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カミサマのおとしかた  作者: みけ
第4章 係った結び
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「困っているようだのう」


頭が真っ白になっていた(カガリ)に救いのような声が聞こえた。

あの純白の悪魔の声が。

足音も気配もなく白狼が現れた。


翡艶(ヒエン)を! 翡艶を助けてくれ!」


今の炬が頼れるのはこの白狼だけだった。

凌霄(リョウシュン)たちは、もしかしたら冷酷な判断を下す可能性がある。

縋るように見つめた。


「おぬしの願いを叶えてやりたいのだが、全ては無理なのだ」


白狼は優しく、申し訳なさそうに言い、楽しそうに続けた。


「――」

「……え?」


白狼に言われた言葉に炬は聞き返した。

それほど信じられない事を言われたのだ。


「妹か、翡艶か、どちらかしか、助けられぬ」


残酷な救いが白狼の口から、ゆっくりと紡がれた。

頭が理解していくと、炬は抱えている翡艶を見下ろした。

呆然とした表情が、みるみる苦しそうに歪んでいった。

どちらかなど選べるはずがない。

どちらも大切で、かけがえのない存在なのだから。

残酷な選択。

だが、炬は自分に選択肢はないと判っていた。


『翡艶はこの世界、唯一無二の母なる大地なんだ!』


凌霄がそう言っていた。

それがどれほど重大な事なのか炬には判らない。

だが、翡艶の霊力がなくなるという事は、この世界の根幹をなくす事になるのではないか。


「さぁ、選べ」


白狼が決断を迫った。炬はきつく目を瞑る。


「……ひえ――」

「妹……だろうが、馬鹿」


気絶していると思っていた翡艶が炬の言葉を遮った。


「翡艶……」


目を開いた炬は痛みを耐えるような顔をしていた。

翡艶はもう一度「馬鹿」と言ってから起き上がろうとしたが、力が入らなかった。

仕方がないので炬に抱えられたまま白狼を睨んだ。


「はぁー……お前の仕業、だったか、(ラン)

「うむ。おぬしらは面白いほど踊ってくれたわ」

「嫌に、なるほどな……」


鋭い視線など何処吹く風で婪と呼ばれた白狼は、可笑しくて堪らないといった声音で答えた。

それを聞いた翡艶は苦虫数十匹を噛み潰した表情をした。

炬のカミ狩りの霊力を覚醒させた碧玉や、カミ狩りの剣を準備したのも、結界を解除させたのも、災妖を解放させたのも、全て婪の企みだったのだ。

トモか、翡艶かの選択を炬に迫ったのを聞いた瞬間、翡艶は全てを悟った。

悟った所で、流れはもう終結に向かっている。

今更どうこう言ったところで、結末は変えられない。


「婪。お前は……いや、いい……。お前が、そんなの、だから……対の凌霄が、動き……づらい、だろうが……」

「そんな事、知らぬ」


喉まで出掛かっていた本当に言いたい言葉を飲み込んで、翡艶は首を横に振った。

聞いたところで理解できないだろう。

この狂った光の事など。

翡艶は本当にきつくなってきて呼吸が浅く速い。


「おい、婪……本当に、助け……るんだろうな?」

「嘘は申さぬ」


婪の返事を聞くと、迷子になった幼子のような頼りない様子の炬に目を向けた。

真っ直ぐで、無垢な青年にこれから酷な事をさせる事に、翡艶は少し後ろめたさを感じた。

しかし、これしか選択肢がなかった。


「……炬……」

「……なに?」

「約束……破ったな……」


炬は答えない。


「罰として……はぁ……俺の、言う事……聞け……」

「……嫌だ」

薙堊(テイア)で、俺を……っ……刺せ……」

「嫌だ」

「婪に……妹を、助けて、もらえ……」

「嫌だ! 俺にそんな事できるわけねぇだろ!」


ペチ……


今にも泣き出しそうに叫ぶ炬の頬を翡艶は叩く。

叩くといっても手にほとんど力が入らないので、頬に手を添えているようなもの。


「言った、だろ……? お前は……妹の事だけ、考えろって……。それにな……俺は死ぬわけじゃ、ねぇよ……」

「嘘だ。翡艶は災妖(サイヨウ)になってない。なら……死ぬだろうが……」


口や態度が悪い翡艶だが、優しい、優しすぎるカミ様。

だから炬のため、トモのために自分を犠牲にしてしまう。

耐え切れずに炬の目尻から涙が零れ落ちた。

頬に手を当てている翡艶はそれを震える指で拭った。


「薙堊は……はっ……俺の一部、だ。……死ぬんじゃ、なく……仮初の、姿……が、なくなって……大地に……還る、だけだ……」


姿も、人格も、記憶もなくなるそれを死と言わないのだろうか?

そう思う炬だが、笑って自分に語りかける翡艶には言えなかった。

頬に添えてくれている手に、己の手を重ねて耐える。


「我はカミ狩りの者に問うておるのだが」


二人の様子を眺めていた婪が不満げに呟く。

炬に決断させたかったのに、翡艶が決めてしまって面白くないようだ。


「うる、せぇよ……」

最後に婪をもう一睨みしてから、翡艶は側に落ちている薙堊を掴んだ。

だが、持ち上げられなかった。


「……」


くっ、と奥歯を噛み締めて炬も薙堊に手を伸ばした。

炬一人でも薙堊は持てないので、二人で一緒に握る。

翡艶は炬を見上げていつもの、でも柔らかく優しい笑みを浮かべ、


「炬……ありがと……悪りぃ……ありが、とな……」

「……翡艶……ひえ……ん……」


ゆっくり手が下ろされた。

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