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カミサマのおとしかた  作者: みけ
第3章 カミ心同じからざるは其の面の如し
17/30

変な時間に目が覚めてしまったせいで、(カガリ)は遅い朝食を食べていた。

木のさじを銜えながら炬はこれからの予定を考えた。

翡艶(ヒエン)たちの所に行っても、何の役にも立たないので邪魔なだけだろう。

神様の館をうろうろと徘徊するのも気が引けた。

だからといって外に行っても魔物騒ぎで街は静まり返っているし、なにより迷子になるのがオチだ。

毎日労働していた炬にとって、暇潰しというのは思いつかなかった。

結局は翡艶の様子を見に行く事にした。

昨日のホールに向かって歩いていると、蛍のような光の球体が空中を漂っている。

昨日は見なかった。

神様が住んでいる館だから何が起こっても不思議ではない。

それで納得してしまう。魔法の言葉だ。

いくつかの光と擦れ違い、何気なく振り返ると、そこにはもう光はなかった。

特に気にせずに歩を進めると言い合いをする声が聞こえてきた。


「だから、何であかんねん!」

「さっき説明した」

「納得できへん!」

凌霄(リョウシュン)に怒られるぞ?」

「うっ……凌霄が怖ぁて、カミが務まるか!」

「なら本人に言ってみろ」


十娥熙(トガキ)珱佳(オウカ)だ。

言い合いと言うより、珱佳が一方的に突っ掛かっているだけ。

無表情の十娥熙が、面倒臭そうに答えているのが何よりの証拠だ。

どうしたのかと思った炬だが、関わらない方が身のためだと本能が感じ取って、その場を素通りしようと決めた。


「あ、兄ちゃん。ちょっと聞いてや」


人生、そんなに甘くない。そう痛感した炬、十九歳。


「ど、どうしたんですか?」


逃げる事は不可能だと諦めて、状況を聞いた。


「あんな。兄ちゃんがおる事やし、皆でご飯食べようと思ってん」


カミは食事をしなくても生きていける。

けど炬は食事を必要とする。

一人で食べても美味しくないだろうから皆で食べようと、珱佳なりに炬を気づかっているようだ。


「やから全員のご飯作ろうと思ったら、十娥熙が止めんねん」


良い事をしようとしているのに、と憤慨している。

炬は珱佳の気づかいに感謝しながら、十娥熙が止めるという事は重大な理由があるのだろうと隣の彼を見た。


「珱佳の料理は……台所が壊滅する」

「……壊滅、ですか……」


見た目がえげつないとか、殺人的不味さとかを想像していたがそちらではなく、作った後が悲惨らしい。

壊滅とまでなれば、そりゃあ止めるだろう。


「そんな事ない! ちょっと壊れるだけや!」


懸命に否定する珱佳を「ちょっとか?」という目で見つめ返す十娥熙。

そもそも料理をして台所は壊れるものだろうか?


「と言う訳で、兄ちゃんも十娥熙を説得してや」


珱佳が炬の肩を持つと十娥熙の方へ突き出した。


「え、いや……あのですね、珱佳さん」


十娥熙に賛同してしまっている炬が、自分を説得しようとしていると気付いた珱佳は、ビシッと指を突きつけ、


「凌霄と浮気してたん、翡艶にちくったるねん!」

「そんな関係じゃねぇ!」


間髪容れずに否定した。


「なぁ、ちょい翡艶の言葉遣いに影響されてへん?」

「…………」


が、炬の全力否定をスルーして、珱佳はニヤニヤしながら気付いた事を聞いていた。

十娥熙は青年に同情を禁じえなかった。






「ん?」


カミ狩りの一族に関しての情報を探していた凌霄が、資料から顔を上げた。


「……?」


館は凌霄の領域なので、何か異変があればすぐに察知できる。

意識を集中してみるが何も異変はなかった。

だが、意識の隅で何か引っ掛かりが残った。

この時、違和感を突き詰めていたら……、と彼は後になって思う。






やっと珱佳から逃げおおせた炬は、目的の場所へと向かって歩いていた。

ここでも光の球体と出会うが、振り返ると消えていた。

神様の館だからいいが、これが森の中などだったら人魂と言って大騒ぎになるだろうと、炬はぼんやりと考えていた。



……パチン……



泡が割れる音が聞こえた。それが何を意味しているのか判らない炬は聞き流した。

続いて足音が聞こえたので、そちらに目を向けるとインテリ男。


「あ。青一弥(アザミ)……さん?」


青一弥はキョロキョロと、尋常ではないほど、周りを気にして歩いていた。

言ってしまえば挙動不審。そして足早に何処かへ行ってしまった。


「……えーと?」


何だか見えてはいけないものを見てしまって、炬は微妙な気分だった。

消化不良のまま目的の場所に辿り着き、ドアをノックする。


「いらっしゃーい。あれ、どうしたんです? そんな疲れた顔をして」

 

夜弖(ヤテ)が笑顔で迎えてくれた。


「大方、珱佳に振り回されたんだろ」

「あぁ」


適当に当たりをつけた翡艶が言うと、夜弖は笑って納得した。

進行状況を聞くが、良い返事はなかった。

溜め息を吐く炬に向かって、夜弖はお茶の用意しながら別の話を振った。


「それにしても、よくここに来る事ができましたね」

「え? どうしてですか?」


この部屋に来るのが変な事だろうかと、炬は聞き返してしまう。

翡艶の方も夜弖の言葉に不思議そうにしていた。

三人分のコップをトレーに乗せて夜弖が二人の元に戻ると、お茶を配った。

二人の反応にクスクスと笑いながら、


「迷路のような館なのに、炬さんが一人で知らない部屋に来るって変じゃないですか?」


判りやすいように指摘されて、やっと理解した二人は「あー」と声を上げた。


「お前、どうやって来たんだ?」

「どうって言われても……」


翡艶に質問されて炬は困った表情をして考え込んだ。

確かに何度も分かれ道や曲がり角はあったが、迷わずにこの部屋まで真っ直ぐ来た。


「翡艶がここにいるって、どうして判ってたんだろ?」


自分でも理解不能な出来事に炬は、逆に翡艶に聞いてみた。


「俺が知るか」

「だよな」


そんな翡艶と炬のやりとりを見ていた夜弖はニヤリと笑った。

その笑みと同じものを二人はつい最近見た。


「珱佳さんが言っている事も、あながち嘘じゃないかもですね」

「「だから違うっての!」」

「息ピッタリですね」

「「……」」

 

否定するのもいい加減疲れてきた二人だった。

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