表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カミサマのおとしかた  作者: みけ
第4章 係った結び
21/30

それは、ほとんどの者が予想していなかった。

夜中に結界が消えるなんて。

そして、夜中に災妖が襲撃するなんて。



「どういう事……?」


さすがの凌霄(リョウシュン)も驚きを隠せず、呆然と窓の外を眺める。

それは一瞬。

すぐに頭を緊急事態に切り替えた。


十娥熙(トガキ)珱佳(オウカ)。すぐに鎮皈(シンキ)に向かって」


凌霄の側には誰もいない。

だが指示を出した。


『了解』

『判った! ……翡艶(ヒエン)は?』

「翡艶は――」

『二人でやれる数じゃねぇだろ。行くぞ』


何処からともなく珱佳と十娥熙、そして翡艶の声が聞こえてきた。

テレパシーだ。


「頼むね」


三人の気配が屋敷から一斉に出て行った。

できればシンタイに降りたままの翡艶には出てもらいたくなかった。

しかし、翡艶の言うとおり、珱佳と十娥熙だけで片付けられる数ではない災妖(サイヨウ)が都に攻め入っていた。


「どうして今なんだ。霸楝(ハクレン)


判らないといった感情と、後手になった苦々しい感情で凌霄は表情をゆがめた。

凌霄の属性は闇。

だから夜は彼の領域で、最大限に力を発揮する事ができる。

長の座を狙う霸楝がその事を忘れるはずがない。

相手の狙いはともかく、結界が消えなければ襲撃は成功しなかった。

まずは結界について青一弥(アザミ)に聞こうとするが、眉を寄せた。


「……いない……?」


気配を探っても館の中に青一弥の気配が感じられない。

夕方までカミ上げをしていたからいるはずだ。


「まさか」


清廉潔白が性情である彼が……、と生まれた疑惑をすぐさま打ち消した。

まずは自分のすべき事をするために凌霄は窓を開け、身軽に外へと飛び出す。


夜弖(ヤテ)(カガリ)君を避難させたら、青一弥を探して」


建物の屋根を飛んで移動しながら、手短に夜弖に指示をだした。


『判りました』


緊急事態なので夜弖も言葉一つだけだった。

百を越える災妖に、翡艶たちも全てには手が回らない。

街のあちこちで災妖の雄叫びと人間の悲鳴、建物が壊される音が上がっていた。

凌霄も行って手伝いたいのだが、


擽玄(ラクトオ)


