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カミサマのおとしかた  作者: みけ
第4章 係った結び
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しばしの沈黙。

翡艶(ヒエン)は不敵に笑って、


「嫌だね」

「……なに?」

「てめぇの手を借りて上がるのも、てめぇに協力するのも嫌だって言ってんだよ」


いつもの悪態で返した。

手と笑みを引くと、冷たい瞳で霸楝(ハクレン)は同胞を、自分を産んだ親を見つめる。


「お前の霊力を吸い続けるそのシンタイは、膨大な霊力の量に耐え切れず潰れるだろう。そうなるとお前の霊力や責務、意識も消滅して、『地』の守護を失った世界は滅ぶだけだ。それでもお前は上がらないと言うのか?」

「お前に協力すれば大差ない状況になるだろうが」


だから嫌だ、と翡艶は再度拒否を口にした。

シンタイと縛り付ける木から霊力を奪われ、本当は苦しくて気絶してしまいそうだった。

それをおくびにも出さず、霸楝を見つめ返す。

完全な決裂。

両者の中でもともと予想されていた結論。

霸楝は深い溜め息をついて俯く。

男は何を思ったのだろう?

悔しさ?

絶望?

落胆?

嘲り?

そんな事を思いながら翡艶は我が子を見下ろした。


「残念だ、ウブガミよ」


顔を上げた霸楝の瞳は暗い光だけだった。ゆっくりと二歩下がる。


斥霆(セキテイ)


