スカウト
公園は図書館の横の植物園の先にあった。こじんまりとした森のような一角を抜けると、芝生に覆われたスペースで、様々な大道芸が行われていて、観衆の中に人形遣いに見入るアザーニとウルサスがいた。
「見て見て、まるで生きているみたいよ」
視線の先を見ると、操り人形がダンスを踊っている。ふとカヤミ・ウロキのパペットを思い出して、少し暗い気分になった。まさか、彼が開拓世界に来ている可能性はあるのだろうか。しかし、このことはアザーニには伝えてはいけない。わたしの心のうちにしまっておかなくては。
「お気に召さないの?」アザーニが不思議そうに尋ねる。
「いいや、なんでもないの」不安を振り払うように、返答した。
人形のダンスが終わり、拍手が鳴り響いた後、別の男がやってきて、口を開いた。
頭頂部以外を刈り上げた妙なヘアスタイルで、上半身裸の屈強そうな男である。
「今から一分間、攻撃をする。俺の攻撃が当たらなかったら賞金をやる」
攻撃をよけるのには自信があったので、男に質問してみた。
「腕でよけるのはアリだよね」
「言ったはずだ。当たらなければ賞金をやると。腕に当てて攻撃を避けるのは、なしだ」
だとすると、わたしは自信がない。反射的に手や足が出てしまう。
「私がやってみるわ」
男は、アザーニの姿を見ると、高笑いした。
「大丈夫かい、お嬢ちゃん。おうちでねんねしてた方がいいんじゃないか」
ウルサスはこう切り返した。
「もし、お前さんの攻撃が当たらなかったら、おまんまの食い上げだな」
「よし、やるか。当たっても泣きべそかくなよ。お嬢ちゃん」
アザーニは男の目の前に立ち、手を振り、つま先を地面につけてこねくり回し始める。準備運動が終わると自然体で立った。
「始め!」
男は叫ぶと、ごつい腕を振り回した。アザーニは男の大ぶりな攻撃を見切って、バックしてかわした。
男は続いて、前蹴りを繰り出してくる、時折来る腕のぶん回しには、身をかがめて対応する。男が頭突きをしようとする。アザーニは背をそらしてかわす。左の回し蹴りが飛んでくる、彼女はバク転をしてよけた。
「彼女もやるようになったな」ウルサスは髭を撫でながら、嬉しそうな目で見つめていた。
一分経過し、男は肩で息をするようになったが、アザーニは平然としている。
「わかった俺の負けだ」
男は、首を垂れ、賞金を差し出した。
「やったわ。すごいでしょう。私が勝てたのよ」
喜ぶアザーニをわたしはハグして、健闘をたたえた。
見世物が終わると、一人の紳士が私たちの前に進み出てきた。
「そこでサーカスをしている関係者です。あなたにサーカスに出てもらいたいのですが」
意外な申し出に、アザーニは歓喜した。
「私、サーカスからスカウトされちゃった」
「それで、出し物は何になるんでしょうか?」
「その敏捷性、身のこなしから判断して、綱渡りか空中ブランコに出ていただきたい」
「どちらも危険性が高いじゃないですか。わたしは賛成しかねます」
「大丈夫よ。私、リヤに鍛えられてから自信がついたもの」
「短い期間で、出し物も基本的な動作になるから大丈夫ですよ」
こうして、アザーニは、サーカス団に入団することになったが、わたしは一抹の不安を感じていた。
もし、彼らの中に、カヤミ・ウロキがいたら。しかし、余計な不安を与えるわけにはいかないので、彼のことについては、口をつぐむしかなかった。
「どうした、ずいぶんと浮かぬ顔をしているようだが」
「話が急すぎるわ。それに危険だわ」
「命綱はつけるだろうし、下にネットぐらい張るだろう」
わたしは、ウルサスに説得されて、宿へ戻った。
広場では、明るいクラウンが、ヘマをして観客を笑わせていた。
サーカス団で、アザーニは出し物の訓練をすることになり、わたしたちのパーティから外れた。
「しばらくかかるだろうから、俺はエゼッスとジータス間の旅行者の用心棒をする。ついて来るかい」
「そうこなきゃね。わたしも身体を動かさないとなまってしまう」
「じゃあ、リヤ、ウルサス、舞台で会えることを楽しみにしてるわ」
「こちらこそ、練習頑張ってね」
「はい。頑張ります」
わたしたちは、アザーニと別れて、宿屋へ行き、夜に出発する旅行者の用心棒として営業することの許可を得ることにした。宿の主人は、わたしのなりを見て、「女が大丈夫かい」という顔をしていた。だが、ウルサスと顔なじみだったので、了承してもらえた。
夜間の旅は、昼間とは違い視覚情報が制限される。今回はお札を持たないので、発光する夜盗も出てくるだろう。遮光版をつけたままだと、もう一つの敵に対応できない。ウルサスの話だと、森の中では、発光系の出現率が低くなるそうだ。両者入り乱れての登場が一番困るので、朗報だった。
エゼッスの騒がしさから離れて、夜の森へと繰り出す。二人の旅行者を挟む形で、わたしたちは進む。先頭を経験豊富なウルサスが担当し、後方の見張りはわたしがやることにした。森に入る前の草原のあたりで、念のため遮光版で目を覆う。何かが光り、五名ほどの人のようなものが、群がってきた。わたしは、気合を入れた声を出して、相手をいなした。手を振りほどいて、剣で突く。敵も武器を持っており、金属がぶつかる音がする。最初に来た大柄の何者かを、手持ちの剣で振り払うと、たまたまそいつがボスだったのだろうか、人の倒れる音が聞こえて、残りの賊が逃げて行ってしまった。奴らの声は、甲高くて小さな声で話すので、何をいってるのか聞き取れなかった。
「彼らは遮光版を用意してるって知らないのかしら」
「モンスターだから考えが至らないんだろう」
月明かりが頼りの戦闘は、敵の判別が難しく、それ程、剣の能力に長けていないモンスターで助かった。わたしたちは、お互い声を出し合って、所在位置の確認をした。以前の記憶で、そろそろ森に差し掛かるだろう場所に来た時、蔓がすべって幕が風を切るような音がした。
背中に何かが覆いかぶさった。チェーンメイルのお陰で、モンスターの牙は届かない。とっさに後ろに倒れて、背中の物を押しつぶすと、簡単に外れた。旅人たちの上からも、蔓が落ちてくる音がしたので、空中をなぎ払って、蔓を断ち切った。月明かりに照らされてひっくり返ったモンスターを見たら、大き目の緑色のキノコの笠に人のような物が丸まって入っていた。わたしたちは急いで、森の中を抜けることにした。
「夜の方が、静まり返っているから気づきやすいわ」
「あの音は慣れれば、大分わかりやすいだろう」
「旅人さんは大丈夫かしら」
「俺が指一本触れさせてないぜ」
まだ暗いうちに、ジースタに着き、ジースタの宿屋に泊まることにした。明日は昼まで寝て、別の旅行者を送り届ける。夜間帯の護衛は、月明かりとカンテラが頼りなので、ハードだが、久々に戦闘をしたという気になった。




