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カミサマのおとしかた  作者: みけ
第4章 係った結び
25/30

どうしてこれを(カガリ)が持っているのか意味が判らない。

青一弥(アザミ)が持っている方が、よほどつじつまが合っていた。

……もしかして、誰か別の物だとしたら?

凌霄(リョウシュン)はもう片方に持っているカミ狩りの剣を見て、一人の人物の能力を思い出した。

青一弥の疑惑をその人物に向けると、全てのつじつまが合う筋書きが出来上がった。


「炬君」

「は、はい」


今まで完全に蚊帳の外だった炬は、いきなり声をかけられてビクつく。

凌霄は右手に持っている剣を持ち上げて、


「この剣を君に直接渡した人物と」


続いて、左手に持っている紅玉を下げる。


「この石の持ち主は同一?」

「え、あ、はい……。夜弖(ヤテ)さんです」


犯人探しをしている状況で彼の名前を出す事に躊躇いを感じながら、炬は促されるように夜弖の名前を口にした。

やっぱり、といった表情をする凌霄の考えが判った十娥熙(トガキ)は、難しい顔をした。


「夜弖は十二霊(ミツツギノタマ)の中でも一番力が弱いはず」


それは周知の事実で、そんな夜弖が青一弥を監禁できるわけがない、と暗に言っていた。


「そうだね。夜弖単体での霊力は大した事ない。でも、彼は生きとし生けるもの全てに干渉できる能力があるんだ。すっかり忘れてたよ」

「!!」


三人のカミがその言葉に目を見開いた。

そして、青一弥は納得した表情をした。


「……だから結界で違和感を感じのですか」


生きとし生けるものに干渉できる能力とは、他人の霊力や意思に入り込んで自由に扱えるという事。

だから青一弥の結界を解除する事も、霸楝(ハクレン)が抑えていた災妖(サイヨウ)を解放する事も、魔物の意思を押さえ込んで災妖に同行させる事もできたのだ。


「あの……俺にも判るように説明してもらえませんか?」


いまいち状況が掴めていない炬は説明を求めた。

そういえば、当事者とも言える彼を放っておいて話を進めていた。

それに気付いた凌霄は現在の状況、カミ狩りの霊力について説明しなければと、炬に向き直る。


翡艶(ヒエン)がカミ狩りのシンタイに降りたのが偶然か、はたまた仕組まれてかは判らない。けど、そこからここまで起こった事は全部仕組まれた事なんだ。夜弖によってね」

「え……? 夜弖さんは……敵……なんですか?」


いきなり夜弖の裏切りを言われた炬は驚きを隠せない。

あんなに親切で、親身になってくれた人物が自分を騙していたなんて信じられなかった。

しかし、凌霄は炬の気持ちを判っていながら言った。


「霸楝……長の座を狙ってるカミの仲間ではない。でも、別の企みを持って行動してる」

「どうしてそう言いきれるんですか?」

「この石だよ」


納得のできない炬が問うと、凌霄は左手に持っている石を持ち上げた。


「この赤い石は、外部からの霊力を受けない結界の力がある。君のカミ狩りの霊力があの青い石で強制的に覚醒してるなんて、みんな気付いてなかった。これを持ってるって事はそれを知っていて、影響を受けないように準備してたって事でしょ? 護身用だと言って、わざわざカミ狩りの剣を渡してるのも気付いていたって事だろうし」

