仕事をしている。と噂話を拡げて言った。
レイナが盗難防止に教材や履物を持ち運ぶようになると、レイナが使っている机や椅子を移動させて隠したりした。
しかし、廊下でつき飛ばそうとしてレイナが避けて転んだり、トイレで水をかけようとしたが察知されて失敗に終わったりと、加納達のいじめの成功率は高くなかった。
とうとう鬱憤が溜まった加納達がレイナを校舎裏の物陰に連れて行き、撮影する携帯の前で服を脱ぐように強要してきた。
あざ笑いながら携帯を向けてくる加納にレイナは冷静に返した。
「ちょっとあんた、そのクソ生意気な顔がムカつくから服脱いで土下座しなさいよ」
「何で生意気な顔しているだけで、そんなことしないといけない?」
「ちょー協調性のないあんたに日本の慣習の『空気を読む』てことを教えてやってるのよ!」
「ぎゃはは、マジ受けるんですけど」
「まー言う通りにするんだね」
動こうとしないレイナに加納は焦れて、張り倒そうと手を伸ばしてきた。
レイナは加納の伸ばされた手を掴み捻り上げる。
加納はレイナの急な反撃に反応できず、手の痛みで悲鳴を上げた。
「い、痛い! 痛いから離して!」
「私は日本の慣習だからといって空気は読まないし土下座もしない。また私にちょっかいを掛けるなら今度は本気の痛みを味あわせてあげる」
「し、しない! もういじめないから、この手を離して!」
狼狽えるばかりの二人に加納を返すと、目に涙を浮かべながら加納は腕を擦っている。レイナが捻った手は赤く腫れていた。
加納達はレイナが黙っていじめを受けるだけの人間ではなく、実力行使で反撃してくる相手だと気付くと途端に分の悪さを察してレイナから逃げて行った。
陰湿ないじめは得意でも自分の身体を痛めるのは嫌だった加納達にレイナはもっと早く対処していれば良かったと思った。
三人での喧嘩にでもなるようだったら、やくざから簒奪した拳銃で脅してやろうと思っていた。
その後、加納達はレイナをいじめることも接触することもしなくなった。
手の痛みを使って逆にレイナを訴えて来るかもと思ったが、レイナの脅しは加納達に本気の脅しであると見えていたのかもしれない。
クラスの男子に話し掛けられることはあったが、レイナは全て無視した。
その姿勢に他の女子たちもレイナが男子に完全に興味が無いことが分かると、嫉妬の目を向けることはなくなった。
その後、度々図書室で前田久美子に会うことがある。
彼女はレイナが加納たちに何かを仕掛けて、いじめを止めさせたことに気づいていた。
一人で解決してしまったレイナに内心、呆れと尊敬を覚えて時々レイナが図書室で一人でいる時に話し掛けてくるようになった。
話と言っても今読んでいる本のことをちょこっと話す程度で教室ではお互い顔を合わせはしない。
加納達からのいじめもなくなり男子にも無視を決め込んでいるレイナだったが、クラスでの立ち位置は微妙で、結局不干渉という以前のクラスと同様の対応となっている。
その雰囲気のクラスの中、久美子もレイナに話し掛けて友だちになる胆力はなかった。
* * *
レイナが学校のいじめでごたごたしている間、黒猫はより一層読書に励み、ウーサは相変わらず花を食べていた。
レイナも風と水の魔法をどうにか使えないかと工夫しているが、火ほどの威力は出せずに伸び悩んでいた。
そこで別のアプローチとして文明の利器たる道具を使うことにした。
幸いやくざの事務所から強奪した武器が多数ある。金属バットや木刀、ナイフや刀、拳銃などもある。
練習で木刀を振り回すが、剣道を習ったこともなく握りや構えも知らないお粗末な者だったが、身体能力だけは高いので当たれば大きな威力になるだろう。
ナイフは投げナイフとして使うしかないだろうか。
拳銃は使い方事態知らないので不要に触れず、練習して少ない弾数を消費するのも勿体ないので死蔵することにした。
これらの武器はレイナが新しい力で手に入れた収納の中に普段入っている。
武器の他にも現金などが入っているが、レイナは使うつもりはなかった。
やむ負えない事態には使うが、今は緊急事態でもなくバイトをすればお金に困ることはなかった。
* * *
世間ではとうとうダンジョンの存在が明るみに出ていた。
切っ掛けは海外の動画サイトで、ダンジョンに潜り魔物と戦い倒した動画が投稿されたことだ。証拠となる魔物の死体を持ち帰ったことで本当に存在していることが分かった。
すると動画を見た世界中の人々がダンジョンを探し出し、魔物に襲われる事案が世界各国で多発した。それを受けて政府はやっとダンジョンの存在を認めた。多くの国がダンジョン立ち入りを禁止して軍や警察によって封鎖された。
しかし、ダンジョンの存在を秘匿して勝手に潜っては魔物に殺さる人もいた。
日本も各国の対応を受けてダンジョンの存在を国民に報道した。
人気のない場所に未知の生物の目撃情報が多く寄せられ、襲われる事件が起きていることから、不用意に人気のない場所には不要に近づかないこと。知らない洞窟や穴に入らないで、ダンジョンを見つけた場合はすぐさま警察に電話するように注意喚起した。
魔物については動物が変異した生物だとか、宇宙外生命体が侵略してきたなどと憶測が飛び交ったが誰も真相は分からなかった。
また、魔法や魔力、ダンジョンマスターなどの情報は一切出ていない。
そこまで分かっていないのか、政府が情報規制をしているのかもしれない。
世界は終末論、宇宙からの侵略論、野生動物の変異論、化学実験論など様々な憶測が議論されていた。
* * *
ある地のダンジョンの最下層にローブを被った一人の男がいた。
男は目の前の一面にあるモニターを観察しながら作業している。
モニターには世界各国の分布図が映し出されていた。
数多くの点が灯されていたが、常に変化して消えては灯り大きくなったり収束したりしていた。
「まだまだ足りないな。このまま観察を続けても遅々として集まらない。
魔物の氾濫を行うしかないか……、これで俺も大罪人だな。しかし、世界の為にもしなければならない」
男は固い決意を滲ませて再び作業に戻った。
* * *
レイナたちは気が付けば夏に入っていた。
ダンジョン探索を中止して世間でもダンジョンの存在が公になって賑わっていたが、レイナは探索を諦めていたわけではない。夏休みにバイトが貯まれば再びダンジョンを探すつもりでいた。
今も新聞配達のバイトを始めてお金を貯めている。
ちょっと遊びもかねて今度は遠出の海でも目指そうかと考えていたが、世界はもっと目まぐるしく回り始めていた。
ある日、ダンジョンから魔物が出てきて人を襲い始めた。
魔物の氾濫だった。




