アザーニ開眼
ジースタでは、買い物の他にレベル上げもしなくてはならなかった。そのために地道な運動が必要になる。
アザーニも旅の道のりで大分鍛えられては来たが、体幹や筋力はまだまだだった。
エゼッスには、図書館で東の国の調味料について調べる予定があったのだが、仕事目的のウルサスはともかく、アザーニにはエゼッスに行く意味を見いだせないでいる。ウルサスは「エゼッスには店も多いし、たまにサーカスもやってくるぞ」といって気を引こうとしていた。
「この運動は、いつまで続けなければいけないんですか?」
基礎トレーニングに疲れたアザーニが大量の汗をかきながら、上気した顔をこちらに向けて発言した。
「わたしが、いいというまでよ」
アザーニはため息をつくと、うつぶせになってしまった。
本人は気づいていないが、もともと俊敏性は高いので、基礎体力を上げれば、平均クラス以上に動けるようになるだろう。そうなれば、行動に自信が付き、占いやまじない依存症から脱出できるかもしれないと考えている。ここでの逗留は少し長くなるが、旅の途中で出くわすモンスターに対応するためにも、底上げは必要だった。
「リヤ、お嬢さん、守備はどうだい」ウルサスが小屋を覗きにきた。
「私は見ての通り上々よ」腕を振り、筋肉を見せつけながら話す。
「お札を倍描くから許してください!」アザーニは少しへばっている。
ジースタにはジムは存在しているが、女性でジムに通う物好きは少ないため、衝立で仕切られていて、そこで数名が汗を流している。
「武器は剣が主体になるのね」
「別にナイフでもクロスボウでもいいんだぜ」
「今度は接近戦がやりたくなったの」
「お嬢さんには、ソードは無理だろうな」
「クロスボウでも厳しそうだから、ナイフを使ってもらうことにするわ」
「怖くて使えそうにないです」
「自分の身を守るためよ。相手はモンスター、罪悪感を持つ必要はないわ」
アザーニはとみると、うんざりしたような顔をしていた。おそらく彼女を連れてあの武具屋へ行くのは、店主の反感を買うのでまずいだろう。武器や防具の調達は、わたしとウルサスですることにした。その間、アザーニは、以前世話になった農家で、手伝いをしてもらうことになった。
「畑仕事ですか。できる分だけやりますけど」投げやりな返事をするアザーニ。
「まあ、草むしり程度でいいんだよ」農家の人は、意外と気を使っていた。
わたしとウルサスは街中へ向かい。武具屋や道具屋で必要な物をそろえた。もちろんチェーンメイルもだ。
「チェーンメイルは全ての敵に有効なの?」
「一種類だけだが、奴らは上から急に襲ってきて、背中に牙を突き立てて血を吸おうとする」
「事前に襲撃を知る方法はないのかしら?」
「背後に気を配っておけば、空を切る音がするから、その時に振り向いて切りかかればいい」
「もしかして、植物系のモンスターの類?」
「その通りだ。他には人型のモンスターがいて、額から明るい光を発して目くらませさせて、金品を奪い取る」
「サングラスが必要ね」
「問題は、出現場所が似通っていることだ。発光系に対処してると、植物系に対処できない」
「質の悪いのはどちら」
「植物系だな。吸血鬼のように伝染はしないが、まれに命を落とす」
「じゃあ、植物系は基本チェーンメイルで防御して、主に発光系の盗賊に気を付けるわ」
「チェーンメイルも万能じゃないからな、首筋を狙われないように気をつけろよ」
首筋にはバンダナを巻くことにした。逗留中に、アザーニを徹底して鍛えなければと思った。
◇◆◇◆
アザーニに体幹を鍛えてもらうため、スラックラインを始めることにした。
ジムの一部を貸してもらい、痛くないように下にクッションを引いて、帯を張る。その上を歩いてもらうトレーニングだが。本人が乗り気ではない。
試しにわたしが、帯の上に足を乗せて歩いて見せた。途中ジャンプを入れたり、片足立ちをしてみせる。
「私、自信ないです」
「あなたならできるわ。私を信じて」
恐る恐る帯に片足を乗せるアザーニ、弾力性のある帯が重みで沈み反動で揺れた。
「とっとっとっとと」バランスを崩しそうになりながらも、駆け足で渡り切った。
「やればできるじゃない。さっき自信がないといったのはどなた」
「今のはまぐれだと思うわ」反対側に行ったきり、ターンしようとしない。本人は先ほどの成功については半信半疑の様で、驚きと不安がないまぜになったような不思議な表情をしていた。
意を決して反対側のコーナーから、こちらに向けて、今度はゆっくりとした足取りで、丁寧にバランスを取りながら、戻って来た。ノーミスだったので、アザーニ本人が一番驚いているようだった。やはり思った通り、彼女の敏捷性やバランス感覚は高いものがある。あとは本人のやる気と筋力のアップだけだろう。
しばらくすると、慣れて来たのか。帯の上でジャンプして降りる動きをやり始めた。アザーニの顔から笑みが浮かぶ。どうやら身体を自由に動かす楽しさを覚えたようだった。
スラックラインを終えさせて、今度は別の動きも練習してもらった。 支えをしてバク転もやらせてみた。アザーニもコツをつかんできたのか、五回目のチャレンジで成功するようになった。彼女の豹変ぶりに、同じジムの女性客や、ウルサスも驚きの表情を見せていた。