ぽつりと呟くと小さな手に黒い鞭が現れ、下から飛んできた石を弾き返す。


「こんな忙しい時にどうして君たちは!」


腕を振るうと、シュンッと風を切る音が鳴って鞭が伸びた。

そして引き戻すと「ギャッ」という声と共に、石を投げた相手が引きずり出された。

月明かりが相手の容貌を露にした。

全身が黒の毛むくじゃらで、人間と猿を足して二で割った猿人のような容姿。深い紫の瞳。

魔物だ。

屋根から地面へと下りた凌霄は倒れている魔物に近づいた。


「僕に攻撃するっていう事は、それ相応の覚悟してるんだよね?」


冷ややかな笑みを浮かべて凌霄が腕を引けば、魔物の体に絡まっている鞭が絞まった。


「ギ、ギィィィ!」


鞭が体に食い込むと、圧迫され呼吸が苦しくて魔物は声を上げた。

無意識に逃れようと、じたばたともがくが緩む気配はない。


「殺せなくても痛めつける事はできるんだよ」


ギリギリと締め上げて、魔物が苦しむ様を凌霄はしばし眺める。

そして溜め息をつくと、解放してやった。


「騒動に乗じて人攫い、物取りをとやかく言うつもりはない。けど、今日はただの災妖騒ぎじゃないって判ってるでしょ。人間と一緒に死にたくなかったら早く住処に帰りなよ」


いつまでも魔物の相手をしていられない凌霄は、先に進もうと振り返った先の光景に目を瞠る。

十数匹の魔物が自分に対して威嚇していた。

人間より感知能力の高い魔物は、災妖が間近に接近する前に気付いて逃げだす。

そしてカミがどういう存在か知っているので威嚇をするなんてありえない。

ましてや攻撃を仕掛けてくるなんて。

凌霄は大きく飛び上がり高い建物の屋根に乗った。

災妖が暴れまわる気配。

人間が逃げ惑う気配。

そして災妖の気配で感じ取りにくくなっているが、災妖と共に行動をしている気配。

災妖の数以上の魔物が街に入り込んでいた。




凌霄の指示で災妖の鎮皈に向かった翡艶、珱佳、十娥熙の三人は、苦戦を強いられていた。


「くっ……どういう事やねん、これ!」


飛び掛ってきた魔物を棍で弾き返しながら珱佳は叫ぶ。

同じように魔物と対峙している翡艶と十娥熙も同じ思いだった。

三人が、災妖が侵入してきた街の北側に着いた途端、魔物の襲撃を受けた。

そのせいで災妖の相手がちっとも進まない。


「てめぇら! いい加減にしろよ!」


手加減しなければいけないので魔物は一向に減らない。

災妖に飲み込まれて、殺されても魔物は引かない。

命懸けで自分たちの邪魔をしている事に苛々した翡艶が、珱佳に続いて吠えた。

翡艶はトモの姿ではなく、元の姿に戻っていた。

それでも己の一部とも言える薙堊(テイア)を重く感じているという、ありえない事が更に苛立てさせていた。

それは珱佳や十娥熙も同じだった。武器が重く、体の動きも鈍い。


「シャー!」


そんな隙をついて、魔物が翡艶の死角を付いて襲い掛かった。


「!」


翡艶がそれに気付いた時には牙がもう間近に迫って、


「ッッ!!」


ドサッと、地面に倒れた肢体は血を流してピクリとも動かない。

鋭い刃が血塗れていた。

魔物の体を真っ二つにして、殺してしまったのは薙堊の刃だった。

今まで峰の方で叩き返していたが、咄嗟の事で刃の方で返してしまったようだ。

殺した事実に翡艶は苦しい表情をして、一瞬考え込んだ。

が、すぐに襲い掛かってくる魔物に薙堊を振るった。

刃の方で。

殺さずに打ち返すだけだった相手がいきなり殺しに転じた事に、魔物は距離を取って警戒する。

いきなり魔物を殺しだした翡艶に珱佳はギョッと驚く。


「ちょっ、翡艶! 何やっとんねん!」


目の前の魔物を叩き返すと、翡艶の腕を掴んだ。


「うちらは殺生したらあかんって掟やん! 落ちて、ユガミになってまうで!」

「あいつらは、俺たちが他の生き物を殺してはならないと知ってるから引かない。なら、脅しで数匹殺すのも止むを得ないだろ」



感情なく答える翡艶に珱佳は掴んでいる手に力を込めた。


「凌霄ならともかく、翡艶様のお口からそんなお言葉が出るとは、思いもいたしませんでしたわ」


わざとらしい珱佳の口調。

それは翡艶が嘘をついている事が判ったからだ。

睨むよう見る目は「本当の事を言え」と言っていた。


「……俺が傷つけば、シンタイが傷つく。無傷で返すって炬と約束したんだよ。そのためなら多少穢れても、俺は構わねぇ」


さきほどと変わらない調子で翡艶は冷静に言い切る。

それだけ彼が本気ということであった。

答えは予想できていた。

それを翡艶に言わせた上で、珱佳は問い詰める。


「翡艶がユガミに落ちたら、世界は歪なものしか生まれへんねんで? 自分の責務、ちゃんと理解してんの?そこまでして兄ちゃんとの約束が大切なん!?」

「……」


なにも言わない。それが翡艶の答えだった。


「翡艶!」


二人の意見は平行線をなぞっていた。

カミの中で唯一の掟は、他の生き物を殺してはならない。

それを犯せば罪となり、罪は穢れとなる。

穢れは蓄積されて、溜まり過ぎるとカミの性質が変化してユガミという存在になる。

ユガミへと落ちると、残酷に他の生き物をただただ惨殺していく。

故に珱佳はトモの体が傷つくより、掟を重視する。

翡艶は絶対ユガミに落ちてはならない存在であるからだ。

このままでは魔物の襲撃という予想外の状況を打開する前に、仲間割れになってしまう。


「なら、殺さずに傷つけるだけではダメか?」


黙って二人の話を聞いていた十娥熙は、周りを警戒しながら妥協案を提案してみた。


「傷つけるだけなら、まだ穢れも少ないだろう」


淡々とした十娥熙の妥協案は二人の間を取っていた。

傷つけるのも血が流れるので穢れになるが、殺すほどの穢れにはならない。

そして、炬との約束も守れる。


「死が増えると俺の力が暴走する。だから翡艶」

「判った」


珱佳にガミガミ言われるより、十娥熙に淡々と目で訴えられる方が翡艶には堪えた。


「……」

「わ、判ったよ!」


珱佳も十娥熙の無言の訴えに負けてしまった。

結論が出た所でシュルシュルと音が聞こえてくる。続いて魔物の断末魔。


「!?」


三人がそちらに目を向けると、建物や魔物に絡まりながら増長する植物。

これは魔物ではなく、災妖の成せる業だ。

こんな間近に迫られるまで気付かなかった事に三人は驚愕した。


「翡艶、下がれ!」


己の感知能力の低下にいつまでも驚いておれず、珱佳と十娥熙は災妖の前に出て、翡艶は飛び退いて距離を取った。

この災妖と翡艶の相性は悪いのだ。しかし、


「なっ……この!」


植物を操る災妖は目の前の一匹だけではなかった。

地面から伸びた木の根が翡艶を絡めとり、自由を奪う。


「翡艶!!」


それに気付いた珱佳が手を振るうと炎が生まれて、木の根を焼き切ろうとした。

だが、寸前の所で翡艶を覆うようにドーム状の水の壁が現れ、珱佳の炎はかき消されてしまった。

そして、木の根と翡艶を飲み込んで水は消えていった。

一瞬の出来事で、水に勝てない火属性の二人には阻止する術などなかった。

それが判っていても珱佳は悔しそうに壁を叩く。


「くそっ!」

「やられたな。夜に強い魔物を使ったのは注意を反らして、木の災妖で翡艶をさらうためか」

「そうやろうな。……やけど、あんな近くまで来てて気付けへんやなんて……翡艶だけやなく、うちらもおかしなってる」


翡艶の異変は顕著に現れていたので気付いたが、自分や十娥熙の異変にまでは気づかなかった。

珱佳は苦々しげに舌打ちした。

この事を早く凌霄に知らせなければならない。だが、


「ここ片付けたら、凌霄探すで」


同じ街にいる凌霄の気配が掴めない。こんな事は今までなかった。


「あぁ」


異常事態。

嫌でも判る。

二人はいつもより重く感じる武器を構えなおして、災妖に向き合う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