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昼間の嵐などなかったかのように夜空は澄みわたり、月と星が夜の闇を薄めてくれていた。
寝静まった村で炬だけが起きていた。
無表情に見えるが、ないまぜな感情を押し込めているようにも見えた。
(俺の選択は正しかったんだろうか……?)
答えの出ない自問自答をずっと続けていた。
「男がいつまでもウジウジ悩んでんじゃねぇよ」
そんな様子に見かねてなのか後ろから男が声をかける。
「……別に悩んでない……」
張りのない声で言っても、なんの説得力もない。
どこが悩んでないだ、と言いながら男は炬の隣まで行くと腰を降ろした。
「なぁ。あの時、元の姿に戻ってたよな?」
「ん? あぁ。原理は説明できねぇが、霊力を使えば元の姿になる事ができる。霊力の消耗が激しいから長時間なれねぇけどな」
現実を直視するのが怖くて、災妖が倒された後、炬は男から逃げるように壊れた家などの片付けに専念した。
「カミ降しの説明はしたよな?」
「…………」
炬は決定的な言葉を聞きたくなかった。
だが、男は逃げるのを許さないと言わんばかりに話題を振ってきた。
どれだけ逃げても結果は変わらないのだ。
炬は覚悟を決めて、
「トモの体はあんたの物になったけど……できれば乱暴に扱わないで欲しい」
唯一の肉親が消えてしまった。
もう戻らないならせめてもの願いを口にした。
溜め息を吐いた男は自分の方を見ない。
女々しいとでも思っているのだろうか。
「自分の物をどう扱おうが俺様の勝手だ。……けど、俺様の物じゃねぇなら乱暴にはできねぇな」
「……え?」
「俺様の物になってねぇって事は?」
予想もしない問いかけに、炬は慌ててしまう。
「え? あ、え、えっと……願いを叶えてない……?」
説明されたカミ降しの法則から答えを搾り出すが、自信がなくて疑問で返してしまった。
その答えに満足したのか、男はニヤリと不敵に笑う。
男の様子に、炬は更に焦った。
「そうだ。つまり、このシンタイを返す事はまだ可能って訳だ」
「!」
思わぬ言葉に炬は、ガシッと小さな両肩を掴む。
「本当なんだな!?」
「嘘言ってどうすんだよ」
この男はトモの体から出たがっている。
嘘を言ってもしょうがない。
本当だと判り、炬は思わず小さな体を抱き締めて歓喜を表現する。
「だぁ! 気持ち悪い!」
抱き締められて気持ち悪く、男は逃げるように暴れる。
が、炬は嬉しさで男の反応など気にもせずに抱き締め続けた。
「でも、トモの願いは村の平和じゃなかったのか?」
ひとしきり喜んだ炬は素朴な疑問を尋ねた。
「……そうだが……一時的なものじゃなく、恒久平和だったんだよ……」
確かに恒久平和なら魔物の一匹や二匹を倒しただけで、願いが叶えられた事にはならないだろう。
納得した炬は、男がげっそりとしている様子に首を傾げる。
「とにかく、俺様はシンタイに降りた事がねぇから上がり方を知らねぇ。知り合いに聞いてくるから、お前は帰りを待ってろ」
「連れてってくれ」
「は?」
いくら神様でもこの男に任せる事に不安を覚えた炬は一緒に付いて行こうとする。
予想していた通りに男は嫌そうな、面倒臭そうな表情をした。
「付いて行くったってな、人間が行くような場所じゃねぇんだぞ。魔物が出てきたり、断崖絶壁だったりって、お前の命の保障できねぇんだぞ」
なんとか諦めさそうと男は色々危険な事を上げるが、炬は頑として付いて行くと言い張った。
そんなやり取りが半刻ほど続き、面倒臭がりの男が折れる事で決着がついた。
「何があっても責任とらねぇからな」
「判ってるって。で、今更だけど、あんたの名前は?」
「……翡艶」
お前は? という風に翡艶の視線を受けて、
「俺は炬」
笑顔で名乗って、手を差し出す。
翡艶は今までと同じように面倒臭そうに握手をする。
「よろしくな」
「あぁ」




