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カミサマのおとしかた  作者: みけ
第3章 カミ心同じからざるは其の面の如し
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翡艶(ヒエン)は都が嫌いなのか?」


初めての空中飛行に最初は戸惑っていた(カガリ)だが、慣れてくれば風を感じていた。


「急に何だ?」


キョロキョロと幼子のように周りを見渡していた相手が前触れもなく質問してきたので、翡艶は訝しげに逆に問い返した。


「都に行くって決まった時、嫌な顔をしてたからさ」


炬は都どころか、村の外へ出た事などほとんどなかった。

だから、どういった所なのか想像もつかない。

翡艶が嫌な顔をしたので、おどろおどろしい所なのかと想像しているようだ。

訳を聞いて翡艶は溜め息が出そうになった。

それは相手に対してのものではなく、都の説明を考えてだった。

自分の感じる都のイメージをそのまま口にすれば、素直で感受性の強いこの青年をきっとそのまま呑み込んでしまうだろう。

自分にとって嫌な所でも、青年にとっては良い所かもしれない。

先入観をもってしまえば物事を正確に捉える事ができなくなってしまう。


「人間がごちゃごちゃといて、落ち着かないからな」


不用意な一言で炬の目を曇らせてはいけない。

そう判断して、嫌な理由の中で当たり障りのないものを答えた。

その返答に不信がらず、むしろ納得したように炬は頷く。


「そっか。翡艶って一人の方が好きそうだもんな」


何気ない言葉に翡艶は瞳を細める。

飛ぶ事、半刻。

都から一キロばかり離れた森の中に着陸した。

巨鳥からヒト型へと戻った翡艶は小さく息を吐いた。


「大丈夫か?」


思ったより溜まった疲労を隠したのに、見透かされて男は内心舌打ちをした。


「お前に心配されるほど柔じゃねぇよ」

「人が心配してんだからそう言う言い方ないだろ」


気づかって聞いたのに素っ気なく返されて炬は妹を諭すように言う。

相手が完全に自分を妹と同じような感覚なのだと感じ取り、何とも言えない気分だった。

翡艶は炬に向き直ると指を突きつける。


「姿形は妹だけどな、俺はお前よりずーっと体力あるんだよ。妹と同じように扱うな」

「う……」


妹の姿で、しかも神様の言葉でビシリと言われて炬は何も言い返せなかった。



ここは四つある都の一つ、大陸では東に位置する(ロン)の都。

漆喰の墻壁は何処までも続きそうで、都全体を囲んでいるのだと安易に想像できた。

門を潜ったその内側は、まるで積み木を箱の中に並べたかのように整列している建物。

門から一直線に伸びる大路の先、周りの建物と比にならない程の壮大な建物。

想像していたよりも大規模な都に炬は愕然としていると、


「口閉じろ。間抜け面してるぞ」


指摘されて慌て口を閉じた。ど田舎に暮らしていた炬からすれば、都は珍しくて仕方がない。

物珍しさにキョロキョロしている御上りさんの隣で翡艶は眉を寄せる。

都と言われるだけあって大勢の人間が集まって賑やかな所のはずなのだが、今は閑散としていた。

商いをしているのは食料を販売している店だけで、外を出歩いている者もまばらだ。

生気が感じられず、ひっそりと息を殺しているような雰囲気。

異変を感じ取った翡艶は近くの店主に事情を聞く。


「何かあった?」

「お嬢ちゃんは外から来たのかい?」

「はい」

「よく無事だったねぇ。今、都の北に魔物が住み着いちまって、日毎に増えていってるらしいよ。いつここに攻めて来るか心配で気が気じゃないよ」


恐ろしいと身震いしながら、店主は都の異常な静けさの訳を説明してくれた。


「少し前に王が討伐の兵を向けたけど、一人として返って来なかったんだよ」

 

次は自分たちじゃないだろうかと想像した店主は青い顔をしていた。

事情が判った翡艶は店主に礼を言って歩き出す。

頭を下げて炬がそれを追った。

翡艶は大通りから細い脇道に入って、迷路のような道を迷う事なく進んで行く。

脇道にも色々と店があるのだろうが、今は閉められていた。更に奥へ進み、住宅の区画に入ると静けさに拍車がかかった。

捨てられた村を歩いているような気分になってくる。


「なぁ、魔物の大群どうにかしてやれないのか?」


大人しく後ろを付いて行く炬は、静か過ぎる空気に耐えられなくなったように聞いた。

男は振り返らずに歩き続けた。


「人間の思惑にどうして俺が動かなきゃならない?」


冷めたような口調に炬は唖然とした。あまりにもの言い方にカッとなって翡艶の肩を掴んだ。


「困ってる奴を助けるのは普通だろ!」

「誰彼構わず助けるようなお人好しじゃないって事だ」


青年の性格を判っていながら翡艶は逆撫でた。


「神様は高みの見物ってわけか!」

「そもそもお前は俺の存在を誤認してる」

「え……それ、どういう――」

「うわぁぁぁ!!」


空気を切り裂くような悲鳴が辺りに響き渡った。


「!?」


驚きながらも炬の頭の中で「もしかして」が想像され、悲鳴のした方へと走り出す。

何も考えずに走り出した炬の背中を見つめて、翡艶は難しい表情をした。


「落ちるわけにはいかない……が、見捨てられない……か」


次には諦めたように炬の後を追いかけた。

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