名を呼ぶと霸楝の右手に斧が現れた。

薙堊(テイア)の刃ほどの大きさではないが、通常の倍以上はある斧だった。

武器を出したという事は自分から全てを奪うつもりでいる霸楝を、翡艶は目を逸らさずに見つめる。

弱っている自分がどこまで抵抗できるかと考えながら。

柄を握り締めて、霸楝は大きな斧を軽々と振り上げた。

そして、重力に従うように振り下ろされ――


 ガキンッ


金属と金属がぶつかり合う音。

斥霆の刃を受けているのは薙堊――ではく、細く小さな剣だった。


「!?」

「くぅぅ……でいやっ!」


歯を食いしばるような声に続いて、気合を入れる声が聞こえた。

それに伴って押し返される力に従って霸楝は後ろへ飛び、距離を空けた。


「お前は……?」

「……どうしてここに……?」


霸楝は知らない顔に訝しがり、翡艶は彼がいる事に驚いた。

二人のカミの間に肩で息をしている(カガリ)が立っていた。

呆然とそれを見ていた翡艶だが、炬の変化に気付いて険に歪む。


「何やってんだ、炬!」


やっぱり怒られた、と心の中で苦笑が零れる。

炬は背を向けたままそれには答えず、自分の思いを伝えた。


「トモや俺のために翡艶が頑張ってくれてる。なら、俺もお前のために何かしたい」


そして巨大な斧を持った相手を睨みつけて、剣を構えた。

敵意とも言える炬の感情に反応してカミ狩りの霊力が霸楝に向かった。

息苦しく感じる霊力を受けた霸楝は凶悪に笑う。


「カミ狩りの人間か」

「翡艶を離せ」

「無理な相談だな」


言葉はこれで十分。

お互い、相手の事を敵としてしか認識していないのだから。


「やめろ!!」


翡艶の叫びも空しく、炬と霸楝の武器は甲高い音を鳴らして再び交差した。

巨大な斧と矮小な剣では普通なら一瞬で勝負がつく。

しかし、炬の分の悪さをカミ狩りの霊力が補って、勝負を均衡していた。

お互いの出方を伺うように、武器を交じらせては返す。

それを何度も繰り返した。

斥霆はリーチが長くて、炬はどうしても受身になってしまう。

だが、引いて逃げたりせずに、真正面から霸楝の目を見据えた。


「カミからしたら……人間は愚かだろうよ」


ギチギチ、と嫌な金属音を立てながら刃が擦れ合う。


「でも、自然は慈悲深いが、無慈悲にも襲う! 人間が自然の大切さを忘れた時、災妖がそれを思い出させればいい!」


懇願でも、説得でもない。

炬が翡艶と出会って見聞きして、そして感じた事を叫んだ。

つばぜり合いから炬はぐっと力を込めて、斥霆を押しかえすとそのまま攻撃に転じた。

身軽さと小回りが利くのを生かして、右から、左から、下からと攻撃を仕掛けてみた。

斧の刃は幅が広いので、霸楝は懐に入ろうとする炬の攻撃をことごとく防いでいき、主張も鼻で笑って一蹴する。


「その関係を壊したのはお前ら、人間だろうが。後から産まれたくせに世界を好き勝手に荒らしやがって!」


ぶんっ、と斥霆を大きく振り回した。


「っ!」


鋭い刃を剣で防ぐ事ができても、衝撃までは殺す事はできなかった。

炬は壁まで吹っ飛ばされ、激しい破壊音と共に、壁に激突した。


「炬!」


パラパラと余韻と砂煙が消えると、瓦礫に半分埋まった炬が見えた。

痛みや苦しさで顔を歪めながら、なんとか起き上がろうともがいていた。


「さすがはカミ狩りの一族。人間にしては上位種で、大それた生き物だ」


斥霆を肩に担いで霸楝は炬の元へと歩いていく。


「はっ……はっ……」


呼吸をするのもやっとの状態で、炬は側に立った男を見上げた。

自然は慈悲深く、時に無慈悲だと言ったが、これではただの残虐性だけではないか。

しかし、これも自然の脅威というのだろうか、と死を目の前に突きつけられているのに炬はそんな事を考えていた。


「寂しくはない。一人で死ぬわけじゃないからな」


霸楝は肩に担いだ斥霆を掲げて、手から力を抜いて落とした。


ガキンッ


金属が重なり合う音。


「ひえ……ん……」


自分を庇う相手の名前を炬は口にした。


「本当にお前は……無茶ばっか、しやがって……」


炬が守られ、翡艶が守る。

位置が変わっただけの先程と同じ構図。

翡艶が肩で息をしている所もそっくりだ。


「木の呪縛を無理矢理抜け出したか。まだそれほど霊力が残っているとは、さすがだな」


霸楝がちらりと後ろを見れば、翡艶を縛り上げていた木が枯れてしまっていた。


「俺様を……舐めんじゃ、ねぇよ」


悪態をついてはいるが、表情からも口調からも無理をしているのが伝わる。

それでも翡艶は薙堊を構えて炬を守っていた。

息を乱しながら、馬鹿馬鹿しいとでも言わんばかりに翡艶は口を開く。


「どいつも、こいつも勘違いしやがって……。自然はな、神じゃねぇんだ。人間の上でも、下でもねぇ。……そもそも比べる事自体が間違ってんだよ。どちらかが、どちらかを支配するでも……調整するでもなく、お互い、あるがままにいりゃいいんだよ……」


これは翡艶の持論だ。

どちら「が」主体ではない。

どちら「も」主体なのだ。

判ったか?

と霸楝を睨み、背で炬にも語りかけた。

炬は昼間に翡艶が中途半端に言った事を思い出し、この事を言いたかったのだと判った。

では、あの寂しげな顔は、特別扱いをして欲しくなくて……

霸楝は目を細めて翡艶を見つめた。

他の生き物より優位である事を優越に感じていないカミは翡艶ぐらいだろう。

馬鹿なのか、慈悲深いのか……


「……」

「……」

「……」

「霸楝!」


緩やかな沈黙を、慌てて現れた乖黐が壊した。


凌霄(リョウシュン)たちはやってまいりました」

「ちっ」


さすがに凌霄、十娥熙(トガキ)珱佳(オウカ)の相手をするほど霸楝には余裕がない。

分が悪いと判断して撤退を決めた。


「なら、俺は俺のあるがまま生きる」


背を向けた霸楝はそう言い残して、乖黐と共に消えていった。

嵐が去った後かのように場がシンと静まり返る。


「……終わったのか……?」


瓦礫の中から起き上がった炬は呟く。

あっけなく終わってしまったので現実味がなかった。

どうなのか翡艶に聞こうと目を向ける前に、


ガシャンッ。


「翡艶!?」


薙堊を落として、翡艶は後ろへと傾く。

痛む体など忘れて炬は両腕を差し伸べて、完全に倒れこむ前に受け止めた。

体格が大きい翡艶なのに、炬の腕にかかる体重は思いのほか軽かった。

それが体調の悪さを表しているようで不安を煽った。


「はぁ……はぁ……」


目を瞑り、苦しそうに呼吸を繰り返す翡艶。

炬はどうすればいいのか判らずに焦る一方だった。

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