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いざエゼッスの町へ

 どうにかアザーニも体力がついたと思えたので、早速エゼッスに旅立つことにした。アザーニはまだ不安なのか、対モンスター用にお札を描いていた。彼女の描くお札はカラフルでファンタジックである。この幻想的な絵画としか思えない描写に、モンスターを怯えさせる秘術がかけられているとは思えないのだが、それが彼女の能力なのだろう。


 ウルサスの話だと、ジースタからエゼッス間のモンスターは手強いから、これでモンスター除けになれば本物だと語っていた。真偽がはっきりするのは、今日かもしれない。わたしたちはチェーンメイルを着込んで、武器を携帯し、荷物を持って宿を出た。閃光系のモンスター用に遮光版も各自持参した。


 まだ日は高く、とてもモンスターが出る雰囲気ではない。それに明るいうちなら、閃光系のモンスターの出現を抑えることになると踏んでいる。もっとも、ウルサスの話だと昼間は太陽光を利用するから、昼のうちに出発しても、あまり効果はないらしい。


 ジースタの町から、しばらく歩くと畑が続いていたが、それも途切れてしまった。あとは奇妙な植物の林がまばらにあり、ムチのような細い草の草原が続く。

「のどが渇いたわ」とアザーニは独りごとをいい、水筒の水を一口飲んだ。熱中症になるほどのことはないとはいえ、予防に塩を一つまみ入れてある。


 やがて、植物の種類が増えていき、扇状の葉を持つ濃い緑色の低木が目立つようになってきて、そろそろ森に差し掛かったようだ。ここからしばらく起伏のある道が続く。足腰を鍛えるにはもってこいだ。わたしは、身体を思う存分動かせることで気分が良くなり歌を歌った。

「大いなる自然よ、岩だらけの地面よ、倒木だらけの道筋よ、全ての障害が、わたしたちをハイにする」

「それは、どこの歌だ」ウルサスが尋ねる。

「今、思い付きで作ったのよ」わたしは正直に答えた。ガルクツリーフには、即効の歌の文化があり、皆その時の気分で思いついたメロディーにそって歌うのだ。

「じゃあ俺も何か作るぞ」と威勢よく彼は宣言したのだが、どうやらセンスがなかったのか、しばらくたっても何も出てこなかった。と、その時、アザーニが「来た」と叫んで振り返った。


 上を見ると巨木のへりから(つる)の先に吸盤のようなものが生えた物体が急降下してきた。

「早くナイフで蔓を切れ」とウルサスが叫んだ。

吸盤のようなものの中には四つん這いになった人のような姿が見えた。ギリギリのところでアザーニが上手くかわし振り返ってナイフで蔓をちょん切った。緑色のキノコのかさを被ったような人が手足を震わせながら横になっていた。


「あれがモンスターなんですね」アザーニが驚いた顔でウルサスに尋ねた。

「初遭遇で察するなんてお嬢さんもなかなかやるな」と感心したように答えた。

二人の会話に気を取られていたら、いつの間にか背中にへばりついてきた。しかしチェーンメイルでは歯が立たない。背中のモンスターはウルサスに切ってもらった。


「音もなく忍び寄るからやんになっちゃう」私が不満を漏らすとアザーニがすかさず「音なら聞こえるわ」と述べた。意外と彼女は注意力が高いようだ。

「残念なことにお札の効果がなかったようです」アザーニは、額にしわを寄せて悔しがっている。

「どうやら、お嬢さんのお札は植物系のモンスターには通用しないようだな」

「ということは、タロやエイトヘッドの駆除も無理なのね」

植物系に効果がないことは残念だったが、エゼッスに東国の調味料について調べに行くのに、タロが寄り付かないのも困るので、不幸中の幸いといった気分だった。


 やがて太陽が傾き、あたりの物がオレンジ色に染まる頃、ガルクツリーフの空を思い出して感傷に浸ってしまった。アザーニも気分は一緒らしく、懐かしいを連発していた。月がその存在感を深め、うっすらとした白い色から光を伴った輝く白に支配される頃、あたりはすっかり夜になった。


「まだ、エゼッスは遠いんですか?」アザーニが不安そうに尋ねる。お札の効果がなかったことが大分(こた)えているようだ。

「もう少ししたら着くからな。安心しろよお嬢さん」

エゼッスは大きな町なので、夜遅く着いてもまだやっている店はあるとのことだ。中には真夜中に開いている店もあるらしい。


 わたしたちは、夜道をカンテラと月の明かりを頼りに歩いていた。やはり慣れない夜道は、アザーニの精神にくるようで、彼女は何度も休みを要求した。不思議なことに、閃光を放つ盗賊の様なモンスターには一度も出くわさなかった。それでも、思い出したかのように蔓の先の吸盤のようなかさにへばりつくモンスターは突然現れて剣の錆と化していった。

「蔓は簡単に切れるからいいけど、閃光系がやっかいよね」わたしは蔓を(つか)んで剣で切り捨てた。

「どうやら出くわさないで済むようだぞ。もうすぐエゼッスだ」

先を見ると、かなりの広範囲にポツポツと灯りのようなものが見える。

「ああ、早く宿で休みたいです」疲労の極致にいるアザーニがため息とともに返事をした。

彼女のお札は、植物系のモンスターに対しては、効果のないことが判明した。



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