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カミサマのおとしかた  作者: みけ
第3章 カミ心同じからざるは其の面の如し
19/30

勝手に午後まで休憩と言って翡艶(ヒエン)は部屋を抜け出した。

その後ろを(カガリ)は付いて来いた。


「一日中、部屋の中でいれる奴らの気が知れねぇ」

「同感」


アウトドア派の二人には部屋の中でジッとしているなんて、苦痛以外なにものでもなかった。

しかし今、外に出ても二人にとって心地良い空間とは限らないが。

館の外に出るために迷路のような廊下を歩いていると、前方に一人の男が突っ立っていた。

何もない所で何をしているのだろうかと翡艶が声をかける。


青一弥(アザミ)?」


水色の髪を見て炬も相手が青一弥である事を認識した。

そして、少し前の挙動不審ぶりを思い出して、一人気まずくなった。


「……」


翡艶の声が聞こえなかったのか、青一弥は何の反応もせずに立ち続けている。

目の前に壁があるかのように、何もない空中に手を添えて考え込んでいた。


「おい、青一弥。結界がどうかしたのか?」


その様子に何かを感じて、翡艶は側まで近付いた。

炬の目には見えないが、青一弥の前には都全体を覆っている結界の要がある。

その前で難しい顔をしていたら、結界に異変が起きたのではないかと思う。


「あ……翡艶……い、いえ。何もありません……」


やっと声をかけられた事に気付いた青一弥は目を逸らしながら答えた。

明らかに他者の存在に動揺している。

翡艶はしばらく青一弥を見つめ、


「結界に支障がないならいい」


問いたださずに横を通り過ぎった。

絶対に何か隠してる、と思いながらも、会釈をして炬も通り過ぎた。

少し進んでから振り返ると青一弥はまた難しい顔をしていた。


「いいのか?」

「あいつが大丈夫だって言ってんだから、大丈夫なんだろ」


信頼なのか、興味がないのか、判らないが翡艶はそのまま歩いて行く。

炬は翡艶と青一弥を交互に見た。

仲間ならもっと気にかけるものじゃないかと思うが、彼らは彼らのルールがあるだろうから何も言わずに翡艶の後を追いかけた。

館から外へ出ると爽快な青空と眩しい陽光が目に入る。

すがすがしくて、炬は大きく伸びと深呼吸を同時にした。


「ん~……はぁ」


空から地へと視線を戻せば、すがすがしさが半減してしまった。


「もっと賑やかな都なら、みんなに土産話もできたのに」


外は昨日と変わらずにひっそりとしていた。住宅区から大通りに出てもそれは変わりない。


「ま、諦めろ」


残念そうな炬に気持ちがこもっていない慰めが入った。

そして二人は閑散とした大通りをブラブラと歩きだす。

大門から伸びる大通りの終着点は大きな宮殿。

朱色を基調とした柱や屋根、真っ白な壁の鮮やかなコントラストと、シンプルな造りが建物の壮大さを後押ししていた。

この宮殿の主は大陸の東地域を治める王である。


「あそこに王様がいるんだよな?」

「あぁ。会った事ねぇから、どんな奴か知んねぇけど」

「ならさ、こんな大変な時に何もしないのか?」


都と繋がりのない農村で育った炬でも、王がどういうものかは理解していた。

村長みたいな感じだと思っていたとしても。

都が緊急事態なのだから兵を出して警備させたり、安全な場所に避難させたりなど、責任者としてすべき事があるのではないだろうかと少し不満げに言う。


災妖(サイヨウ)相手に人間がどうこうできねぇのは知ってるだろ? 死にたくなかったら大人しくしてろ、とでも凌霄が王に言ったんだろ」


普通の緊急事態なら炬が言うように王は対処すべく動くだろう。

しかし、人間が手も足も出ない災妖が相手のうえ、カミの思惑も絡んでいる。

人間が手出しできるものではない。

そう言われて炬は昨日の凌霄(リョウシュン)を思い出した。

カミ同士の争いに巻き込まないように一応手を回しているようだ。

そこまで考えて、ふと感じた事を口にする。


「どうして凌霄さんを祀ってないんだ?」

「は?」

「だから、凌霄さんは神々の長なんだろ? そんな凄い神様が街にいたら、普通は崇め祀るだろう」


存在を知られていないなら、祀られていなくても不思議はない。

だが王に進言しているなら凌霄の存在は知られているはずだ。

