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カミサマのおとしかた  作者: みけ
第3章 カミ心同じからざるは其の面の如し
15/30

「変わった石を持ってるね?」


(カガリ)の首飾りの碧玉に気付いて、凌霄(リョウシュン)が不思議そうに見つめた。

そう言われた炬は自分の首に掛かっている石を見る。


「拾ったんです。ここに来る前に」


ふ~ん、と頷きながらもなお見つめ続ける凌霄に、炬は戸惑ってしまう。

神様がジッと凝視するほど凄い物なのだろうか。


「な、何ですか?」

「ん~。石って力のある物でさ、道端に落ちてる小石にもあるんだけど……この石には全然力が感じられないんだ。死んだ石にしては綺麗に透き通ってるし」


説明してくれるのはありがたいが、炬にはまた未知なものだった。

神様から見れば石ころも鳥や魚のように見えるのだろう、と自分なりに解釈するしかなかった。


「勝手にお邪魔してんでぇ」


炬が頭を痛めていると聞いた事のある声が耳に入った。

凌霄と二人でドアの方に目をやれば、絶世の美女が立っていた。

見惚れてしまう美麗な笑みを浮かべているが、炬には何となく含みがるように見えた。


「お帰り、珱佳(オウカ)

「ただいまー。客間の用意してるって事は翡艶(ヒエン)まだ上がられへんの?」


珱佳の質問に凌霄は頷いて簡単に説明した。

聞き終わった彼女は「あらら」と困ったような表情をして納得する。


「ま、大丈夫やろ。頭の固い青一弥(アザミ)に、腹黒凌霄もがおるしな」


確実にけなしているとしか言えない言葉を口にする珱佳に悪気はない。

隣から黒いものを感じて炬は視線をあらぬ方向に向けた。

珱佳も黒いものを感じ取って空笑いすると、慌てて話題を変えにかかった。


「に、兄ちゃん、浮気はあかんで」

「へ……はぁ!?」


いきなり自分に振られて炬は反応に遅れ、続いて素っ頓狂な声を上げた。

言われた内容に意味もなく慌ててしまう。


「な、何言ってんですか!」

「大雑把やけど、意外と翡艶ってそういう事には煩そうやで」

「え、翡艶とそう言う関係なの?」

「いや、だからですね。俺と翡艶はそんな関係じゃありませんって言ってるんですけど、信じてくれなくて」

「やって、翡艶があんな親切なん珍しいねんもん」

「そう言われれば……そうだね」


珱佳がそう思う理由を言うと、凌霄はなるほどと妙に納得してしまった。

「そこで納得しないでくれ……」と突っ込む気力が削がれてしまった炬は、弁解を翡艶に擦りつける事にした。

すっかり項垂れている炬を見て珱佳は楽しそうに笑っていたが、


「そうそう、翡艶って言えば。外におるん見たけどやっぱおかしいで」


口調は冗談を言っていた時と変わらないが、表情が引き締まった。それを読み取った凌霄も笑みを消して内容を促す。


「弱なってる」


簡潔に一言で答えた。

それにどれほどの意味があるのかは二人の顔から伺えない。


「……」


部屋の中に静けさが満たされた時、



ざわっ



三人は翡艶たちが帰って来た事を知る。

声や物音が聞こえた訳ではなく、屋敷の中に入って来た気配を感じ取ったのだ。

炬は首筋の産毛が逆立ったような感覚が気持ち悪くて、擦って消そうとしている。

その様子を見ていた凌霄と珱佳は視線で会話を交わす。

『翡艶だけではなく、この青年も何かある』と。

だが、炬自身に悪意や企みはないようなので、本人に問い詰めるような事はせずにこちらで対処しよう、とも決めた。


「まぁ、翡艶に関して本人にまず聞いた方が早いから行こうか」


笑みを浮かべて二人を促し、凌霄は部屋を出て行った。


「ほら、行くでぇ」

「え、ちょ、ちょっと!」


まだ感覚が残っていて不快そうな炬の背中を珱佳は押して居間へと向かった。

案内された居間では夜弖が他の三人にお茶を配っていた。


「お疲れ様。どうだった?」


労いの言葉をかけながら凌霄は外の状況を聞いた。

出て行く時に予想していた通り揺さ振りだったらしく、結界はヒビを入れられていただけだった。

その報告に長は一つ頷いた。

それから椅子に座ってお茶を啜っている少女に目を向ける。


「翡艶。体の方に何か異変とかない?」


その一言で全員の目が翡艶に向けられた。

十娥熙(トガキ)や青一弥も異変に気付いていたようだ。

全員の視線に晒されて翡艶は居心地悪そうに身じろごながら、


「別に」


何も心配する事などない、とでも言うように一言で切って捨てる。

そう言われると何も言えない仲間だが一人だけ違った。


「本当か? 珱佳さんとか変だって言ってるぞ?」


炬は翡艶の前に立って畳み掛けるように追求した。

仲間なら突っ込ませないのだが、目の前の青年には通じないようだ。

妹の体が関わってくるのだから曖昧な答えで納得するわけがないだろう。

翡艶は軽く息をついて不機嫌な表情を作る。


「慣れねぇシンタイに降りたから反応が鈍いだけだ。お前がいちいち心配する事じゃねぇんだよ」

「…………そっか……」


返ってきた言葉に炬は少し俯きながら納得した。

炬らしからぬ反応に翡艶が訝しむ。口を開くより先に、炬がすまなさそうな顔をして、


「すみません。ちょっと疲れたんで先に休ませてもらっていいですか?」

「うん、良いよ。夕飯の時刻になったら起こしに行くから」


了解をもらえると、そそくさと自分に宛がわれた部屋へと向かった。

炬の姿が見えなくなると、


「翡艶のアホ」

「馬鹿」

「デリカシーがないですね」

「それでもカミの中のトップである十二霊の一員?」

「まぁ、翡艶さんですしねぇ」


次々と男を非難していき、夜弖(ヤテ)の締めに全員が頷いた。


「何だよ」


これまでも散々言われてきたが、今は覚えがない事に非難されて不機嫌になる。

判ってない様子に全員が溜め息を吐いた。

そして珱佳が代表して翡艶に詰め寄った。


「兄ちゃんは妹の体だけやなく、あんた自身の心配もしてんの。やのにあんな言い方ないんとちゃう?」


もし、トモの体に降りたせいで翡艶の体調に異変をきたしたのなら、不可抗力とはいえトモの責任である。

しかし今のトモには自我がないので、兄である炬が責任を感じてしまうのは性格からして直ぐに想像がつく。

だから翡艶に異変が起こっているなら何かできる事がないかと聞こうとしたのだ。

なのに翡艶はそんな炬の気持ちに気付かず、逆に心配をかけないようにいつも通りに突き放すように返してしまったのだ。


「……そうかもしんねぇけど、実際何ともねぇんだからそう返すだろうが」


炬の意図が判って、仲間からの非難の目に晒されて、翡艶はいたたまれなくないながらも何とか反論した。


「この体から上がるのが一番だろ」


トモの体から上がる事が炬の心配解消の早道なのだ。

早くカミ上げをするぞと二人を促して逃げるように居間を出て行った。


「不器用ですねぇ」

「それでは、行きますか」


ぶっきらぼうな優しさに苦笑しながら、青一弥と夜弖は翡艶の後を追った。


「やっぱ愛かな?」

「……やめてやれ……」

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