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「おい、ここから出せ!」


 テオが叫ぶ。


「出してやるさ、身元引受人が来たらな」


 警官は鉄格子を挟んでテオと向かい合う。


「俺には身元引受人などいない!」


「家族くらいいるだろ」


「家族は……」


 テオは後ろを見た。後ろの長椅子にはガイが座っている。ガイは無言だ。


「親子で痴漢行為とはな。さいわい被害者は告訴しないそうだから、よかったな」


「誤解だったのよ、ごめんなさいね」


 告訴しなかった被害者ことサラは、警官の隣で同じように鉄格子の中を覗き込んでいた。


「告訴してくれてもいいんですよ、レディ」


「被害には至りませんでしたもの。でもさすが頼りになりますわね。『痴漢だ』と大声をあげたら周囲にいらした紳士が取り押さえてくれたし、警察の方もすぐに駆けつけてくれましたし」


「世の中には男は二種類しかいないんですよ。紳士かクズか、です」


 厳つい警官はチャーミングなウインクをした。


「とにかく、おまえらは身元引受人が現れたら解放してやるからな」


「くそ。おい、ガイは誰かいないのか、善良な市民の友人は。そしたら次はおまえが身元引受人になって俺をここから出してくれ」


「……うるさい黙れ」


 サラは心の中でガイに謝った。テオを逃してはならないと思って、とっさに「痴漢よ!」と大声をあげてしまったのだが、どう考えてもサラを押し倒していたガイのほうが痴漢だった。


 予想以上に紳士だった通行人のみなさまに助けられて、サラと痴漢たちは警察に運ばれたのだ。

 サラがガイを引き取れば良いのだが、いまさら言い出しにくい雰囲気になってしまった。

 一晩だけ留置場にいてもらおう。そして明日の朝一番に大家さんに引き取ってもらえばいい。親子水入らずにしておけば、つもる話もあるだろう。アシュリーの件もある。そこまで算段して、サラはガイの顔を見た。

 暗い。痴漢扱いされてショックだったのだろうか。



 翌日、警察署の前でサラは大家を待っていた。ところが大家はガイを伴わずに出てきた。


「ガイはどうしたの?」


「もう帰ったと。誰かが回収に来たらしいぞ」


「誰かしら」


「教えてくれんかったが、信用のある人物らしい」


 気勢をそがれたサラは、ふうと息を吐いた。


「でもテオはまだいるんでしょう。それともテオもまとめて引き取られたのかしら」


「ああ、親父の引受人なら今ちょうど中で書類にサインをしているぞ」


「……どんな人?」


「子供を連れた若い女性だな。妻と子供だとか」


「妻と……子供ですって?」


(アシュリーはどうなってるのかしら。なんて無責任な男なの)


 顔を見てやろうと玄関に向かうと、笑顔のテオが出てきた。その隣にはアシュリーがいる。


「待って、ママァ、パパァ!」と元気にかけてくる5歳くらいの男の子。


「アシュリー……?」


 アシュリーとテオがサラに気づいて立ち止まった。子供はアシュリーのスカートに抱きついて、不思議そうにサラを見上げる。


「今日はダチョウはいないの?」


「家に……。そんなことより、その子供は……」


 面影があった。テオの瞳とアシュリーの唇をあわせ持っている。


「あなた、本当はいくつなの?」


 口元だけで微笑んだアシュリーは「今年で23よ」と本当の歳を明かした。


 サラは思わず手を叩いた。8歳もサバを読んでいたのか。そういわれれば、どことなく世慣れた雰囲気がにじみでている。今までが演技だったのだろうか。


「お見事ね。貴女、復讐の天使をやってみない?」


「は? 復讐の天使?」


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