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カミサマのおとしかた  作者: みけ
第4章 係った結び
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「……くっ……」


太い枝が絡みついて、翡艶(ヒエン)の逞しい体躯は木に縛りつけられていた。

動いてみるがびくともしない。

木と相性が悪く、少しずつ霊力が削がれている状態で放置されていた翡艶はぐったりとしていた。


乖黐(カイリ)……お前、霸楝(ハクレン)と組んでたのか」


少し苦しそうに翡艶は、木の側に現れた女性に声をかけた。

初夏の深緑を思わせる髪は短く切り揃えられて、もみあげ部分だけを伸ばしている。

深い海を覗き込んだ蒼い瞳。

スラリとした体つきの女性、乖黐は縛り付けられている翡艶を見上げて細く笑みを浮かべた。


「ええ。私、馬鹿が世にはびこるのって嫌いですの。ですから、霸楝の考えがあまりにも素晴らしくて賛同いたしましたの」


心の底からそう思っている、と表情を見れば判った。

だからと言って、翡艶は乖黐に対して怒りや悲しみの感情を抱いたわけではない。

今はそれより気になる事があった。


青一弥(アザミ)も仲間か?」

「いいえ」

「なら結界をどうやって?」


青一弥の裏切りではないなら、誰がどのように結界を解いたのかと翡艶は考えこんだ。

それに乖黐の秀麗な顔が少し険しくなる。


「私がしたと思わないのですか!」


何を怒っているのか知らないが、翡艶はやれやれと溜め息をついた。


「格下相手なら別だが、水属性のお前が、木属性の青一弥の結界に触れてみろ。破壊する前に結界が強化されるだろうが。金属性の霸楝なら可能だろうが、あいつは災妖をまとめて、抑えるだけで手一杯だろ」

「さすがはウブガミだな。十二霊(ミツツギノタメ)の九つを産み、全ての母だけはあってよく把握している」


翡艶の説明が終わると、何処からともなく声が聞こえてきた。

そして暗闇の中から生まれたように男が現れた。


「よぉ、霸楝。人間嫌いの割には、人間のシンタイに降りるのは好きなんだな」

「愚かな人間どもにもカミの威光を見せてやろうと思ってな」


知っている姿と違う同胞に翡艶は皮肉で挨拶するが、霸楝は意に介さなかった。

霸楝が手を上げると乖黐は一礼をして、渋々その場から姿を消した。


「魔物も巻き込むとは、地に落ちたか?」


自分も魔物を手にかけておいての台詞ではないが、街の悲惨な状況に翡艶は睨みつけながら問うた。

しかし、それを受ける霸楝は嘲笑を浮かべたまま、


「俺は何もしてない。あいつらが勝手にした事だ」


事もなげに返した。


「結界に関してもそうだ。勝手に消えた。抑えていたはずの災妖が何故か解き放たれて、勝手に攻め込んだ。まぁ、街が壊れて、人間どもが死ねばそれで良い。お前を手元に引き寄せる事もできたしな」


真夜中の襲撃は霸楝にも予定外だったらしい。

だが、望んだ結果が得られれば、不可思議な事など気にとめる必要などないようだ。

ゆっくりと霸楝は木に押さえつけられている翡艶に近づく。


「なぁ、ウブガミ。人間どもによって災妖へと身を落としていく子供たちを、親として悲しくないか?」


嘲笑も皮肉な笑みも浮かべずに、真顔で霸楝は問う。


「子沢山になった覚えはねぇな」


可笑しそうに鼻で笑って答えた翡艶だが、次には笑みを消す。


「お前の言葉を借りるなら、人間も俺の子供だ」


強い意志の瞳がぶつかり合う。

完全に意見は相違しており、お互い譲る事もなければ、妥協点を見つける事すらできない。


「なら、お前は我が子に殺されるのか?」


目を細めて霸楝は問いかけた。

その意味が判らずに翡艶が眉を寄せると、手を伸ばして翡艶の体に触れた。


「お前や凌霄(リョウシュン)はカミ狩りの一族にも寛容だったから、能力の全てを知らないだろう。カミ狩りの一族はカミを殺せるだけじゃない。己にカミ降ろしをする事によって、カミを人間に変える事ができる」

「!?」

「お前はこのシンタイに降りた瞬間から、霊力を少しずつ削がれ、人間へと近づいていってる。だからカミ上げができないんだよ」


さすがの翡艶も、この事実に固まってしまう。

そして、霸楝の説明で全て納得できた。

薙堊(テイア)が重く感じる事も、動きが鈍くなった事も、感知能力が落ちた事も。

その様子に霸楝はニヤリと笑った。

体に触れていた手を上へと移動させて翡艶の頬に添わした。


「俺ならシンタイから上げる事ができる。だから翡艶、俺に協力しろ」


翡艶の責務を判っていての取引だった。

彼の責務を考えれば、もはや取引ですらない。

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