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ガイはどこか遠くに視線をやった。サラの声が耳に入っていないようだ。
置いてけぼりをされたような気がして、衝動がサラの唇をかすめた。
「ガイには好きな人がいるんでしょう」
「え、好きな人……?」ガイは視線を避けた。「突然、なにを」
「わたくし、そんな気がしたのですわ。ここには二人きりしかいないし、秘密のお話もできましてよ」
「あっちには馭者もいるし、ピーちゃんたちも……それに恋愛は……得意ではないし、とくに話すことなど……」
「わたくしには今とっても好きな人がいるのよ」
呼び水を仕掛けたサラだったが、ガイは乗ってこなかった。
「そうか、話を聞けということか?」
「貴方と、もっとプライベートな話をしてみたいと思ったのよ。恥かしいことではないでしょう」
「いまさらだな。恥かしい家族のこともお互いよく知ってるし」
「もう少し、近づいてみませんこと」
「足もとに気を付けて。ぬかるんでいるから」
(奥手なのね。こちらから迫ったほうがいいようだわ)
「そろそろ戻ろう。職業斡旋所が閉まってしまう」
ガイはあっさりと馬車に向かった。
だがサラは確信した。ガイは色恋に関しては恥かしがりやなのだと。
サラたちが町に戻ったときは職業斡旋所の営業がちょうど終わるころだった。
建物の入口から出てくる人は、時間いっぱいまで仕事を探していたのだろう。十人以上が肩を落として、ぞろぞろと続く。
「あら、残念。間に合わなかったわ」
明日は早起きして、この仲間にならなくては。そう、サラが決意した横で、ガイがいきなり落雷のような怒声を落とした。同時に猛然とダッシュする。
「おまえ、こんなとこに!!」
ガイの右手が建物から出てきた人物に向かって伸びた。
喉元を掴まれて持ち上げられた顔はガイによく似ていた。テオだ。
「くそガキが!」
テオはガイの足を蹴飛ばした。手が離れるとみるや、ガイの腹に強烈な蹴りをいれた。
「きゃあ」
飛ばされたガイの下敷きになってサラは地面に倒れた。ガツと痛そうな音がして、ガイの体から力が抜けている。頭をぶつけたようだ。
テオはふんと鼻を鳴らして駆け去っていく。
(逃がしてなるものですか!)
だがガイが重石になってサラは動けない。
「やりなさい、ピーちゃん!」
ダチョウは嬉々としてテオを追いかけ、あっという間に追いつき、勢いよくキックを浴びせた。
人間が空を飛ぶところをサラは初めて見た。
「もうそれぐらいにしなさいな、ピーちゃん!」
興奮したダチョウにサラの声は届かず、意識を失って地面に伸びたテオの頭を嘴で突っつき続けた。ぶちっという音もたびたび混じった。




