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異世界転移した女医ですが、帰りたいのは元の世界だけではなくなりました ~辺境の村から始まる異世界診療記~  作者: 滝内亜依
第6章 それぞれの道を考え始めちゃった。

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第九十七話 選べない想い

 数日後、仁は、改めて桜子の前に立った。

「決めました」

 その一言に、桜子は、覚悟を決めて頷いた。

「聞かせてください」

「帰ります。日本へ」

 予感していたはずの言葉だったが、それでも、桜子の胸は、鈍く痛んだ。

「理由を、聞いてもいいですか」

「あなたと話して、分かったことがあります」

 静かに、語り始める。

「私がここに残りたい理由は、あなたです。それは、紛れもない本心です。でも、日本に帰りたい理由は、家族です。何も言わずに消えた自分を、ずっと悔やんできました」

「……それは」

「天秤にかけるようなものじゃないと、気づいたんです」

 まっすぐ、桜子を見た。

「あなたへの想いが軽いから、帰るわけじゃない。家族への悔いを抱えたまま、ここで幸せになることが、私にはできそうにないんです」

 その言葉に、桜子は、静かに涙をこぼした。

「分かりました」

「サクラコ殿」

「悲しいです。本当に、悲しい」

 桜子は、涙を拭いながら、まっすぐ仁を見た。

「でも、仁さんの気持ちも、ちゃんと分かります。私だって、同じ立場なら、確かめずにはいられない」

「一緒には、来てくれないんですね」

 仁が、静かに尋ねた。

「はい」

 桜子は、きっぱりと答えた。

「私、ここに居場所を見つけたんです。はぐれ者だった私を、必要としてくれる人たちがいる。それを、手放したくありません」

「それが、あなたの答えですか」

「はい」

 桜子は、深く息を吸った。

「仁さんがいなくなっても、私は、ここで生きていきます。寂しいけど、それが、私の選んだ道だから」

 安堵と哀しみが、仁の目に同時に浮かんだ。

「あなたらしい、答えですね」

「仁さんも、仁さんらしい選択をしてください」

 桜子は、小さく微笑んだ。

「家族に会って、ちゃんと謝ってください。そして、できることなら、幸せに生きてください」

「サクラコ殿にも、幸せになってほしい」

「なります」

 桜子は、きっぱりと言った。

「一人でも、ちゃんと」

 二人は、しばらく、無言で見つめ合っていた。

 別れは、まだ確定していない。けれど、その輪郭は、もう、はっきりと見え始めていた。

「最後まで、桜子先生として、傍にいてくれますか」

 仁が、そう尋ねた。

「もちろんです」

 桜子は、涙を拭いながら、精一杯の笑顔を浮かべた。

「出発の日まで、ちゃんと、見届けます」

 窓の外には、穏やかな午後の光が、静かに差し込んでいた。

 選べない想いを抱えたまま、二人は、それぞれの答えに向かって、歩き始めていた。

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