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暗い。
だが真っ暗というわけではない。
星や月で照らされて周りの状況がぼんやりとだが見えた。木々が密集しているので森だろう。
「ここは……?」
急な出来事に炬は頭がついていかない。
後に気配を感じて振り返る。
そこには、闇の中で薄っすらと発光している純白の狼。
そして、一歩後に控えている夜弖。
「っ!」
納得したとは言っても、やはり夜弖の裏切りを信じきられずにいた炬。
だが、この場に夜弖がいる事で本当に裏切りだったのだと納得をせざるをえなかった。
炬は夜弖に詰め寄るって、襟首を掴み、
「あんなに親切にしてくれたのは、全部利用するための嘘だったのか!? どうして――」
「夜弖を問い詰め、なじるのは結構。だが、おぬしにそんな事をしている暇は、あるのかのう?」
楽しげに炬に問いかけるのは、先程と同じ知らない声。
この場には自分と夜弖、そして純白の狼だけ。
炬は足下へと目を向けた。
獣の感情など判らないが、白狼の黒い瞳はとても愉快そうに自分を見つめていると何故か判った。
「……」
翡艶だって鳥の姿をしたので、狼が喋ってもおかしくはない。
おかしくはないのだが。
凌霄に感じていた恐怖に似た、それよりも背筋が冷たくなるような不気味なものに対峙した恐怖だった。
白狼の言うとおり時間は切迫していた。
だが、こんな相手の言葉を聞いてもいいのだろうかと、炬は警戒して後退った。
「我が怖いか?」
炬の反応に白狼はうっとりとした声で聞いた。
「恐怖や迷いに囚われている間に、翡艶の霊力は奪われ、妹の体は無残な事になるであろうなぁ」
不安を煽って楽しんでいた。
また一歩後退りかけた炬は怒りにも似た感情で、それを押し止める。
「俺に何をさせる気だ?」
押し殺した声で問うと、白狼の瞳の喜色が深まった。
「別に。おぬしの好きなように動けばよい。我はそれに少し、力を貸してやろう」
悪魔の囁き。
取ってはならない手。
甘い毒。
白狼の言葉はそんな表現が相応しい。
だが、それに抗う余裕も理性も炬にはなかった。
「……翡艶を助けたい……」
「よかろう」
「……炬さん」
夜弖に呼ばれて炬はそちらに目を向けると、白い剣を放って渡される。
凌霄が持っていたはずのカミ狩りの剣だった。
「これを俺に渡すよう仕向けたのはお前か」
質問ではなく、確信。
だから、白狼も答えない。
「素晴らしい結末を期待しておるぞ」
炬の体が光だし、一瞬強まると炬も光も消えてしまった。




