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エゼッスの町探訪

 他の町と比べて、建築物の数が多く、中級の都市としての機能を備えていた。大ぶりの門から中に入り、点在する灯りを頼りに宿を探す。飲み屋街も多かったが、今日は疲れもありパスすることにした。ジースタとは違い、建物のデザインがどことなく洒落ていて、大胆な色遣いの建物が混在していた。派手なブルーに彩られた看板の宿をみつけたが、アザーニはオレンジと茶色をベースにした宿の方が落ち着くといいだしたので、そちらを選んだ。


 中身は落ち着いた木のカウンターで、眼鏡をかけた中年男性が宿泊料を説明し、鍵を渡した。私たちはウルサスと同じ部屋になった。窓を開けて外を見ると、夜間だというのに人通りが多かった。ジースタの飲み屋街もそこそこ人はいたが、人数の多さや喧噪(けんそう)では負けている。出かけたい誘惑にかられたが、アザーニが疲れていそうなので、自粛した。


 部屋に用意されていたガウンに着替えて、各自寝ることにした。外がうるさいので、窓をきっちり閉めカーテンを引いた。「羊でも数えようか」とウルサスが声をかけた。「程よい疲れだからぐっすり寝られると思うわ」と返事をして、アザーニを見ると、すぐに寝息を立てていた。明日の予定は明日立てることにして、私たちはベッドにもぐりこんだ。



◇◆◇◆



 エゼッスのいいところは、目覚ましが日の出でも雄鶏の鳴き声でもないところだ。好きな時間に起きることができる。ガウンから着替えて、洗面所で洗顔する。簡素なメイクをする。アザーニはすっぴんだったので、メイクできるか訊いてみた。

「それぐらいできるわ。あまり上手くないけど」

わたしは、彼女のナチュラルメイクを見て、あまり素顔と変わらないことに気づき、丁寧なメイクの仕方を教えてあげた。鏡を見た彼女は歓喜の叫び声を上げて「これが私? ねっこれが私?」と何度も訊いてきた。


 ウルサスも起き上がり、アザーニの変貌ぶりに驚いていた。

「お嬢様、ずいぶんお目見え、お麗しくなりましたね」

「奇麗でしょ。リヤに教えてもらったの」

リップだけは、食器につくと嫌なので後回しにすることを彼女に伝えて後回しにした。

ウルサスは、軽く髭の手入れをした後、食堂で朝食を取った。サラダにミルクにパンにスープと副菜をトレーに乗せて食卓に着いた。食べながら、今後の予定について話し合った。


「わたしは彼女を連れて中央の図書館に行くわ」

「図書館は退屈だからサーカスを見に行きたいわ」

「図書館で調べ物があるのよ。占い関係のご本も豊富だと思うわ」

「占い関係はほとんど見ているから必要ないと思うのです」

「図書館だけだと肩がこっちまうな、俺と来な。公園を案内してやるよ」

「助かるわウルサス。アザーニをお願いね」

「おう。調べ物がすんだら公園内の大道芸の広場に来てくれ」


 こうしてわたしは、アザーニをウルサスに預けて、図書館で東の国の調味料について調べることにした。

ウルサスがアザーニを構うことは、今までの流れからわかっていたけど、不思議と焼きもちは焼かなかった。


 二階建ての広々とした建造物が公園の一角を占めていた。中の人たちは、ジースタやロハンナスなら教会の付近にいそうな痩せてメガネの男性が目立って多かった。カウンターに行き料理関係の棚を教えてもらう。四五冊の分厚い書籍を片手で持ち歩いていると、周囲の痩せ男たちが驚愕の表情で見つめているのが面白かった。空いている席に座って、速読法で該当箇所を探す。なかなか見つからない。


 ふいに小声で話しかけられた。年の頃なら十代後半の巻き毛で小さい目の男性がいた。何を言ってるのかが聞き取れなかった。「図書館では静かに」と伝えると、「その本重くないですか」と訊いてきたので、「大丈夫」とだけ言って席を離れた。別の本を数冊片手に抱えて戻って来ると、先ほどの巻き毛で首の細い男性が、まだ座っていた。わたしは気にせずに、本の山から速読で該当部を探し続ける。ふと顔を上げると、先ほどの男性が驚いた顔をしてみている。本をすべて見終わるが、やはり東国の調味料に関する記載はなかった。


「何かお探しですか」と男性が尋ねてきた。

男性の胸元をよく見ると、名札があり、ここの職員だった。

「東国の調味料を探しているの」と答えた。

「つまり、異国の調味料ならいいのですね」とだけ発言すると男性は全然違う棚に行き、一冊の薄い書籍を持ち帰ってきた。


 あまりに薄かったので、拍子抜けしたが、早速速読で読み通すと、「とろみのある芋類を煮る時に使う調味料と調理法」について書かれていた。どうやらショウユという物を使うらしいが、エゼッスでも年に数回しか流通しない希少な商品のようだった。

「凄いじゃない。これどうやって見つけたの」と感謝の意をなるべく小声で述べた。

「当たり前ですよ。僕はここの職員ですからね」と目を閉じ、顎を上向きにして偉そうに話している。

「どうもありがとう。助かったわ」わたしは小声で礼をいい、図書館を後にした。

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