「兄ちゃんの霊力が覚醒しても、うちらも霸楝も徳はない。カミ狩りの霊力で災妖殺される方が困る。やから夜弖は別の企みってわけや?」

「そう」


珱佳(オウカ)の確認する言葉に凌霄が頷いた。

それを聞きながら、護身用にしては実践向きの剣を渡したり、戦場に仕向けるような失言をしたり、と夜弖の裏切りを肯定してしまう部分を見つけていってしまう。

そんな自分が嫌になって炬は俯いた。

しかし、それはただ認めたくないだけだ。

今は夜弖の裏切りにショックを受け続けるわけにはいかないと思い、


「……夜弖さんの事は、とりあえず判りました……」


抑えるような声で呟いた。

もっと反論してくるだろうと想像していた凌霄や珱佳は少し拍子抜けをした。

しかし、顔を上げた炬の目が睨むようなものだったので少し身を引いてしまう。 

「災妖は強い術者でも倒せないって聞いた事があります。でも俺は倒せました。霊力や剣が神狩りだから……なら災妖は神なんですか?」


凌霄たちの話を聞いていて、ずっと引っ掛かりを感じていた事を聞いた。

全てを破壊していくだけもあの生き物も神だと言うなら、神とはいったいどういう存在なのかとも問いかけた。

その質問に凌霄は何とも言えない表情をする。

隠すつもりはないが、知らせるつもりもなかった一つの真実。

だが、炬はそれに気付いてしまった。


「災妖は怒りで理性を失った、カミのもう一つの姿だよ」


あぁ、だから自分たちのようなものに倒せないのだと。

零落したとはいえ、神様なの――


「付け加えておくけど、僕たちは君が想像している神なんかじゃないよ」

「……はい?」


納得しかけていた炬に、凌霄が知識を根幹から覆す台詞をさらりと言ってのけた。

炬は理解ができずに反応が遅れたが、反応した後も理解できなかった。

目を見開いて、「何言ってるんですか、この人」的な意味を込めて凝視してくる炬を、凌霄は諦めた表情をした。


「り、凌霄? 言うんか?」


驚いてるのは炬だけではなく、仲間の珱佳たちもだった。


「カミ狩りの霊力が覚醒したなら、それなりに自覚を持ってもらおうと思ってね」

「そっか」

「……俺が想像してる『神』じゃないってなら……貴方たちは『何』ですか?」


恐々と質問する炬。目の前にいる存在があやふやになってしまって少し怖いようだ。


「この夜の闇が僕」

「え?」

「あっちで燃えている火が珱佳。そこに倒れている魔物の死が十娥熙。むこうにある森の木々が青一弥」


何を言っているのか判らず、炬はキョンとしていた。

凌霄が言った事を反芻して、一つの結論が出ると、


「……貴方たちは自然、あるいは自然現象って事ですか……?」


自分でも少し信じられないといった風に口にした。

炬の答えに凌霄は満足そうに笑う。本当に聡い子だと。


「そう。長い年月を生き、霊力が高くなったらヒトの形になれる。存在を一言で示すために『カミ』と名づけられた者。そして、僕たちも粗末に扱われたら他の生き物のように怒ったりする。それが積もり積もって理性で抑えられなくなったら、災妖となるんだ」


呆然と炬は聞いていた。

狭い村で生きてきたので大した固定観念はないが、さすがに自然が人の形になるなど思いもしなかった。

笑みを消して、凌霄は真剣に炬の目を見つめた。


「この事実を踏まえて、君にカミ狩りの一族としての自覚を持ってもらいたい」

「自覚?」


あまりにも真摯な台詞に炬は我に返って、身構えた。


「僕たちは災妖を攻撃してるけど、殺してるわけじゃない。怒りを鎮め、自然に皈してるんだ。けど、カミ狩りの一族は災妖を殺してしまう。それがどういう意味か判る? 災妖一匹の死は、この世界の自然の一部が消えるって事なんだ」

「!」

「炬君。君が持っている霊力は、それだけの影響力があるって事を覚えていてね」


凌霄が念を押すようにゆっくりと言い、炬は何度も頷いた。

目の前の存在の大きさにも、自分の備わっている霊力の大きさにも、どう反応していいのか判らず、炬は己の手を見下ろした。

様々な情報を与えたので、炬はしばらく脳内処理で呆然としているだろう。

そう判断した凌霄は振り返って珱佳と十娥熙に目を向ける。

指令が下されると察した二人は顔を引き締めた。


「一番側にいた翡艶は、僕たち以上に霊力を削られているはず。霸楝から自力で逃げれないかもね。……霸楝はそこまで馬鹿じゃないと思うけど……」

「翡艶の霊力を吸収するかも、と?」


凌霄の危惧を十娥熙が口にすると、それを頷いて肯定した。

災妖を斬れば、その霊力は自然に皈える。

しかしカミを斬れば、その霊力は斬った相手のものになってしまう。

普通のカミなら霊力だけだが、十二霊だと霊力と共に責務まで移ってしまうので色々面倒が起こってしまう。

凌霄は考えるまでもない指令を二人に言う。


「一人のカミが二つの責務を遂行なんてできやしない。それは霸楝も重々承知してると思う。けど『もし』を想定して、翡艶の救出に向かって。最悪はどちらかが翡艶の霊力を吸収して」

「了解」

「……霊力を取られた翡艶はどうなるんだ?」


珱佳と十娥熙が下された命に行動しようとした時、自身の事について考え込んでいた炬が会話に入ってきた。

その表情は痛みを耐えるかのような悲しいもの。

質問しておきながら答えは想像できているのだろう。

それなら、繕っても仕方がないと凌霄は率直に答える。


「翡艶として生きてきた人格も記憶も形も失って、ただの霊力に戻るよ。大丈夫、妹の体は無事――」

「そういう問題じゃない! トモの体も大切だけど、翡艶も! 仲間なんだろ? ならもっと方法とか考えないのかよ!?」


凌霄の言葉を遮って炬は叫んだ。

今まで会話をしていてずっと炬は感じていた。このカミたちは優しいが、その反面あまりにも冷酷に判断を下す。

それがやりきれなくて、辛くて……

感情をぶつけられても凌霄は表情を変えなかった。


「霸楝は長の座だけじゃなく、人間の殲滅を考えてる。そんな相手に翡艶の全てが渡るなんて、絶対に許されない。非情だとなじってくれてもいい。理解しなくてもいい。ただ、邪魔はしないで」


淡々と言っているようで、その言葉一つ一つに重みと責任が感じられた。

一カミではなく、カミの代表、十二霊の長として凌霄は炬に語りかけていた。

自分の手の届かない世界の道理に口出しすべきではない、と理性では判っている。

しかし感情が、翡艶と過ごした日々がそれを上回った。


「……それほど翡艶の霊力は大切なのか? 翡艶を殺してまでも守るべきものなのか!?」

「僕らには、生まれながらの責務がある。翡艶はこの世界、唯一無二の母なる大地なんだ!」

「感情で生きる人間に、説得など無意味であろう」

 仲裁をするかのように声が聞こえた。

「まさか――」


その声に驚きながら凌霄が何か言うが、聞き終わる前に、炬は見知らぬ場所に移動させられていた。

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