なら街は大々的に凌霄を崇めないのかと、炬は聞いているだ。

翡艶は意味が判らなくて炬を見た。

それから少し頭を掻いて、


「……あ、そっか」


ポツリと呟いてから考え込んだ。

この青年の認識を訂正せずにここまできたので、そう思われても仕方がなかった。

とはいえ、わざわざ訂正する必要もない。

そう思う翡艶だが……


「凌霄は表に立つ存在じゃねぇんだよ。そもそも、俺たちは人間の上に立つ存在じゃねぇ」

「え……?」


小さな呟くような声で言われた言葉に、炬は驚いた。


「生き物……この世に優劣なんてねぇんだよ」

「それって――」

「はい、この話は終わり。しっかし、人間がゾロゾロといたらいたであれだけど、いねぇと物寂しいな」


質問の隙を切り捨てるように翡艶がパンパンと手を鳴し、次の話題に移ってしまった。

少し早足で自分と距離を空ける翡艶の背を炬は複雑そうに見つめ。

彼は教えてくれるようで、肝心な部分は語ろうとしない。

炬の深く関わろうと思わない気持ち――好奇心に負けて色々聞いてしまっているが――を察してくれているのだろう。

だから、あんな中途半端な事を言うなんて珍しい。しかも少し寂しげな顔で……





四メートルはありそうな本棚に立てかけられている木の梯子の中ほどに座って、凌霄は書物を読んでいた。

朝からずっとこうしていると翡艶や炬が知ったら「ありえない」といった表情をするだろう。


「ふー……」


ぱん、と書物を閉じるとゆっくり息を吐き出した。

そして梯子の上で器用にくるりと半回転して、書物を元の場所にしまった。

なかなか思うような情報が得られず、時間だけが経過してしまう。


「見つかれへん?」


お盆片手に現れた珱佳(オウカ)


「ん~。擁護の仕方も考えなきゃね」


苦笑しながら凌霄は梯子から降りる。

部屋の四方を大きな本棚で囲まれた書庫には窓がない。

しかし、蛍のような光の球体が幾つも漂っているので暗くはなかった。

この光の球体は空気中に存在する精霊。

意思はなく、微弱な力で発光しながら空中を漂っている。

カミの霊力に引き寄せられる習性があって、定住しているカミや祠の近くで見かける事ができる。

珱佳は小さなテーブルにお盆を置くとカップを二つ並べて、ポットから熱いお茶を注ぎ淹れた。

紙と皮の匂いの中に爽やかな匂いが混じる。

お礼を言ってから淹れたてのお茶に口を付けて、一息つく凌霄。

考えていた予定が狂ってきている事に実は内心不愉快だった。

長のご機嫌がななめである事に気付いている珱佳は、これからそれについて話すのがとても嫌だった。

だが、私情と責務を割り切らなければカミは務まらない。


「あっちの準備は整ったみたいやで。ま、予定通りやな。……それにしても、意思疎通のでけへん災妖をあれだけの数集めて、抑えてられるんはほんまに凄いな。さすがは、天の鳴神……眠りから目覚めさせ、自由を奪い、平伏させる雷やね」

「僕とはまた別の畏れの対象だね」


そう言う凌霄だが、己にはまだまだ程遠い畏怖だと言わんばかりの目だった。

お茶を飲み干すと、狂いだしている予定を立て直しだす。

数が揃ったなら近日中に襲撃してくるはずだ。

頼みにしていた翡艶があの調子なら簡単に事態収拾は望めない。

なら、カミ狩りの青年には早々に避難してもらわなければ、霊力が目覚めて色々厄介な事になってしまうだろう。

確定に近い不利な可能性ばかりで嫌になってきた。


「僕が前に出られれば、簡単に片付けられるのに」


ほとんど機能しなくなった対。

世界のバランスのため。

全てを理解しながら、今更な事を笑って呟いた。

ふと隣を見れば珱佳が少し難しい顔をして考え込んでいた。


「どうかしたの?」

「ん~……なーんか引っ掛かりって言うか、気になるって言うか……そんな感じがあんねんなぁ」

霸楝(ハクレン)が他に何か企んでると?」

「そういう訳やないけど……嫌な予感がする」


珱佳の言葉を聞いて、凌霄も朝に感じた違和感を思い出す。

しかし、理論も道理もない、直感的なものはいくら考えても答えは出ない。

今は時間が惜しいので思考を隅に追いやり、カミ狩りの一族やカミ上げの方法を探すのを再開した。


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