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カミサマのおとしかた  作者: みけ
第3章 カミ心同じからざるは其の面の如し
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20/30

10

外の散歩は予想通り退屈で終わってしまった。

閑散とした道を並んで戻っている途中、(カガリ)が本当に軽い気持ちで聞いた。


「俺も武器とか持って戦えるようにした方が良いかな?」


しかし翡艶(ヒエン)は、


「必要ねぇ!」


過剰なぐらい反応した。

いつもと違って真剣で、怒りのようなものさえ感じられた。


「っ……そ、そんなに大声で言わなくたって、例えばの話で……」


いつにない迫力に炬は繕うように続けたが、翡艶はそれさえ許さないと言わんばかりに遮る。


「お前はそんな事考えねぇで、妹の事だけ考えとけ!」


こんな翡艶は初めてなので、炬は驚いて見つめ返すしかできなかった。

睨むように炬を見ていた翡艶はふいっと前を向くと、すたすたと館の方へと歩き出した。

しばし呆然としていた炬だが、我に返って慌てて後を追いかける。

そして館までの道程は、何とも気まずいものとなってしまった。


「あ。お帰りなさい」


館に辿り着いた時、丁度出て来た夜弖(ヤテ)とでくわす。

しかし、翡艶は何も言わずにさっさと中へと入って行った。

翡艶は面倒臭がりだが、けして無愛想ではない。

無視をするなんて珍しくて、夜弖はキョトンとして小さな背中を見送り

「……どうかしたんですか?」


炬の方へと目を向けて疑問を投げかけた。

しかし、炬自身もどうして翡艶が怒っているのか判らなかった。


「それが……」


とりあえず先ほどのやりとりを夜弖に話してみた。


「あー、そうだったんですか」


話を聞いた夜弖は一人納得して頷いた。

そして全然判らない、といった表情をしている炬に笑みを向ける。


「翡艶さんは炬さんをこれ以上巻き込みたくないんですよ。只でさえ、妹さんに降りてしまって迷惑かけてるから」


翡艶の予定では、今頃はトモから上がって二人を村に帰しているはずだった。

だが、未だに上がる事は叶わず、更にカミ同士の争いが今にも勃発しそうな危険な状態。

普通なら遭遇しないだろう事に付き合わせてしまっている事を、態度には出さないが翡艶はすまないと思っている。

そして翡艶の一番気がかりは、炬がカミ狩りの霊力に目覚める事だった。

彼の平凡な生活には必要ない力だし、下手に力持っていたら厄介事に巻き込まれかねない。


「迷惑って……。トモに降りたのは翡艶のせいじゃないし、付いて来たのだって俺の意思だし……」

「翡艶さんは誰よりも優しいカミなんですよ。だから、この地に生きるもの全てを大切に思ってるんです」


にこりと笑って諭すが、炬の表情はまだ納得していなかった。


「僕としても炬さんをこの争いに巻き込みたくないです」

「……」

「君は優しいですね」


少しでも関わりを持てば彼にとっては知人。

困っていたり、大変だったりすると手を貸さずにはいられない。

そんな炬だから様々な感情が渦巻く争いの中に入ってしまえば、負わなくていい傷を負ってしまう。

そして、カミの常識は人間の彼には受け入れられない部分もあるだろう。

姿形は同じでも、カミと人間はまったく異なる種族なのだ。

きっと翡艶は炬本人よりもその性格を理解している。

けど、不器用な彼が上手く説明できるはずもなく、ああいう態度になってしまったのだ。

なら、その尻拭いをするのは自分の役目なんだろうと夜弖は思った。


「僕らの事を思ってくれるなら、手を出さないで下さい。これは僕らの内輪もめですから、僕たちで決着つけなきゃ意味がないんですよ」

「……判りました」


そこまで言われたら納得をせざるをえなく、炬は渋々頷いた。


「でも、丸腰は心配ですから、青一弥(アザミ)さんと話して護身用の剣を見繕ってみますね」

「あ、ありがとうございます!」


そう付け加えられて炬は嬉しそうにお礼を言って頭を下げた。

手伝えないのなら、せめてお荷物だけにはなりたくはなかった。

夕方、ぼんやりと青から赤へ、赤から藍へと色を変えていく空を眺めていた炬に夜弖が声をかける。


「炬さん」


周りを確認してから炬は夜弖の元へと行く。

夜弖も一応周りを確認してから、手にした物を見せる。

全体で六十センチほどの一振りの剣だった。

装飾はされていなく、鞘や柄、鍔さえもくすんだ白で統一されていた。


「軽い」


受け取った炬が思わず口にするほど、その剣は棒切れのように軽かった。


「慣れていないと普通の剣は重くて振るえませんから」


ゆっくりと鞘から引き抜くと白銀の刀身が姿を見せる。

鞘などがくすんだ白なので刀身が一際純度の高い白に感じられた。炬は煌きに目を奪われて、


「あの方の一押だそうです。君が持つに相応しい剣は、これだと」


夜弖の言葉を聞き流した。


「何やってんだ」

「「!?」」


油断していた二人は声をかけられて大げさなほどビクついた。

慌ててそちらを見ると、腕を組んで不機嫌な表情の翡艶が立っていた。


「……翡艶さん……」


ははは…、と夜弖は頬を引き攣らせながら笑って誤魔化そうとした。

炬の方は完全に固まってしまって、剣を隠す事もできない。

炬が手にしている物を見つけると目を細めた。

翡艶が怒っている証拠だ。


「何持ってんだ」


武器を持つ事を反対している翡艶に見つかって、昼以上に怒られるだろうと炬は身を硬くした。

そんな様子に夜弖が、


「炬さんを巻き込みたくない、平穏と関係ない事をさせたくないと思っているのは、僕も同じです。だからこの剣は戦いのためじゃなく、護身用です」


あくまでも「もしも」の時用だと説明した。

それは翡艶を納得させるのと同時に、炬にも言い聞かせるものだった。


「……命の危機以外で、ぜっっったい抜くなよ」


武器を持つ事に翡艶は反対だが、護身用と言われたら引き下がらないわけにはいかなかった。

怒られずにすんで炬はホッと体から力を抜いた。


「返事は!」

「判りました!」


意外にスパルタなのかもしれない。









「言われた通りに渡しました」

「ふむ」

「霊力の方も充分引き出せてます。覚醒は薄氷を破るかのように簡単です」

「それは本人がやるであろう」

「では、そろそろ始めましょうか」

「あぁ。どんな結末を紡ぎだしてくれるのであろうのう」

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